いよいよ12月。今年も多くの楽曲がリリースされ、日本の音楽シーンを大きく変える楽曲が次々と登場しました。
そこで今回は2017年の音楽シーンをおさらい。LINE MUSIC・AWA・Google Play Music・Spotifyの4サービスで聴ける楽曲の中から、筆者の独断と偏見で「2017年の音楽シーンを沸かせたアーティスト&楽曲」をピックアップして紹介します。
「Let It Sway/DYGL」
複雑なコード構成・ダンスナンバーを彷彿とさせる4つ打ちのリズム……2000年代後半から邦ロックシーンは、ロックンロールを離れ独自の変化を遂げてきたように思えます。
そんな現在の音楽シーンの中に現れた「DYGL(デイグロー)」は、正に原点回帰とも言えるロックンロールの雰囲気を残すバンドです。
シングルコイル特有の軽いサウンドに、ビートがリズミカルに刻まれるギターカッティング……と、彼らのサウンドに目新しさは一切ありません。
ですがサウンドの輪郭を明確にする磨き抜かれたバンドアンサンブル、シンプルに聴こえるように考え抜かれたソングライティングはThe Beatles・The Velvet Underground・The Strokesが築き上げたロックンロールそのもの。
純度の高いロックであれば、音楽に革新性はいらない……そう現在の邦ロックに呼びかけるようなサウンドは、日本のロックシーンを大きく変える期待すら感じさせます。
「It's Who We Are/Nulbarich」
Suchmosの登場を機に、シティポップ色が強まった日本の音楽シーン。
Suchmos、Yogee New Wavesなど……数多くのシティポップバンドが新作を発表した2017年で、筆者が個人的に輝いていたシティポップの一つと感じたのがNulbarich(ナルバリッチ)の「It's Who We Are」です。
歯切れのいいカッティングのギター・ビートを的確に刻むリズム隊など、アシッドジャズライクな展開がサビに入ると一変。動きのあるベースラインや華やかなオルガンが加わり、キャッチーなポップスへと印象を変える1曲です。
さらに英語と日本語……語感の異なる2つの言語を組み合わせて独特のリズムを生むボーカルも特徴的。ポップスの定石にはないリズムのボーカルが、ポップミュージックの中にグルーヴィーなアシッドジャズのエッセンスを加えています。
「SURELY/never young beach」
Nulbarichがアシッドジャズとシティポップの融合だとするなら、こちらは昭和歌謡とシティポップの融合。
前作「fam fam」で火が付き、今年「A GOOD TIME」でメジャーデビューを果たしたnever young beachです。
彼らのサウンドを一言で表すなら現代の加山雄三。サスティーンを程よく効かせながら重なる3本のギターが、昭和歌謡風のメロディにトロピカルなサウンドを加え、独特のハッピーな雰囲気を醸し出します。
ですが端々にサイケデリックなギターソロが差し込まれ「ただ古臭い曲」になっていないのがすごい所。はっぴいえんど、サニーデイ・サービスから脈々と続くシティポップの遺伝子を感じさせつつも、昭和歌謡の奥ゆかしさが残る1曲です。
「エレクトリック・パブリック/ポルカドットスティングレイ」
スマホアプリのアートディレクターの傍らバンド活動。音楽のみならず映像演出も手掛ける。そして何よりかわいい!
音楽以外の面で注目を集めることが多かった雫が、フロントマンを務めるポルカドットスティングレイです。
筆者も最初は「音楽以外の面の物珍しさで注目されている」程度にしか捉えていませんでしたが、この「エレクトリック・パブリック」を聴くと印象は一変。
チープなバッキングから一気に残響感溢れるギターリフが重なる狂気的なイントロ。ボーカルを軸にした王道的なAメロ・Bメロ。そして一気にダンスナンバーに変えるサビ。
ワンコーラスで曲の表情を何度も変化させるジェットコースター的な展開で、常に刺激的な1曲になっています。
「逃げ水/乃木坂46」
AKB48の登場以降、日本はアイドル中心の音楽シーンへと変化していきました。そうしたアイドルシーンを牽引するグループの一つ乃木坂46。
そんな彼女らの「逃げ水」は、筆者が今年聴いた中で「最も完成度が高い」と感じた楽曲です。
どこか物悲し気なピアノのメロディが印象的な1曲。ですがピアノの音がEDMライクな4つ打ちのリズムの裏にアクセントとして挿入され、サンバのような聴き心地を持たせるアレンジがされています。
この「ピアノのセンチメンタルな旋律×EDM調のリズム××サンバのアクセント」の組み合わせが、「楽しい夏が瞬く間に過ぎていってしまう」焦燥感やセンチメンタルになる心の微妙な揺れ動きを感じさせる内容。
まさに日本最高峰の楽曲制作の仕事を覗ける1曲と言っても過言ではありません。
「感情のピクセル/岡崎体育」
2500万回再生を記録するモンスターMV「MUSIC VIDEO」で、瞬く間に名前を知らしめた岡崎体育。
筆者は「コミカルなMVとリリックが受けただけの一発屋になるのでは……」と予想していましたが、そうした浅はかな予想を大きく覆したのが「感情のピクセル」です。
