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徹底的に突き詰めたミッション、ビジョン、バリューを打ち出すカンリー、ベンチャーならではのカルチャー醸成が成長を後押し


DXマガジンは2024年2月7日、定例のセミナーを開催しました。今回のテーマは「ベンチャーカルチャーが経営を変える!~スタートアップ思考が企業の成長を促す~」。スピード感ある経営が魅力のスタートアップ企業の強みに迫りました。大企業にはない意思決定の速さ、斬新なアイデアを具現化する能力、全スタッフが一丸となって突き進む姿勢など、スタートアップ企業ならではの企業風土や社員の意識などについて議論しました。

当日のセミナーの様子を動画で公開しています。ぜひご覧ください

DXを推進し、新たな事業を成長の柱にしたい――。こう考える企業は少なくありません。しかし、企業の中には「社員のモチベーションが低い」「アイデアを提案しても何も変わらない」「意思決定が遅く、DXを加速させられない」などといった課題を抱えるケースが目立ちます。多くの企業がDXを思うように進められずにいるのが現状です。

こうした足かせを取り除く方法はないものか。この答えとして参考になるのがスタートアップ企業です。大企業と違って意思決定は速く、新たなアイデアを醸成し、実際に製品・サービス化するまでのスピード感も併せ持ちます。DXを進められずにいる企業は、スタートアップ企業ならではの俊敏性を参考にすることも必要です。

では、スタートアップ企業は、企業風土をどう育んでいるのか、社員のモチベーションをどう高めているのか、意思決定をどのようなフローで進めているのか…。

今回のセミナーでは、2018年8月に設立したカンリー 代表取締役Co-CEOの辰巳衛氏が登壇。起業から現在に至るまでの成長の軌跡を紹介するとともに、店舗の集客媒体に掲載する情報を一元管理する同社のSaaS「Canly(カンリー)」を開発・提供するまでの経緯などにも触れました。さらに、企業風土や社員のやる気をどう育んできたのかといったベンチャーならではの視点も解説しました。

ステークホルダー最大化を目指すミッション、ビジョン、バリューを定義

セミナー前半は辰巳氏が講演。創業間もない企業ながら、「カルチャーの醸成にはこだわってきた」(辰巳氏)と自社ならではの強みをセミナー参加者に訴えました。

そもそも同社は2018年に創業。Googleマップやアプリ、ホームページ、SNSなどといった店舗の集客媒体として使われるサービスを一括管理する「Canly(カンリー)」を提供します。「Canly」をリリースして3年。導入店舗数はすでに55,000店舗を超えるといいます。同社において辰巳氏は、同じく代表取締役Co-CEOを務める秋山祐太朗氏と“共同代表”という形で経営の手綱を握ります。

辰巳氏は「Canly」を展開する背景について、「店舗を構える飲食や小売事業者は、ポータルサイトやWebチラシ、地図サービス、アプリなどのさまざまな媒体を使って情報発信している。こうした発信媒体は増え続ける一方で、店舗事業者の負担は膨大になっている」と指摘します。「例えばキャンペーンを実施すれば、各媒体でキャンペーン情報を個別で発信しなければならない。営業時間などの店舗情報を変更するケースも同様だ。こうした面倒な作業に費やす時間を削減できるのが『Canly』だ」(辰巳氏)と強調します。

「Canly」を利用すればGoogleやYahoo!、Appleなどの地図サービスをはじめ、アプリやホームページ、ポータルサイトなどの店舗の集客媒体に掲載する情報を一元管理し、情報を一括で更新したりデータをまとめて分析できるようになったりします。同社は今後も国内外の集客媒体との連携数を拡張しつつ、「店舗のマーケティング施策の最適化に向けて邁進していく」(辰巳氏)と言います。

写真:カンリー 代表取締役Co-CEO 辰巳衛氏

では、経営者としてカンリーのどんな未来を描くのか。同氏はステークホルダーの幸せと向き合うことがカンリーの基本姿勢であると強調します。「カンリーでは特定のステークホルダーの幸せのみ追求すればよいとは考えない。顧客(お客様)はもちろん、取引先、株主、従業員、社会といったすべてのステークホルダーに目を向け、“幸せの総量”を最大化することに主眼を置く」(辰巳氏)と指摘。企業は自社に関わるすべての人の“幸せ”を増やすための事業運営に注力すべきと訴えます。

