海外メディアVenturebeatは、モバイルAR市場についての考察記事を掲載した。
「モバイルAR市場」の誕生
「モバイルAR市場」とは、スマホを活用したARアプリおよびARプロダクトから構成された市場のことを指している。この言葉の定義からすると、昨年起きた「ポケモンGO」の大ヒットはモバイルAR市場における現象のように思われる。しかし、昨年までは「スマホアプリ市場」はあっても「モバイルAR市場」はなかったので、同アプリの大ヒットはあくまでひとつのスマホアプリに関する出来事だったのだ。
今日的な意味での「モバイルAR市場」は、Facebookが先月開催した開発者会議「F8」において、同社CEOのマーク・ザッカーバーグが「カメラをARの最初のプラットフォームにします」と宣言したことで誕生した。この宣言以降、「ポケモンGO]のようなスマホARゲームあるいはSnapchatのようなARカメラアプリは、約10年前から存在している「スマホアプリ」ではなく、VRアプリとともに新進気鋭のアプリである「ARアプリ」のコンテクストで語られるものとなった。
「モバイルAR市場」の規模を知るうえで欠かせない対概念が「ハイエンドAR市場」である。「ハイエンドAR市場」とは、ARテクノロジー専用のデバイスから構成される市場を意味する。具体的には、MicrosoftのHololens、Meta2、Magic Leap等から成り立っている。ただ同市場は、厳密にいえば、まだ誕生していない「黎明期」にある。というのも、いずれのARデバイスも製品版ではなく開発版をリリースしているか開発中だからだ。
「モバイルAR市場」と「ハイエンドAR市場」は、想定しているメインユーザー層が異なっている。前者は既存のスマホユーザー全般である。後者は、Microsoftの最近の動向から推察すると、企業をメインユーザーに据えているように思われる。
モバイルAR市場マップと各プレイヤーのポジション
海外メディアVenturebeatは、モバイルAR市場の業界マップを掲載した。そのマップが以下である。
モバイルAR市場マップの見方
以上のモバイルAR市場マップは、各企業のロゴの位置が市場におけるポジションを表している。ポジションを理解するためには、マップの座標軸の意味を知る必要がある。
同マップの横軸は、各企業が「ハードウェア開発企業」か「ソフトウェア開発企業」のいずれに属しているかを示している。AppleやGoogleは、ARハードウェアを開発済みか開発中なので「ハードウェア開発企業」に属する。対して、FacebookやSnapchatは「ARアプリ」を開発しているので「ソフトウェア開発企業」に分類される。
縦軸は、企業が同市場における潜在的な「プラットフォーマー」なのか、それとも「プラットフォーマー」に対抗する「チャレンジャー」なのかを示している。なお、誕生したばかりの同市場にはまだ実質的なプラットフォーマーがいないことに留意すべきである。
以下に、同市場で覇権を競う各企業のポジションを解説する。
Apple
Appleは、現在のところARスマホもARアプリもリリースしていない。しかし、同社CEOのティム・クック氏がARへ傾倒していることは、本メディアでも再三報じてきた。
(参考記事)
「AppleのCEO、Tim Cook「私が考えるに、ARはVRよりも巨大になるだろう。それも、大差をつけて」」
「Apple CEO ティム・クックが発言「AppleはずっとARに夢中だ、しかしARはまだ十分に理解されていない」」
「アップルCEOティム・クックが発言「ARとはプロダクトではなく、コア・テクノロジーなのです」」
以上のような同社CEOの発言と同社に関する噂を総合すると、同社が何らかのARテクノロジーを製品化することはもはや疑いえない。そして、同社開発のARデバイスは、同社の技術力とiOSにおける実績から評価すると、極論すれば「一夜にして」モバイルAR市場を制覇するプラットフォーマーとなるポテンシャルを秘めている。
同社は、2017年6月5日から9日にかけて同社開発者会議「WWDC 2017」を開催する。同イベントでは、次期iPhoneの仕様が発表されることが確実視されている。この発表によって、モバイルAR市場の今後が決まるだろう。
前述のように、Facebookは同市場を「発明」した立役者である。さらに先月開催された「F8」において、ARカメラアプリプラットフォーム「Camera Effects Platform」をリリースしていることから、同社はARアプリ市場のプラットフォーマーになることに自覚的である。
もっとも、同社はARデバイスを開発しているという話はないので、「ARハードウェア」プラットフォーマーになることは当面はなさそうである。
Tencent
中国アプリメーカーであるTencentは、すでに中国において大きなシェアを誇るSNSサービス「Qzone」やチャットアプリ「WeChat」を展開している。
同社は「中国のFacebook」的な立ち位置に占める可能性が高い。なぜならば、中国ではFacebookの使用が規制されているからである。中国国内に限れば、同社は競争相手のいない「ひとり勝ち」状態になるだろう。
GoogleはすでにスマホAR機能「Tango」をリリースしている。同機能は、仕様のみに着目すればHololensのようなハイエンドARデバイスに匹敵する性能を持っている。しかしながら、同機能を実装しているスマホが現在は「PHAB2 Pro」「ZenFone AR」のみと少数なので、直ちにプラットフォーマーになるには至らないだろう。
なお、先日開催された同社開発者会議「Google I/O」において発表されたAIとARの複合機能「Google Lens」は大きなポテンシャルを秘めている。同機能を活用したアプリ市場の成長が後押しとなって、同社がプラットフォーマーになる可能性もある。
SansungとHuawei
SansungとHuaweiは、それぞれAndroidスマホのトップメーカーである。それゆえ、Androidに何らかのAR機能が標準実装された場合、ARスマホのトップメーカーになる可能性が高い。
もっとも、現在もプラットフォーマーではないように、モバイルAR市場のそれになることは難しいだろう。
Snap
SnapCahtを開発するSnapは、同市場においてすでに一定数のユーザーを囲い込んでいる。しかし、同社は今まで「アプリメーカー」という立ち位置で振舞ってきた。
既存ユーザー数だけ見ると、同社は「プラットフォーマー」の候補である。しかし、いつまでも「アプリメーカー」という自己認識を続けていると、Facebookの後塵を拝することになるだろう。
Alibabaと百度
中国オンラインサイト最大手のAlibabaと検索サービス大手百度は、それぞれ自社のARアプリを開発・リリースすれば、たちまち中国国内でトップシェアを獲得できるだろう。
中国市場は、一国だけでも世界市場に影響するほどの規模があるので、中国国内でトップとなる上記2社の動向は注意すべきである。
誰が勝者となりえるか?
以上のようにモバイルAR市場における主要企業のポジションを確認すると、自ずと「明日の勝者」も見えてくる。
現時点でもっとも市場をリードしているのは、同市場の名付け親でもあるFacebookである。同社は、自社のSNS会員をARアプリのユーザーとして囲い込めるというメリットもあるので、よほどの失策がない限り今後も同市場をリードしていくだろう。
しかしながら、同市場の運命が決まるのは、やはりAppleの動向である。そして、その「運命の日」はもう少しで訪れる。
モバイルAR市場についての考察したVenturebeatの記事
https://venturebeat.com/2017/05/28/the-factions-of-the-mobile-ar-war/
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