バレエを習っている(習っていた)方なら一度は見聞き、または経験するのが「バレエ教室の移籍問題」です。移籍に関しては、人によって考え方が異なり、ハッキリとした”正解”があるわけではないため、価値観の相違からトラブルが起こることがあります。
筆者自身は、21年間同じバレエ教室で習っているため移籍の経験はないのですが(今後も予定なし)、これまでに「移籍に際して先生との関係が悪化した」「ひとりの移籍をきっかけに、移籍が相次いで気まずい」などの体験をSNSや周囲で見聞きしました。
実際に、つい最近SNSで移籍の相談をされたこともあり、非常に難しい問題だと感じています。
そこで今回は、InstagramやTwitterを使用し、バレエ教室の移籍を経験した方の体験談を集めました。筆者の個人的な見解も交えて、バレエ教室を移籍する際のポイントもお伝えします。
■ バレエ教室移籍の経験がある人は約半数。主な理由は?
InstagramのストーリーズやTwitterのアンケート機能を使い、バレエ経験者に移籍の有無を尋ねたところ、以下の結果となりました。
【バレエ教室を移籍したことがある?】
・ある……51%
・ない……49%
※総票数=168票
- - - - -
約半数の人がバレエ教室の移籍を経験しているようです。
移籍経験者には移籍の理由も尋ねてみました。特に多かったものを紹介します。
【バレエ教室を移籍した理由】
・引っ越し、親の転勤
・子育て、介護などで時間が取れなくなった/レッスン時間に間に合わなくなった
・先生、仲間、ママ友(子どもが習っている場合)との人間関係
・レッスン内容への不満
・レベルが合わない
- - - - -
大きく分けて、引っ越し・親の転勤、環境の変化によりレッスン時間に間に合わなくなったなど「物理的に通えなくなったケース」と、人間関係やレッスン内容、レベルを理由に移籍したケースの2タイプに分けられます。
なお、「レベルが合わない」という理由には「プロを目指すために、コンクールや留学に力を入れている教室に移籍した」(=レベルを上げた)パターンと「プロを目指す子が多く、レッスン内容が難しすぎたため移籍した」(=レベルを下げた)という2パターンがありました。
■ 移籍することを先生にどう伝える?経験者たちの答え
「バレエ教室移籍問題」で最も難しいのが、移籍したい旨を先生にどう伝えるかという部分です。先生によっては、移籍することを快く思わない場合やショックを受ける場合もあります。
移籍を経験した方に「先生にどう伝えたか」も尋ねてみました。
【バレエ教室の移籍、先生にどう伝えた?】
・「ちょうど受験の時期だったので、勉強を頑張りたいと嘘をついて辞めた」
・「往復2時間かけて週5回通っていたが、高校の先生に『大学に行くなら辞めろ』と言われたため移籍した。決してバレエが嫌いになったわけでも、先生が嫌なわけでもないと伝わるようにと、高校の先生に言われたことをそのまま伝えた」
・「正直に伝えても先生の気を悪くする可能性があるため、なるべく曖昧に辞める旨だけ伝えた」
・「辞める具体的な理由は伝えなかった」
・「引っ越しが決まったこと、今まで大変お世話になったことと感謝を伝えた」
・「仕事が忙しくなった、体調が悪いなど、自己都合で辞めることを伝えた」
- - - - -
ご覧のとおり、人によって伝え方はさまざま。引っ越しなど物理的に通えなくなった場合はその旨を伝えるという方が多かったものの、レッスン内容に不満がある場合や人間関係が原因の場合は、辞める理由を曖昧にした方が多いようです。
ちなみに、先生側の意見も募集してみたところ、数件ですが「勉強に専念と言われたのに違う教室に行っていた。一言言って欲しかった」「移籍するのは本人の意思なので、特に何も思わない」といった回答が集まりました。
■ バレエ歴21年の筆者の考え
ここからは「レッスン内容に不満がある場合や人間関係を理由にした移籍」に関する筆者の個人的な見解です。物理的に通えなくなった場合の移籍は、正直に言うほかないと思うのでここでは省略します。
