AI(人工知能)の進化が加速する中、世界各国でAI人材の獲得競争が激化しています。その最前線を行くのがシンガポールです。同国政府が、今後2年間でAIプラクティショナーを「400人」育成するという大規模な国家戦略を発表しました。この動きは、日本企業がAI時代を生き抜く上で、何を学び、どうDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めるべきか、重要なヒントを与えてくれます。
AI人材育成に「国家」が本腰を入れる理由
シンガポール政府のIMDA(情報通信メディア開発庁)は、AI Singapore(AISG)および業界と提携し、AI実務者の雇用とトレーニングの機会をさらに400人分提供する2つの新しいトレーニングプログラムを開始する予定です。
一つは、2025年6月に開始される「AI見習いプログラム(産業)(AIAP(I))」です。これは、地元の人々にAI、データ、機械学習のスキルを習得させ、6カ月間のプログラムを通じて実社会のプロジェクトでスキルを磨く機会を提供するもので、2年間で300人のAIプラクティショナーを養成することを目標としています。修了後は、AI COE(中核拠点)や大手企業での採用が可能となります。
もう一つは、2025年後半に開始が予定されている「ピナクルAI産業プログラム(PAIP)」です。これは、フロンティア企業のAIプラクティショナーをモデル構築のエキスパートに育成する6カ月の集中フルタイムプログラムで、3年間で100人のAI人材を育成することを目指しています。
シンガポール政府がAI人材育成に大規模な投資を行っているのは、AI人材の確保が企業の競争力だけでなく、国家の競争力に直結するという認識が世界的に高まっているためです。
PwCの2025 Global AI Jobs Barometerによると、AIスキルを持つ労働者の賃金は2024年に平均56%上昇しており、AIへの露出度が高い職種でも雇用が増加していることが示されています。これは、AIが雇用を奪うという悲観論に対し、新たなスキルと高賃金をもたらす可能性を示唆しています。
日本においても、SHIFT AIが法人向け生成AIリスキリングサービス「SHIFT AI for Biz【ChatGPTコース】」を2025年6月3日よりアップデートしたことからも、リスキリングサービスの需要が高まるのは必然です。企業は既存社員のリスキリングと、外部からのAI人材獲得の両面で戦略を立てる必要があります。
シンガポールの事例は、AI人材育成を個社の努力に任せるだけでなく、国家レベルで戦略的に推進することの重要性を示しています。日本企業は、自社のDX推進だけでなく、国や教育機関と連携し、AI人材の育成エコシステムを構築していく視点を持つことが、今後の成長に不可欠となるでしょう。
詳しくは「IMDA(情報通信メディア開発庁)」まで。
レポート/DXマガジン編集部海道