VRは、ゲームや動画、コミュニケーションなど、さまざまなコンテンツに変化をもたらしている。
そのひとつが、ジャーナリズム。
我々がテレビニュース番組や新聞、WEBニュースなどで毎日ほぼ必ず触れるジャーナリズムに、どんな変化が起ころうとしているのか?
VR技術を用いたジャーナリズムについてこの記事でお伝えしたい。
イマーシブ・ジャーナリズム(Immersive Journalism)とは
実は、まだVRが話題になる前からジャーナリズムに変化が起こり始めていた。
2012年、ニューヨークタイムズは「Snow Fall」という長編記事をWEBで発表。
スマートフォンのウェブサイトで見られる視差効果(パララックス)を用いて強化された演出に、画像や動画、音声といったマルチメディアを駆使したこの記事は、ピューリッツァー賞を受賞。
ウェブの報道記事というレベルを超えて没頭、没入することから「イマーシブ(Immersive=没入)コンテンツ」と呼ばれるようになった。
そして、「Snow Fall」が見せた新たな表現形式が話題になったことから、「Snow Fall」のような形式を持つ報道コンテンツが増加。
読者を没頭、没入させることを手段とするジャーナリズム=「イマーシブ・ジャーナリズム(Immersive Journalism)」というジャンルを形成するに至った。
つまり、ジャーナリズムはVR普及前から「読者をより没頭、没入させたい!」という動機を持っていたということ。
そして、この「没頭、没入」というのに適した技術が、VRだ。
このため、現在VRを用いた「イマーシブ・ジャーナリズム(Immersive Journalism)」が増加しつつある。
それでは、具体的な事例を見ていこう。
1日1本360°動画をアップロードする「The Daily 360」プロジェクト
「Snow Fall」を生み出した「イマーシブ・ジャーナリズム」のさきがけ、「ニューヨークタイムズ」がSamsungと提携して配信しているのが「The Daily 360」。
「Daily=日刊」とついている通り毎日1本ずつ、360動画の形式で報道を行うというもの。
閲覧はYoutubeで可能だ。
スマホVRゴーグルを用いて「The Daily 360」鑑賞すると、今、世界で起きている出来事に自分が立ち会っているような感覚になれる。
時事問題の解説や報道を行うことというジャーナリズムの定義を、この上なく体現したVRコンテンツと言えるだろう。
フジテレビとGREEが共同で行う震災のVR報道
フジテレビとGREEが共同で行うVRプロジェクト「F×G VR WORKS」は、『ジャーナリズム × VR 「私はこの場所で被災した」』と題したVRコンテンツを制作している。
360°動画形式で作られたドキュメンタリー番組で、360°画像の一部に他の画像をオーバーラップさせるなど、「ただただ、360°形式で画像を切り取った」という表現にとどまらない、VRならではの新しい表現を実現。
これによって、テレビや映画といった既存のドキュメンタリーを大きく超える没入感が味わえる。
シリア内戦の凄惨さを伝える「SMART News Agency」による「Nobel’s Nightmare」
「SMART News Agency」という通信社が制作したVRコンテンツ「Nobel’s Nightmare」は、シリア内戦の状況を伝達するVR動画。
こちらもYoutubeで閲覧することが可能だ。
シリアの崩壊した建物の状況や、逃げ惑う人々の姿が撮影されており、スマホVRゴーグルで鑑賞すると、現地の悲壮感や無力感、不安感といったものをまざまざと実感させてくれる。
現在、日本に住む我々が、日々目にしている風景からすると、シリアの風景はまさしく現実離れした風景だ。
しかしそんな現実離れした風景でも、VRだと「これは間違いなく地球のどこかで起きている現実なのだ」と認識させるパワーを持っている。
BBC(英国放送協会)によるVRニュース動画配信試作品
BBC(英国放送協会)もまた、試作ではあるもののVRニュース動画配信を行っている。
「Step inside the Large Hadron Collider」という360°動画では、CERNの大型ハドロン衝突型加速器について伝えている。
ジャーナリズムでは一般人が触れることの難しい場所や機関を報道することも多いが、一般に触れることができないものというのは、なかなか理解することも難しいものだ。
しかしVRならば、そうした一般とは遠い場所、機関が表現されていても、「その場に存在するかのような臨場感」が理解の手助けをしてくれる。
そういう意味で、VRとニュース動画の相性は非常によいといえるだろう。
TIME社発行の「LIFE」がVR技術を取り入れ生まれ変わった「LIFE VR」
TIME社が発行した雑誌「LIFE」は、VR技術を取り入れて「LIFE VR」という形で生まれ変わった。
「LIFE VR」はスマートフォンの専用アプリとして提供されており、アプリのメニューからVRコンテンツを選んで鑑賞する。
スマホVRゴーグルがあればVR動画として、なくても360°動画として閲覧可能だ。
コンテンツとしてのクオリティは高く、深い没入感が得られるものの、1コンテンツ当たりのデータサイズが大きく、閲覧に時間がかかるのがちょっと残念だ。
時事ネタを即座にありのままに伝達できる時代へ
VRがもたらすジャーナリズムの変化は、没入感だけではない。
既存媒体によるジャーナリズムでは、どうしても現場の風景のすべてをありのままに伝えるということはできなかった。
通常のカメラでは360°の風景を一度に写すことができないからだ。
このため、どんな映像であっても、意識的にせよ無意識にせよ「伝えようとする部分」と「伝えない部分」が生まれていた。
ところが360°動画では、360°の風景をありのままに映し、現地の空気感すら伝達することができる。
地球上のどこかで今日起きたことが、インターネットとVRによって即座に伝わるようになった…ということは、ジャーナリズムにとって大きな進化といえるだろう。
ただ一方で、情報の受け手としては、ありのままに見える映像も、実はジャーナリストの主観が混じっているということを失念してはならない。
どんな映像も意図的にある場面を映さないということや、BGMによって抒情性を高めるといった編集が行われている。
これは何も「やらせ」といった話ではなく、どんな情報であれ、「伝えるべきところ」と「伝えないべきところ」が取捨選択されているということだ。
VRによって情報の真実味がアップしていく今後、受け手としてもより高いリテラシーが必要になるのではないだろうか。
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