海外メディアGuardianは、ロンドン・シティ空港がARディスプレイ搭載の管制塔を導入したことを報じた。
リアルより「見晴らしのいい」ディスプレイ
同メディアによると、イギリス・ロンドンの近郊にあるロンドン・シティ空港は、2019年より航空機の管制業務をリモート管制塔で実施する。
リモート管制塔がある場所は、同空港より80マイル(約130KM、東京から静岡県沼津市くらいの距離)にあるSwanwickで、管制業務には航空管制業務の世界的企業Natsがあたる。
リモート管制塔には、当然ながらロンドン・シティ空港の滑走路の映像がリアルタイムに送信されている。映像送信には、14台のカメラが使われており、滑走路に対して死角のないように360°に対応して設置されている。この360°の映像は、管制塔にあるアーチ状に湾曲したディスプレイに225°に圧縮されて写される(トップ画像参照)。画像が圧縮されることにより、管制官は360°の情報を後ろを見ることなく確認することができるのだ。つまり、リアルな管制塔で目視で確認するより死角がないことになる。
ディスプレイには拡大・縮小機能も実装されており、小さく表示されている目標を拡大すれば、より正確に状況を把握できる。
なお、リモート管制塔には滑走路付近の音も中継されている。音は管制業務に直接関係ないように思われるが、航空機が発する音が聞こえた方が管制官は業務に集中しやすい、とのこと。もっとも、中継音は実際より小さく聞こえるように調整されている。
航空機の情報をAR表示
滑走路の様子をディスプレイ表示にしたことによって、さらなる恩恵がもたらされた。その恩恵とは、航空機情報のAR表示だ(上の画像参照)。
こうしたAR表示機能に関して、ロンドン・シティ空港の管制長Alison FitzGeraldは以下のように述べている。
AR表示を見たらきっと驚かれると思いますが、この機能は管制業務をゲームライクに実行したくて実装したわけではありません。
航空機がだすコール・サイン、飛行区域の様々な情報、天候といった情報を同時ははっきりと理解するために、AR表示にすることに決めたのです。このAR表示は、目視で確認するより多くの情報を与えてくれます。
また、視界が悪くなる夜間には設置したカメラのほかに、ドローンに搭載されたカメラが滑走路の見えにくいところを写すのだ。
セキュリティも万全
リモート管制塔の導入でもっとも注意しなければならないのは、インターネット・セキュリティだ。航空機の情報が、送信中にハッキングでもされたら、大事故につながってしまう。
Nats社の航空管制長Mike Stolle氏によると、同システムのセキュリティは通常回線から独立しているうえに、3重のセキュリティが施されるいる、とのこと。その結果、現行のリアルな管制塔による業務よりセキュリティは向上した。
なお、同システムはあくまで航空管制業務をリモートで行うことを目的としており、管制官の業務自体を削減するものではない。そのため、リモート管制塔導入後も引き続き現在の管制官が職務にあたり、勤務体制も現在と同じ3交代制とし、ひとりの管制官が同時に複数の航空機を担当しない鉄則も維持される。
航空機メーカー「Saab」とは
以上のようなリモート管制システムを開発したのは、スウェーデンの航空機メーカーSaabだ。同社はもともとスウェーデン軍の戦闘機の製造から創業され、一時は民間機も製造していたが、現在は軍用機のみを製造している。
同システムの開発には、同社が開発した戦闘機「サーブ 39 グリペン」のノウハウが生かされている。同機は機体相互の情報共有を重視する戦術思想「ネットワーク中心の戦い」にいち早く対応したことで知られており、電子通信機器の拡張性に優れている。リモート管制システムが実現したのは、同機開発によって蓄積された航行機通信技術とARテクノロジーが融合した結果であろう。
ARの導入が進む航空業界
航空業界は、最新テクノロジーの導入に積極的である。上記の事例のほかにも、本メディアではニュージーランド航空が機内サービスにHololensを導入することを研究中であることを報じた。
ARの業務への導入は、航空業界のほかにも小売業界等でも進んでいる。この流れは、ゲーム以外の分野での利用がなかなか進まないVRとは対照的である。近い将来、AR表示されない「リアル」の方が少ない世界が実現するのかも知れない。
ロンドン・シティ空港がARディスプレイ搭載の管制塔を導入したことを報じたGuardianの記事
https://www.theguardian.com/business/2017/may/19/remote-air-traffic-control-preparing-for-takeoff-at-london-city-airport
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