歪んだ豪快なギターのバッキング、疾走感あふれる8ビートのドラム……ポップテイストの「MUSIC VIDEO」とは正反対の印象で始まるこの曲。
ですがサビの第一声は「どうぶつさんたち だいしゅうごうだ わいわい」と、まるで子供番組を思わせる歌詞。「ハードな楽曲」のな印象を大きく裏切る……正に岡崎体育ワールド全開のリリックが展開されます。
「MUSIC VIDEO」同様に「思わずクスッとくる」要素を持ちつつも、ポップからロックまで幅広くこなすサウンドメイクの才能を持つ彼は、とても一発屋で終わる器ではないと感じました。
「Rude/yahyel」
VIVA LA ROCK 2017やSYNCHRONICITY’17など、出演するフェスでは入場規制となるほど。
James Blakeを思わせるボーカル・サンプリング・シンセサイザーによる空間系サウンドに加え、生の臨場感を強めるVJ・ドラムが加わったパフォーマンスが注目を集める5人組バンドがyahyel(ヤイエル)です。
今回紹介する「Rude」は、透き通るボーカル、電子的なシンセサイザー・金属的な音のサンプリングにより構成されるリフレインが特徴的な楽曲です。
相反する3つの要素が組み合わさるにも関わらず、聴こえてくるのは讃美歌のように美しい音色。三位一体となった美しいサウンドに耳を傾けていると「えっ、もう終わったの!?」と、時間の流れを忘れるほどです。
単調になりがちなリフレインを最後まで飽きさせることなく、独特のトリップ感で曲に没入させてしまう内容になっています。
「Dali/PELICAN FANCLUB」
[Alexandros]やUNISON SQUARE GARDENなど、音楽シーンの第一線に君臨するバンドを多く輩出するUK PROJECTが、大きな期待を寄せているのがPELICAN FANCLUB。
浮遊感漂う美しいシューゲイザーサウンドに、ロックの王道とも言える歌メロが乗せられる……独特のサウンドが魅力的なバンドです。
キレイな旋律のシューゲイザーと、ゴリっとしたロックの共存はできないと考えるのがごく一般的。
ですがボーカルのエンドウの歌声はハイトーンボイスが美しく伸びつつも、軸がブレずにどっしりとしたもの。まるでシューゲイザーとロックの要素を併せ持つかのような歌声が、相反する2つの要素をマッチさせ、ミステリアスなサウンドの中に心地よさを作り出しています。
ジャンルの違う音楽をボーダレスにする圧倒的な歌唱力は、正に天才と呼ぶにふさわしいもの。近年の邦ロックのみならず、邦楽全体でもトップを争えるレベルです。
「さよならプリズナー/yonige」
「君に投げつけたアボカド」「そりゃもうバリバリバリバリバーン」と、思いつくままに歌ったかのような歌詞でありながらも、独特なリズムの置き方で歌われる楽曲が印象的なガールズバンドyonige。
この「さよならプリズナー」でも「なんにもない なんにもない なんにもない なんにもない」や「君がいない日々は 牢屋のがマシかもな」といった独特の言い回しのリリックが綴られます。
ですが歌詞の節々に見られるのは、恋人との別れをネガティブに綴るワード。恋人との別れに前向きになれない……そんな醜い自分をまるでギターでかき消そうとしているかのような、豪快なサウンドが不思議と切なく感じてしまうほどです。
明るくもあり、どこかに悲しさを秘めている……飾らずに等身大の自分と向き合う彼女たちさしさを存分に感じる内容です。
「赤橙/ACIDMAN」
11/23に行われた「SAITAMA ROCK FESTIVAL “SAI”」には、ASIAN KUNG-FU GENERATION・RADWIMPS・Dragon Ash・ストレイテナー・BRAHMANなど、フェスの大トリクラスのバンドが出演。
そんな中、出演する全てのバンドから「彼らが主催だから出演を決めた」と言わしめたアーティストがACIDMANです。
淡々としながらも、オンコードを多用した独特のメロディ&歯切れのよいミュートのリフで始まる彼らの代表曲。印象的なリフに目が行きがちですが、注目すべきは質の高いバンドアンサンブル。
ボーカル&ギターが主張する場面ではベース・ドラムは脇役に徹しながらも、ボーカルが切れたタイミングでは歌うようなベースラインが挿入。イントロからサビまで常にスキマを作らない緻密なバンドアンサンブルが、「本当に3ピース!?」と思うくらい重厚なサウンドを構築します。
結成から20年……常に「バンドを構成する最小限の人数でできる音楽」を追い求める情熱の礎となる楽曲です。
複数のジャンルを組み合わせた楽曲が、2017年の音楽シーンを席巻
アシッドジャズ×シティポップのNulbarich、アイドル×サンバの乃木坂46、ロック×シューゲイザーのPELICAN FANCLUBのように、今年の音楽シーンは複数のジャンルを掛け合わせた楽曲に注目が集まった印象を持ちました。
もちろん今回紹介した楽曲以外にも、今年の音楽シーンを象徴する曲はあります。10曲だけでは満足できない……そう感じる人は、音楽配信サービス等で心行くまで音楽に浸かってみてもよいでしょう。