年をとっても良好な認知機能を保つ要因とは?
人は誰でも年をとると記憶力や認知機能が低下します。しかしこれらは全ての人に同じように影響するわけではなく、高齢になっても良好な認知機能を保っている人もいます。
人間の平均寿命が伸びている現在、高齢になっても良好な認知機能を保つための要因を知ることは、ますます重要なテーマとなっています。
ペットとの生活が高齢者の身体的な健康を保つことに関連していることは過去の研究でわかっていますが、ペットと認知機能の低下に焦点を当てた研究は今までほとんどなかったそうです。
このたびアメリカのメリーランド大学の成人健康学の研究チームが、高齢者を対象に犬猫の飼育、認知機能の変化との関連を調査した結果を発表しました。
犬や猫と暮らすことは認知機能低下予防と関連しているだろうか?
この研究は、1958年に開始されたアメリカで最も長い歴史を持つ、ヒトの老化に関する科学的研究であるボルチモア加齢変化研究のデータを分析したものです。
この加齢研究では参加者から定期的にデータを収集しており、データ収集期間中には参加者の認知機能テスト(80歳以上は毎年、80歳未満は4年ごと)も実施され、その経年変化が分析されます。
今回の調査では、2020年3月までの10年間で収集された637名の参加者のデータが分析されました。参加者の年齢は51歳から101歳、平均年齢は75歳でした。
637名のうちペットを飼っている人は全体の29%の185名で、11%が猫、13%が犬を飼っていました。犬を飼っている人のうち69%が犬と散歩をしていると回答しています。
犬猫との暮らし、特に犬の散歩は認知機能低下を遅らせる!
データを分析した結果、すべての参加者は加齢とともに認知機能の低下を示していました。しかし、ペットを飼っている人は飼っていない人に比べて、この低下が緩やかでした。
ペットを飼っている人の認知機能低下の速度は、すべてのテストにおいて同じというわけではなく、実行機能/言語機能/記憶力との関連が明らかだったことから、ペットの飼育が特定の認知機能に関連している可能性が示されました。
また犬の散歩をしている人は認知機能低下の速度がより緩やかで、特に思考運動速度と情報処理速度が保たれていたこともわかりました。
ペットの存在がストレス軽減や血圧低下に関連することはわかっているので、これらが認知機能の低下を遅くしている可能性があります。
犬の散歩については、運動量の増加と地域社会との関わり合いという2つの大きな要因が、認知機能を保つことと関連している可能性があります。
また犬の飼い主は、実行機能/思考運動速度/情報処理速度の低下が緩やかであることについて、犬の世話のためにこれらのスキルをより頻繁に使用しているからではないかと考えられます。
犬の飼い主は家庭内と散歩中の両方で犬の行動を監視し、環境的な変化(他の犬が近づいてきた、宅配便が届いた、など)に素早く反応して、対応しなくてはならないことが多々あります。
これらのことは、猫との暮らしよりも身体能力や実行機能を必要とするため、これを日々繰り返し行なうことが、加齢による認知機能低下を抑えているのかもしれないとのことです。
まとめ
アメリカでの長期に渡って収集されたデータから、犬や猫を飼っている人は認知機能低下のスピードが緩やかだったという調査結果をご紹介しました。
この研究結果は、認知機能低下に関連する要因を理解するために重要な知見を示すものです。ただし今回の研究デザインでは、ペットの飼育が認知機能低下を遅らせることの因果関係までは説明できないため、今後さらに研究が必要だということです。
高齢の方がペットを飼うことについて心配や批判をする声は少なくありません。しかしこのような研究結果を活かして、高齢者への保護犬猫の一時預かりプログラムへの参加など、人にも動物に優しい対策が立てられるようになってほしいものだと思います。
《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s41598-023-41813-y
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