消費者の購買行動を大きく変える契機となった「EC」。登場から現在に至るまで、どんな進化を遂げてきたのか。今回は、日本のインターネット環境に革命をもたらした「Yahoo! BB」の登場に注目します。ソフトバンクが提供を開始したこのサービスにより、高速かつ低価格なインターネット接続を可能にし、EC市場の成長を後押しする大きな契機となりました。なぜ「Yahoo! BB」はこれほどの影響力を持ったのか。その裏には、孫正義氏による伝説的な行動や、全国で展開されたユニークな普及戦略がありました。日本のネット社会を塗り替えた軌跡をたどります。【連載第7回:ECの進化とシステムの変遷】
Yahoo! BBの登場が変えた通信環境とEC市場の進化
2001年、インターネット環境に革命をもたらす出来事が起こりました。それが、ソフトバンクによる「Yahoo! BB」のサービス開始です。当時、日本の通信回線はISDNが主流で、通信速度も遅く、料金も高額という状況でした。そんな中、ソフトバンクの孫正義社長は、ADSL(電話回線を流用して行う高速データ通信)を用いた低価格で高速なインターネット接続を実現する「Yahoo! BB」を投入し、市場に衝撃を与えました。
孫正義氏が挑んだ逆風と伝説のエピソード
Yahoo! BBのサービス開始当初、NTTの設備解放が進まず、ソフトバンクは大きな障害に直面しました。この状況を打破するため、孫社長は総務省に直接乗り込み、「この状況が続くなら、僕にとって事業は終わりだから、もうYahoo!BBを止めてると記者会見をする。その帰りにここに戻ってきて、ガソリンをかぶっていくと」と詰め寄ったというエピソードが語り継がれています。この大胆な行動は、彼の情熱と覚悟を象徴するものとして今も語られています。
「パラソル部隊」による普及戦略
Yahoo! BBの普及において特筆すべきは、全国各地で行われた大規模な宣伝活動とモデムの無料配布です。街角にパラソルを立て、スタッフが「無料ですのでお持ち帰りください」と声をかけながらADSLモデムを配布する姿は、「パラソル部隊」として広く知られるようになりました。この戦略により、Yahoo! BBは急速に家庭に浸透し、多くの人々が初めて高速インターネットを体験するきっかけとなりました。

林雅也
株式会社ecbeing 代表取締役社長
日本オムニチャネル協会 専務理事
1997年、学生時代に株式会社ソフトクリエイトのパソコンショップで販売を行うとともに、インターネット通販の立ち上げに携わる。1999年にはECサイト構築パッケージ「ecbeing」の前身である「ec-shop」を開発し、事業を推進。2005年に大証ヘラクレス上場、2011年に東証一部上場へ寄与。2012年には株式会社ecbeingの代表取締役社長に就任。2018年、全農ECソリューションズ(株)取締役 JAタウンの運営およびふるさと納税支援事業を行う。2020年からは日本オムニチャネル協会の専務理事を務め、ECサイト構築パッケージecbeingの導入サイトは1600サイトを超える。