海外への輸出や高付加価値商品の需要が広がるなか、日本酒の世界でも「目の前の一本が本物か」「どのような場所や人の手で造られたのか」を分かりやすく伝えることが求められています。特に、長期熟成酒や限定生産品は希少性が高く、模倣品や不正流通から守る仕組みが欠かせません。
ただ、商品の価値は本物であることを証明するだけでは伝わりきらないものです。酒蔵の歴史や造り手の思い、味わい方まで知ることで、その一本はより身近な存在になります。こうした「信頼」と「物語」を、ブロックチェーンとNFCタグで届ける取り組みが始まりました。
天文17年(1548年)創業の吉乃川株式会社は、高付加価値銘柄の真贋証明と商品ストーリーの提供に、SBIトレーサビリティ株式会社の「SHIMENAWA(しめなわ)」を導入しました。
470年以上の歴史を持つ酒蔵とデジタル技術の接点

吉乃川は、新潟県長岡市で470年以上にわたり日本酒を醸してきた老舗酒蔵です。雪深い新潟の風土のなかで酒造りを続け、日常に寄り添う銘柄から、原料や製法にこだわった特別な銘柄まで幅広く展開しています。
今回の対象となるのは、吉乃川が手がける高付加価値銘柄です。商品のボトルに開封検知機能を備えたNFCタグを貼り付け、正規品であることをデジタル上で確認できるようにします。
歴史ある酒蔵が大切にしてきたブランドの印象を損なわないよう、既存のボトルデザインとの調和にも配慮しながら導入が進められています。
スマートフォンをかざして確認する一本の「履歴」

NFCは、対応するスマートフォンなどを数cmほど近づけることで情報を読み取れる通信規格です。今回の仕組みでは、消費者がボトルに付いたタグへスマートフォンをかざすと、商品の真贋や開封状態、関連情報を確認できます。
タグはボトルの封を切る動きに反応するため、未開封かどうかも把握できます。購入したその場で状態を確認できることは、希少性の高い日本酒を手にする人にとって、一つの安心材料になりそうです。
また、開封の有無をデジタルで証明できる仕組みは、生産者側にとっても模倣品や不正流通への対策につながります。商品とデジタル上の情報がひも付くことで、一つひとつの現物を識別しやすくなります。
真贋証明の先にある酒蔵の物語との出会い

タグの役割は、本物であることを証明するだけではありません。読み取り後に表示される専用ページでは、杜氏のコメントをはじめ、お酒の特徴や料理とのペアリング、生産背景などが紹介されます。
ボトルを手にした人が、飲む前や食事の席で情報に触れられるのが特徴です。商品情報だけでなく、造り手の考えや土地の風土を知ることで、手元の一本に親しみを感じられる設計となっています。
真贋を確認するための技術が、そのまま酒蔵と消費者をつなぐ入り口にもなっています。安心を提供するとともに、商品の背景にある物語まで届けられる点が今回の取り組みの特徴です。
現物とデジタル情報を結ぶ「SHIMENAWA」
「SHIMENAWA」は、ブロックチェーンとIoT(NFCタグ)を組み合わせ、商品などの現物とデジタル情報を結び付けるトレーサビリティ・サービスです。一つひとつの現物へ固有IDを付与し、真正性の確認や関連情報の記録・管理を行います。
ブロックチェーンは、電子署名やハッシュポインタを用いてデータの変更履歴を共有・管理する技術です。記録の改ざんを難しくする性質があり、商品の真正性を支える仕組みとして活用されています。
「SHIMENAWA」では、タグを入り口としたデジタルコンテンツの配信に加え、利用・配布履歴の記録、入出荷・在庫管理などにも対応しています。商品の管理だけでなく、その背景やブランドの魅力を購入者へ直接届けられる点も特徴です。
今回使用されるのは、株式会社Uni Tagと共同開発されたロゴ入りの専用NFCタグです。吉乃川では、開封状態の確認と商品ストーリーの提供を一つの仕組みにまとめ、高付加価値銘柄の信頼性を支えながら、消費者が酒造りの背景に触れられる接点として活用します。
受け継がれてきた価値を次の人へ伝える仕組み
日本酒の価値は、味わいや希少性だけで決まるものではありません。どこで造られ、誰がどのような思いを込めたのかという背景も、一本を選ぶ大切な理由になります。一方で、商品が国内外へ広く流通するほど、生産者の顔や酒蔵の物語は消費者から見えにくくなりがちです。
今回の取り組みで印象的なのは、模倣品対策と情報発信を別々に考えず、一つのタグで結んでいる点です。本物であることを確認したその先に、杜氏の言葉やペアリングの提案が待っています。ブロックチェーンは表から見えにくい技術ですが、長く受け継がれてきた酒造りへの信頼を支え、その価値を次の人へ伝える役割を担います。歴史あるものづくりと新しい技術が自然に結び付くことで、安心して選べるだけでなく、一本をより深く味わうきっかけにもなりそうです。