そのための手段となるのが、「ミッション、ビジョン、バリューである」(辰巳氏)と続けます。同社では、ミッション「店舗経営を支える世界的なインフラを創る」、ビジョン「店舗の顧客接点を最適化する」、バリュー「1.お客様の理想から入れ 2.まずやってみろ 3.圧倒的当事者意識 4.利他主義でいこう 5.正直であれ」を掲げ、“幸せの総量”を最大化するための具体的な考え方として定義しています。「ミッション、ビジョン、バリューの定義や役割を明確にし、従業員で共有している。『何のための行動か』『なぜ必要か』といった問いと向き合ったときの行動指針となる考え方や価値観を示している」(辰巳氏)と、その必要性を指摘します。

ミッション、ビジョン、バリューを従業員に浸透させる取り組みも重要だと辰巳氏は指摘します。「従業員への理解と定着を図るには、伝え続けることが何より大切だ。例えば昔のエピソードを交えるなどして、いろいろな形でミッション、ビジョン、バリューを想起できるようにしている」(辰巳氏)といいます。同社では2~3週間の頻度で、ミッション、ビジョン、バリューの大切さを経営陣が社員に伝える機会を設けます。さらにバリューを浸透させる場として、「WINSESSION(ウィンセッション)」と呼ぶ全社会議を週次で開催。従業員にアンケートを実施し、バリューを実現した社員を表彰しています。こうした取り組みを続けた結果、「社員同士の会話やチャットにも、バリューで用いる言葉が自然と使われるようになった。社員の行動や発言がバリューとどう結びついているのかを、社員は常に意識しながら行動している表れである」(辰巳氏)と、社員の変化も感じ取ります。

セミナーではそのほか、コミュニケーション活性化に向けた具体的な取り組み方法や、2人の共同代表が経営に関わることで得られるメリットや成功の秘訣なども紹介しました。

大企業はベンチャー企業のカルチャーを参考にせよ

セミナー後半は、モデレーターでデジタルシフトウェーブ 代表取締役社長の鈴木康弘氏と辰巳氏が対談しました。「カルチャー変革が企業の成長を促す」をテーマに、日本企業のカルチャーをどう育むべきかを議論しました。

鈴木氏は米企業を例に、「若い社員が多い企業は勢いがあるし、急成長も見込める。しかし、10年や20年経ったとき、当時と同様の成長を見込めるとは限らない。社員は年齢を重ね、考え方も変わる。プライベートでは結婚するなど、安定かつ保守的な考えが芽生え始めるかもしれない。企業はこうした社員の状況も踏まえて、より成長するための適切な施策を打ち出さなければならない。何十年前のカルチャーを引きずらず、定期的にアップデートすることも大切だ」(鈴木氏)と指摘します。

写真:デジタルシフトウェーブ 代表取締役社長 鈴木康弘氏

一方、ベンチャー企業やスタートアップ企業について、「働き方が自由だったり、やりがいを感じやすかったりするのがベンチャー/スタートアップ企業のメリットだ。半面、仕事量が多かったり責任が大きかったりといったデメリットがあるのも否めない。ベンチャー/スタートアップ企業のカルチャーは、こうした状況下で成り立っている。大企業が真似できる面もあるが、大企業に馴染まないカルチャーも多い」(鈴木氏)と前置きした上で、「ベンチャー/スタートアップ企業の多くが、ミッション、ビジョン、バリューを徹底的に追求し、その姿勢を貫くことにこだわっている。企業規模が大きくなるほど、失われている視点ではないか。ベンチャー/スタートアップ企業がなぜ、全社一丸となって目標に突き進めるのか、なぜ従業員が主体的に仕事をできるのか。大企業はこの問いと向き合い、ベンチャー/スタートアップ企業の姿勢を参考にすることが大切だ」(鈴木氏)と訴えます。

辰巳氏もベンチャー/スタートアップ企業と大企業の違いについて言及します。「双方の一番の違いは『制約』ではないか。ベンチャー/スタートアップ企業は人もいない、資金もない、情報も少ない。しかしそれでも大企業に勝たなければならない。つまり大企業を真似し、同じ戦略を打ち出しても勝つことはできない。カルチャーももちろん同じだ。どんなカルチャーが良いか悪いかではなく、どんな状況でも前進し続けるための姿勢や風土を根付かせなければならない」(辰巳氏)と考察します。さらに、「大企業は一般的に、主体性や自由度が損なわれ、挑戦する風土もないと言われる。そんな中でも変革を進めるなら、ベンチャー/スタートアップ企業ならではの『人がいない』『資金がない』『情報がない』といった環境で事業を成長させる視点がヒントの1つになるのではないか」と指摘しました。

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