短頭種の顔の特徴は人とのコミュニケーションに影響するだろうか?
フレンチブルドッグやパグなどマズルの短い短頭種の犬は、マズルの長い他の犬種とはかなり違う顔立ちを持っています。
彼らの鼻ぺちゃの顔や大きな丸い目は人間に「可愛い」という感情を抱かせ、それが人気の理由のひとつにもなっています。
しかし、この他の犬種とは極端に違う顔の特徴は、犬と人間のコミュニケーションに何らかの影響を及ぼしていないでしょうか?
この点について、チェコのチェコ生命科学大学とハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学の研究チームが調査を行ない、その結果が報告されました。
ボストンテリアとジャックラッセルテリアで人々の反応を比較
調査の焦点は、人間が犬の発するシグナルを見た時の解釈に短頭種の顔の特徴が影響するかどうか、またシグナルを正しく解釈する人間の能力に短頭種犬との経験が影響するかどうかでした。
調査は一般募集された参加者に、ビデオや画像を見せて回答してもらうという形式で行われました。このビデオ作成には、短頭種代表としてボストンテリア16頭、普通のマズル代表としてジャックラッセルテリア7頭が飼い主と共に参加しました。
彼らはSNSなどを通じて一般募集された犬たちで、この2犬種はマズルの長さ以外の体格やサイズがよく似ていることから選ばれたそうです。
犬は一頭ずつ飼い主とともに実験室に入り、その行動と表情がビデオと写真で記録されました。記録されたのは2つのポジティブな状況(実験者が犬の名前を呼ぶ、実験者が犬とボールで遊ぶ)と、2つのネガティブな状況(飼い主が実験室から1分間退室する、実験者から威嚇される)でした。
ネガティブな状況の「飼い主との分離」では、飼い主が戻ってきた時の犬の反応も記録されました。「実験者からの威嚇」とは、実験者が猫背すり足で犬の目を見ながら犬にゆっくりと近づいていくというものでした。
(威嚇の姿勢で1.5メートルまで近づいた時点で、実験者は犬の名前を呼んでボールを出して遊び、犬の緊張を和らげたそうですのでご安心ください。)
短頭種の愛嬌のある顔立ちが状況判断に影響している可能性
上記の要領で撮影されたビデオと写真の中からそれぞれの状況に対応するものが選ばれ、350名の回答者を対象にしたオンライン調査に使われました。
回答者の年齢は18〜73歳、平均年齢33.3歳、参加者のうち90%が犬を飼っており、25.5%が短頭種の犬の飼育を経験していたそうです。
回答者は犬の反応をビデオ(音声は入っていない)や静止画像で見て、犬がどのような状況で(ポジティブなのかネガティブなのか)、どのようなシグナルを発しているのかを推測して回答していきます。
回答を分析した結果、一般的にボストンテリアについての回答ではポジティブな状況やシグナルは正しく推測する傾向が強かったが、ネカティブな状況やシグナルの推測は正答率が低くなっていました。
一方、ジャックラッセルではネガティブな状況でも正答率はボストンテリアの場合よりも高くなっていました。
ボストンテリアが実際には怖がったりストレスを感じている状況なのに、マズルの長い犬に比べてそれが人々に伝わりにくいという傾向が明らかになったということです。
また回答者の多くは、ジャックラッセルでは顔や尻尾を見て状況を推測しましたが、ボストンテリアでは胴体を見て推測したという回答が多く見られました。
これはボストンテリアはマズルの長い犬に比べて顔の筋肉の動きが少なく、尻尾が極端に短いためであると考えられます。ボストンテリアの身体的特徴は、ストレスサインを出して伝える上でハンディキャップになっているというわけです。
人々がボストンテリアのストレスに関するシグナルをうまく読めない時に「これはポジティブな状況だ」と判断してしまうことについて、ボストンテリアの大きな丸い目や愛嬌のある低い鼻から、回答者は常にハッピーな状況を当てはめてしまうのではないかと研究者は述べています。
ボストンテリアにポジティブな状況を当てはめがちな傾向は、過去に短頭種の犬と暮らした経験のある人でも同じでした。
犬がストレスを感じているのに飼い主は犬がハッピーだと思ってしまうというのは、犬にとって不幸なことです。一方、犬が発しているシグナルを理解できないことは、犬種の人気に影響しないようだという結果は皮肉とも言えます。
まとめ
ボストンテリアとジャックラッセルテリアのシグナルから人々に犬の状況を推測してもらうという調査から、ボストンテリアでは多くの人がネガティブなシグナルをうまく読み取れなかったという結果をご紹介しました。
短頭種の身体的特徴が、健康に及ぼす影響については数多くの調査や研究が実施されていますが、短頭種犬と人間のコミュニケーションに関する調査は過去に例がありません。
短頭種犬と人間との関係をさらに深く理解し評価するために、今後さらに研究が進められるとのことです。
《参考URL》
https://doi.org/10.1016/j.applanim.2023.106134
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