鉄道の安全な運行を支えている保線作業。多くは列車の運行が終わった深夜帯に行われるため、なかなか目にすることはありません。関西圏で鉄道軌道工事をおこなっている会社が、昼間に実施した枕木交換作業のタイムラプス動画をTwitterに公開。劣化した枕木を引き抜き、交換する早業を見ることができます。
動画を公開したのは、京都府京田辺市に本社を置く有限会社先中軌道の公式Twitter。国鉄の保線職員が独立して興した会社で、本社のある京都府のほか、大阪府、兵庫県、奈良県のJRや私鉄各社の鉄道軌道工事(レール交換、ポイント交換、枕木交換、バラスト交換)を行っています。
今回Twitterに公開されたのは、2022年10月17日~19日の期間に実施された、JR舞鶴線の昼間保守工事の様子。劣化し、交換基準に達した木製枕木が一定数発生した際に行われるもので、耐久性の高いPC(プレストレストコンクリート)製枕木に交換する作業です。
このような保線関係の工事は、列車の運行が終了した夜間に行うというイメージがありますが、今回は業界内で「拡大間合い」と呼ばれる昼間での工事となりました。ある一定の時間列車の運行を止めて、その間に集中して工事を行うというものです。綿密な調整が必要なため、実施されるのは年1回、この時期にしか行われないのだそうです。
工事に使われるのは、軌道(線路)上を走ることのできる「軌陸車」という特殊な車両。今回はバックホー(パワーショベル)のアームにアタッチメントを取り付け、劣化した枕木の交換と、仕上げのバラスト(砕石)道床突き固めを行います。
今回の工事で先中軌道が担当したのは、綾部駅~梅迫駅(駅間の営業キロは8.2km)のうち、延長にして760mの部分です。舞鶴線をはじめ、関西では大阪近郊を外れた地方の線区に行くと、まだまだ木製の枕木が現役という区間が多いのだとか。
交換作業に先立ち、工事区間を踏査して、交換基準に達した劣化した枕木を選び出し、レールを固定している「犬クギ」と呼ばれる特殊な釘を抜いておきます。撤去できる準備が整ったら軌陸バックホーが進入し、道床を形成しているバラスト(砕石)を取り除き、枕木をつまんで抜去。
抜き取った古い木製枕木は、作業の邪魔にならないよう一旦軌道敷の外側に仮置きし、後の回収に備えます。続いて、レールを固定するショルダー、振動を抑えて枕木やレールを保護する軌道パッドといった部品のついたPC枕木を挿入していきます。
所定の位置への挿入が終わると、今度は人力でクリップ状のバネ(パンドロールクリップ)を枕木のショルダー部分に打ち込み、レールと枕木を締結します。
枕木とレールが締結されると、周りにバラストを入れていき、固定作業に入ります。最後に軌陸バックホーに取り付けたスーパータイタンパという機械でバラストを突き固め、枕木1本の交換作業が終了。
枕木は1本ずつ劣化状況が違うので、連続で交換作業を行うとは限りません。場合によっては、次の交換対象まで50m以上移動することもあるといいます。このような作業を繰り返し、3日間で計211本の枕木を交換したそうです。
なかなか目にすることのできない保線作業の実際。有限会社先中軌道の先中裕喜社長は、今回の動画について次のように語ってくれました。
「保線というのは夜間工事がメインということもあり、人の目に触れることがない業種です。そこで弊社はYouTubeやTwitterで工事動画を投稿し、保線とは何か、どういう仕事をしているのか、どんな工事をしているか知ってもらうことが大事だと考え、ひいては保線業界全体のイメージの改善、仕事内容を広く知ってもらい、興味ある人がこの業界に入る切っ掛けになれば、と思っております」
先中軌道の公式TwitterやYouTubeチャンネルには、このほかにも関西の各線区で実施している各種の保線工事の動画や画像が紹介されています。普段利用している鉄道は、このような作業の積み重ねで安全に運行されているのかと、認識を新たにするかもしれませんよ。
<記事化協力>
有限会社先中軌道(@sakinakakidou)
(咲村珠樹)