街が美しいのは、人の生活の息づかいが感じられるから。
猫がいる街が美しいのは、そこに猫と人との生活がかいま見えるから。
こうして日々、ディスプレイとかスマホのモニタを見つめておりますと、ちょっと視線を外した先に人々の生活の息吹が見つかるのを忘れてしまいがちです。販売冊数とかPVとかMAUとかみたいな数字だけでユーザーや読者を認識してると、忘れちゃいがちなアレです。
いま見ているその先、その裏側には人間がいて、生活がある。そして猫もいて、猫との暮らしや生活がある。そんなことを改めて感じさせてくれる一冊が、7年分の旅猫写真を集めた、小林希さんの『世界の美しい街の美しいネコ 完全版』であります。
あえて「美しい」を重ねてくるところといい、コンプリート版とか総集編とかディレクターズカットとか今世紀最後とか言われると、ついつい指がクリック体勢になるキャッシュレス決済ピープルをくすぐる3文字を入れてくるところといい、購入決定プロセスはコンマ3秒で決まる人間の習性というか脆弱性を分かってる編集が担当だな感を堪能できるタイトルであります。
撮影箇所は世界37か国。光景だけでもフォトジェニックな街々の写真に、写り込むのは猫ネコねこ。美しき街で暮らす猫たちの、自然な姿。そして幸せな猫のストーリーを紡いだ書籍をパラパラとめくりますと、脳内には「遠くへ行きたい」のオープニングメロディがゆったりと流れ、ああ、行ってみたいな余所の国、歩いてみたいな猫の街という気持ちに包まれるわけです。
オンラインじゃなくてフロッピーディスクのほう「大航海時代」で育った昭和世代としては、今の現実を忘れるために昔の記憶が甦って参りまして、数十年前のキーボードをカチカチやりながらの大航海を思い出し、ああ、ポルトガルに、リスボンに行きたいなぁ。イワシ祭りで焼イワシ食べたいなぁ。トラム乗りたいなぁなどと思うころなのであります。
そのようなノスタルジーというか妄想を抱きながら、ポルトガルのページを開くと、目に映るのは石畳の真ん中を闊歩する猫。神社の参道の真ん中は神様の通り道などといいますが、これを見ると猫は神様なんじゃないかとさえ思われる神々しさであります。そう、サン・ジョルジェ城とか、サント・アントニオ教会 とか、エンリケ航海王子像とかもいいんですが、見たいのはこういう日常の何気ないシーンから感じられる、猫と人との生活なんであります。
猫が、こうして道の真ん中を我が物顔で歩けるのは、まさに平和な街の証拠。そういう穏やかな空気の漂う街が、世界中にこんなにあると伝えてくれるのであります。
「大航海時代」を「信長の野望 戦国群雄伝」に置換するとしっくりくる方は、日本の街猫を。「三国志Ⅱ」とか「項羽と劉邦」の方は中国の大陸の街猫を。「ランペルール」の方はフランスの街猫を、この一冊から探していただくとよろしいかと思われます。
[『世界の美しい街の美しいネコ 完全版』/エクスナレッジ]