米国の企業が開発中の犬の寿命を延ばす薬
一般的に犬の平均寿命は、体のサイズによって差があることはよく知られています。超大型犬の平均的な寿命は小型犬の約半分くらいで、大きい犬と暮らす人々が心を痛める点でもあります。
アメリカのバイオテクノロジー企業ロイアル・フォー・ドッグスは、サイズによる犬の寿命のギャップを埋めるべく、大型犬や超大型犬の寿命を伸ばし生活の質を向上させる薬を開発しています。
同社は先日、米国食品医薬品局(人間用と動物用両方の医薬品を規制するアメリカの機関)がこの薬について「効果が期待できる」と判断したと伝え、犬の寿命を延ばす薬の市場投入に一歩近づいたと発表しました。
2026年の販売開始を目指して試験をスタート
今までのところ、米国食品医薬品局は動物や人間の寿命を伸ばす薬を承認していません。当局からロイアル社への返答は、提出された実験データに対してのものです。
この薬によって犬の寿命が延長することはまだ証明されていませんが、食品医薬品局の判断はロイアル社のデータが高く評価されたことを示しています。
同社は2024年から2025年にこの薬の大規模な試験を開始し、薬の安全性と製造データの審査を申請する予定です。
2026年の食品医薬品局の条件付き承認の取得を目指しているとのことで、この条件付き承認が下りれば、大規模な診療試験が完了する前であっても販売を開始することができます。
仮に2024年に臨床試験を開始しても、本当に犬の寿命が延びたかどうかを確認するのは10年ほど先のことになるはずです。
同社が2026年を目標にしている条件付き承認とは、重要な医療上の目的がある薬として、臨床試験が完了していなくても当局が5年間の一時的な承認を与えるというものです。
実験中の薬は、獣医師が3ヶ月から6ヶ月に1回注射するよう設計されており、価格は1ヶ月あたり50〜60ドル程度が想定されているそうです。
寿命を延ばす薬の働きと専門家の心配
この薬は、IGF-1と呼ばれる成長と代謝に関与するホルモンのレベルを低下させるよう働きます。IGF-1は体の大きさにも関連しており、大型犬はIGF-1のレベルが高くなる遺伝的変異体を持っており、小型犬はレベルが低くなる別の変異体を持っています。
ミミズ、ハエ、マウスでは、このホルモンを抑制すると寿命が延びることが示されているそうです。
ロイアル社の初期の研究では130頭の犬に治験薬を投与した結果、大型犬のIGF-1レベルを中型犬のレベルまで低下できることを示したといいます。注射の後1〜2日お腹が緩くなった犬が2頭いたそうですが、それ以外に大きな副作用は確認されなかったとのことです。
ロイアル社は、この薬について「単純に生きている時間を延ばすのではなく、健康寿命を延長させるもの」としています。
犬の老化や寿命は多くの科学者が研究の対象としており、そのような専門家の中には、ロイアル社の薬に対して警鐘を鳴らす人々もいます。
ある獣医遺伝学者は、「IGF-1は犬の体格と寿命に関連する因子の一つに過ぎず、これだけをターゲットにするのは時期尚早だと思います。」とコメントしています。
また、ある獣医倫理学者は愛犬に長生きして欲しいという飼い主の熱意が、新薬の販売という巨大な利権に悪用される可能性を懸念しています。「この薬は犬のためではなく飼い主のためのものではないでしょうか。私は自分の犬には与えたいと思わない。」というコメントもあります。
まとめ
大型犬と超大型犬の成長と代謝に関わるホルモンレベルを低下させて寿命を延ばす薬が、米国食品医薬品局から一定の評価を得たことで、実用化に一歩近づいたという話題をご紹介しました。
超大型犬の短命は長年にわたる選択育種の悪影響の一つであり、人間の責任です。この責任をとるためには、遺伝的な因子に配慮した繁殖方法の見直しに着手することが必要です。
もし私が超大型犬と暮らす飼い主だったらと考えると、まだ若くて健康な犬に新しく開発されたばかりの薬を長期的に投与するのは、躊躇するだろうなあと思います。
《参考URL》
https://www.nytimes.com/2023/11/28/science/longevity-drugs-dogs.html
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