有限会社エイコー印刷(本社:大分県別府市古市町、代表:安部 秀徳)は、シールやラベルといったオーダーメイド製品を手掛ける印刷会社です。特に、自社の製品はすべて異なるプロセスを経て生産されるため、納期管理は一筋縄ではいかない課題でした。受注情報の共有や製造進捗の把握は、常にスムーズでなければならず、それができないとお客様への納期回答に遅れが生じてしまいます。このような課題を解決するため、エイコー印刷はLINE WORKSとAppleWatchを活用した社内のDX化に挑戦しました。目的は明確であり、従業員全員が使いやすいツールを導入し、効率的な情報共有を実現することです。
エイコー印刷においては、製造スタッフが納期に関する情報を確実に把握する必要がありました。そのため、複数の工程を経る受注品に対して、各工程の進捗情報を把握することが欠かせませんでした。しかし、これらの情報は口頭での伝達や紙ベースの管理に頼っており、情報の伝達速度や正確性に問題を抱えていました。特に繁忙期には、忙しさから情報の伝達が遅れ、営業部門が納期確認のために電話をかけるケースが頻繁に見られました。このような非効率的な状態を打破すべく、エイコー印刷はデジタルツールを導入することを決意しました。
LINE WORKSは、エイコー印刷が選んだ情報共有ツールです。このアプリは普段のコミュニケーションで使っているLINEに似たインターフェースを持っているため、社員たちが抵抗感なく使用できる点が大きな利点です。全社員がインストールし、活用方法についてのトレーニングを行うことで、すぐに運用を開始することができました。これにより情報伝達がスムーズになり、ログも残ることで、後からの検証も容易になるなど、業務の透明性が飛躍的に向上しました。しかし、製造中の忙しい現場では、スマートフォンの通知に反応しにくいという新たな問題が浮上しました。
LINE WORKSだけでは解決しきれなかった問題に対処するため、エイコー印刷はAppleWatchを導入しました。工場内の機械音の中では、音による通知が聞こえにくく、スタッフは情報を受け取る機会を逃してしまうことが多かったためです。このため、各部門のリーダーにAppleWatchを支給し、通知を振動で知らせる仕組みを整えました。部門リーダーは手首に通知を受け取った後、周囲のメンバーにすぐに情報を共有できるため、納期確認の時間がわずか数分に短縮されました。このシステムにより、従業員は作業に集中でき、必要なときだけスマートフォンを取り出すという快適な環境も実現しました。
AppleWatchの導入から1週間が経つと、現場でのLINE WORKSを用いたコミュニケーションが格段に増加しました。部門間での情報共有が行いやすくなり、ヘルプ要請や緊急対応の依頼が迅速に行えるようになりました。それによって、各部門の忙しさも把握でき、全体の業務の透明性が向上したことで、職場の雰囲気も一層活性化しました。また、スタンプなどの感情を表現するツールが使われ始め、新しいコミュニケーションツールとしても活用されています。このように、LINE WORKSとAppleWatchの併用は、エイコー印刷の社内コミュニケーションに新たな風を吹き込むこととなりました。
エイコー印刷がこのDX化にかけた費用は、AppleWatchの購入代として約259,200円(税込)だけでした。LINE WORKSは無料で利用可能な範囲内で十分に活用でき、低コストで大幅な業務改善を実現したのです。このように、特にITリテラシーの高くない中小零細企業にとっても、手軽に取り組むことのできるDX事例として注目されます。社内全員がデジタル化を進める中で、エイコー印刷は「誰一人置き去りにしない等身大のDX」を実現しました。
エイコー印刷のDX化は、社内コミュニケーションの円滑化、業務の効率化、生産性の向上、さらに従業員の安全性も高めるという多くの成果をもたらしました。使いやすい身近なツールを駆使することで、誰もが取り組みやすく、互いにサポートし合う文化が育まれています。これからもエイコー印刷は、社員の声を尊重しつつ、さらなる改善と進化を目指していくことでしょう。
執筆:香田雄大