夏季の「猫の王様」選び
スイスにある小さな村ロシニエールをご存じですか?
ここでは夏の間、子供をはじめ、アマチュアやプロの芸術家たちが制作した100点以上の「猫作品」が展示され、一般投票で「猫の王様」を選ぶイベントが行われます。
というのも、この村は愛猫家で画家のバルテュス (1908-2001)が住んだ場所だからです。彼は「Le Roi des chats」(猫の王様・1935年)をはじめとする、猫や少女をモデルとする作品を描いて有名になっています。
猫の展示作品は木材や金属、布などさまざまな素材で作られ、家と家の間や木の根元など、あちこちに配置されています。まるで村全体が「猫の王国」になったような風情です。
優勝者には、バルテュスの娘であるハルミ・クロソフスカ・ド・ローラさんが制作した「装飾杖」が贈られることになっています。
猫好きだった画家
フランス人バルテュスは、1930年代のパリで広く知られるようになった画家です。
近年になって、彼が11 歳のときに描いたペン画が注目されるようになりました。絵のモデルになったのは飼い猫だった「Mitsou」です。この猫はのちに行方不明になってしまい、少年だった彼の心を悲しみに沈めました。
当時彼がこれらのペン画を、母の親友である詩人ライナー・マリア・リルケに見せたところ、彼はその見事さにすっかり魅了されてしまい、小冊子にまとめて出版して、みずから序文まで書いたほどでした。
少年時代の作品が周囲を魅了
この冊子は巨匠画家ピエール・ボナールからも賞賛を受け、著名なドイツの出版者クルト・ウォルフは「驚異的で、ほとんど恐ろしいくらいだ」と評したほど、生き生きとした出来栄えだったといいます。
これらのペン画には、バルテュスが猫の横で勉強をしている様子や、 Mitsouが彼にネズミの死骸をプレゼントしている姿、猫と一緒にテーブルの下で遊んでいる光景などが描かれています。
また、バルテュスが行方不明になった猫を必死に探し、見つからずに大泣きしている場面も描かれています。
少年時代から猫を愛した画家バルテュス。もしまだ生きていたら、彼の住んだ土地で猫をたたえる行事が開催されていることを、誇りに思ったに違いありませんね。
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