まず、移籍することは、本人または習わせている(お金を出している)保護者の自由です。先生も生徒も保護者も人間ですから、合う・合わないは当然ありますし、自分に合うレベル・レッスン内容を求めて移籍すること自体は決して悪いことではないと思います。
そのうえで、移籍をどう伝えるかについてですが、結局は、それぞれの教室や先生の考え方・価値観によって変わると思います。冒頭でも書いたとおり、ハッキリとした”正解”はありません。
ただし、これだけは最低限守るべきと思うことが3つあります。
【バレエ教室を移籍するときに守るべきこと】
1.失礼な伝え方、先生を傷つける伝え方はしない
2.発表会前や配役発表後の移籍は避ける
3.辞める理由に関して”バレる嘘”はつかない
- - - - -
一つひとつ解説していきますね。
1.失礼な伝え方、先生を傷つける伝え方はしない
どのような理由で辞めるにしろ、失礼な伝え方・先生を傷つける伝え方は避けましょう。例えば「先生のことが嫌い」「レッスンがつまらない」「ここでは上達できない」など。
これはバレエのマナーというより、人として大切なことだと思います。先生を傷つけることになりますし、トラブルに発展しかねません。また、噂などで移籍先の先生に「このような辞め方をしたらしい」と伝わり、警戒されてしまう可能性もあります。
2.発表会前や配役発表後の移籍は避ける
次に気をつけるべきこととして「発表会の配役発表後や練習中の移籍は避ける」というもの。
発表会の配役発表後や練習が始まってから辞めると、先生だけでなくほかの出演者にも迷惑をかけます。舞台を控えたタイミングで辞めることは、バレエ界では「御法度」。移籍先に伝われば受け入れてもらえない可能性もあります。
発表会に出ることが決まっているのであれば、辞めるのは必ず発表会が終わってからにしましょう。
さらに言えば、配役発表前であっても辞めることを決めたら早めに伝えるべきです。教室・先生によっては、発表会の1年以上前から配役や構成を考えていることもあります。
3.辞める理由に関して”バレる嘘”はつかない
最後に、「辞める理由に関して”バレる嘘”はつかない」ということも大切だと思います。
バレエ界は狭い世界です。「移籍元と移籍先の先生に繋がりがあった」なんてことは決して珍しくありません。特に、同じ地域の中で移籍する場合は、発表会やコンクール、ワークショップなどで移籍元の先生と顔を合わせることも起こりえます。
そのような中で、嘘をついて辞めても、遅かれ早かれバレてしまいます。例えば、先ほど紹介した先生側の意見「勉強に専念と言われたのに違う教室に行っていた。一言言って欲しかった」などは、まさに良い例です。辞めた当初は気まずさを回避できたとしても、バレるリスクや嘘をついた罪悪感はずっと残ります。移籍元と移籍先の先生間でトラブルに発展することもあるかもしれません。
辞める時点で移籍することがすでに決まっている場合は、移籍することも伝えたほうがよいでしょう。移籍の理由については、先生に失礼のないよう多少本音と違うことを伝えてもよいと思いますが(ただし、このときもバレる嘘はNG)、移籍自体を隠すことはおすすめしません。
バレエ・ダンス系の受験や留学を考えているなど、移籍を急ぐような事情がなければ、今所属している教室を完全に辞めてから教室探しをするのもひとつの手段です。この場合は「移籍先はまだ決まっていないのですが……」と言うことができます。
■ 感謝の気持ちを必ず伝えよう
非常に悩ましい「バレエ教室の移籍」に関して、経験者の意見や筆者の個人的見解を紹介しました。移籍に関して考え方は人それぞれです。万人に共通する正解はないと思います。
ただし、どのような理由で辞めるにしても、これまで指導していただいたことへの感謝は必ず伝えましょう。
移籍は、先生・生徒・保護者ともに労力のかかることです。一筋縄ではいかないことも多いと思いますが、感謝を伝えることに加えて、記事内で紹介した「失礼な伝え方、先生を傷つける伝え方はしない」「発表会前や配役発表後の移籍は避ける」「辞める理由に関して”バレる嘘”はつかない」もぜひ意識してくださいね。
(上村舞)