消費者の購買行動を大きく変える契機となった「EC」。登場から現在に至るまで、どんな進化を遂げてきたのか。第4回となる今回は、小さな画面・低スペック・遅い通信速度であったモバイル通販をどのように実現していたのか。モバイルECのテクノロジーについてまとめます。【連載第4回:ECの進化とシステムの変遷】
モバイル(ガラケー)ECのテクノロジー
スマートフォンやアプリを使って買い物するのが当たり前となった今、これらのない暮らしは想像できなくなりつつあります。とはいえモバイル黎明期は、商品を購入するまでのハードルは決して低くありませんでした。ガラケー全盛期だったころは端末の画面は小さく、インターフェイスはテンキーのボタンのみ。タップ操作なんてありません。通信インフラも低速が前提。画像を表示させるのさえ少々の間がありました。
ECサイトは当然、こうした環境を想定しなければなりません。例えばドコモ系端末なら独自の簡易 HTML(cHTML)、au(ezweb)系端末なら では HDML という言語が使われたように、キャリアに応じたシステム開発も余儀なくされていました。さらに端末ごとに動作が異なることを想定し、システムの検証には市場に出回る大量の端末を用意。端末ごとの動作を検証するのが当たり前でした。
3G(第3世代移動通信システム)の登場によってECサイトでも商品画像などを多用するようになったものの、画像の表示は機種ごとに異なるため、機種ごとに画像の表示を最適化するソリューションを使うケースも珍しくありませんでした。
一方、NTTドコモが「iモード」を市場投入後、iモードの公式サイトは高いセキュリティと信頼性を特徴に打ち出せるようになりました。これにより、安全な環境で商品を購入できる素地が整ったものの、公式サイトと認可されるまでの審査のハードルは決して低くありませんでした。審査では、コンテンツがキャリアのガイドラインに沿って作成されているか精査がされました。しかしそれでも、「iモードの公式サイト」という肩書きは大きな集客を見込めることから、iモードを前提としたECサイトが台頭するようになったのです。
ちなみに公式サイト以外のサイトは「勝手サイト」と呼ばれ、端末識別コードの取得などに制限がありました。さらに、当時のモバイル用ブラウザはクッキーを使えませんでした。そのためセッション管理が困難を極めていました。
なお、当時のマーケティング施策といえば「メール」が主流。ECサイトを運営する事業者などは利用者にメールを送信し、メールから商品購入までのプロセスを描くことに注力していました。しかし、メールが強力な販売チャネルであったものの、大量のメール送信は規制の対象に。モバイルへのメール配信はキャリアごとに独自の制限が課されるようになったのです。そこで、大量のメールアドレスにメール配信できる仕組みが必要となりました。
なお、利用者の会員登録には「空メール」と呼ぶ手法が当時から活用されてきました。利用者に空メールを送信することで、利用者はメールアドレスを入力する手間を省けます。「空メール」手法を駆使し、ECサイトなどは利用者を容易に囲い込めるようになったのです。現在の主流である「QR コード」と同じ役割を「空メール」が果たしていました。
その後は決済サービスも登場。 NTT ドコモは 2005 年 7 月、「ケータイ払いサービス」を開始し、物販代金なども携帯料金と合算で支払えるようになりました。au(KDDI)も「まとめて au 支払い」を導入するなど、ECサイトを取り巻く環境はさらに進化していくことになります。

林雅也
株式会社ecbeing 代表取締役社長
日本オムニチャネル協会 専務理事
1997年、学生時代に株式会社ソフトクリエイトのパソコンショップで販売を行うとともに、インターネット通販の立ち上げに携わる。1999年にはECサイト構築パッケージ「ecbeing」の前身である「ec-shop」を開発し、事業を推進。2005年に大証ヘラクレス上場、2011年に東証一部上場へ寄与。2012年には株式会社ecbeingの代表取締役社長に就任。2018年、全農ECソリューションズ(株)取締役 JAタウンの運営およびふるさと納税支援事業を行う。2020年からは日本オムニチャネル協会の専務理事を務め、ECサイト構築パッケージecbeingの導入サイトは1600サイトを超える。