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「第3の親指」を追加された時に脳は柔軟な対応ができる


ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの研究チームは、人間の手に「第3の親指」を追加するデバイスを開発し、その操作が脳に与える影響を調査しました。参加者たちは足首に取り付けたセンサーを使い、つま先の動きでこの「第3の親指」を制御しました。実験では、参加者が短期間で新しい親指を自在に操作できるようになり、運動タスクの効率が向上しました。しかし、研究は脳への影響を強調しています。fMRIを用いた調査で、参加者の指に関する神経表現が収縮していることが判明。これにより、人体拡張が脳の可塑性に与える影響についての懸念が生まれています。特に、若年層への影響についての更なる調査が求められています。また、類似の研究として、日本の電気通信大学は腕の筋肉の電気信号を利用したデバイスを開発しており、より自然な制御方法の探求が進んでいます。

腕が1本増えたら便利かもなんて想像をすることはありますか?


もしそんな事が実現できたとして、新しい体の部位はどうやって制御したらいいのでしょう?


SF作品では、電脳化なんて方法も登場しますが、どうやら指を一本加えるだけなら人間の脳はそのままでも対応可能なようです。


これは2021年5月19日に科学雑誌『Science Robotics』に掲載された研究ですが、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの研究チームが手の小指の外側に新たな「第3の親指」を追加するデバイスを開発し、その制御に脳が対応できるかを調査しました。


すると驚いたことに参加者は皆、短期間の訓練でこの「第3の親指」を自在に操作できるようになったのです。


しかも、デバイスを外すと今度は脳が混乱したといいます。


人間の体の拡張は、脳にどんな影響を与えるのでしょうか?




目次



  • 拡張された身体機能「第3の親指」
  • 手腕切断よりも大きな脳への影響

拡張された身体機能「第3の親指」


人間の手において、親指は物を掴むために重要な役割を担う特別な指です。


この親指が増えたら、ちょっと便利になるかもしれません。


ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)などの研究チームは、そんな人間の身体機能を拡張するべく、小指の外側に新たな親指を追加して手を対称形にするデバイスを開発しました


第3の親指を追加するデバイス
第3の親指を追加するデバイス / Credit:Dani Clode Design and The Plasticity Lab, UCL

こうした拡張デバイスは、脳波検出を利用するブレイン・コンピューター・インタフェースを利用する場合がありますが、今回は異なります。


この「第3の親指」は足首に取り付けられたセンサーによって、両足のつま先の動きで制御されるのです。


制御用のセンサーは両足首にあり、つま先の動きで制御できる
制御用のセンサーは両足首にあり、つま先の動きで制御できる / Credit:Dani Clode Design and The Plasticity Lab, UCL

なんだか、話だけ聞くと難しそうな気もしますが、研究では36人の参加者にこのデバイスを装着し、5日間使用の訓練を行ってもらいました


最初は多少、新しい親指に戸惑っといる実験参加者たちですが……


新しい親指にはしゃぐ実験参加者
新しい親指にはしゃぐ実験参加者 / Credit:Dani Clode Design and The Plasticity Lab, UCL

しかし、参加者たちは、すぐに新しい親指のコツを理解して、さまざまな動作について大幅な改善をすることができました。


カップを手に持ったままコーヒーに砂糖を入れてかき混ぜる、1つ余分にグラスを運ぶなどの運動タスクが可能になったのです。


親指が追加されるだけでさまざまな新しい動作が可能になる
親指が追加されるだけでさまざまな新しい動作が可能になる / Credit:Dani Clode Design and The Plasticity Lab, UCL

他にも、片手でペットボトルを持ったままキャップを開けたり、マジシャンみたいなカードさばきも可能です。


これまでもどかしかった片手の動作がすんなりと実行可能になる
これまでもどかしかった片手の動作がすんなりと実行可能になる / Credit:Dani Clode Design and The Plasticity Lab, UCL

素直に便利そうと感心してしまいますが、今回の研究者たちの関心はこのデバイスが脳に及ぼす影響です


研究チームは第3の親指を使用する前と後で、参加者たちの脳にどのような変化があったかを、fMRIを使って調査しました。


すると、驚きの発見があったのです。


それは拡張された体を利用することには、大きな代償が伴う可能性を示唆するものでした。


手腕切断よりも大きな脳への影響


fMRIの中で手を動かした時の脳の活動を調べた
fMRIの中で手を動かした時の脳の活動を調べた / Credit:Dani Clode Design and The Plasticity Lab, UCL

研究チームは、参加者が「第3の親指」を使用する前と後それぞれの、脳活動をfMRIの中で手を動かしてもらい調査しました。


すると、参加者たちは自分の手を精神的に表現して理解する指の神経表現が収縮していたのです。


指の神経表現に関する脳の活動が萎縮していた
指の神経表現に関する脳の活動が萎縮していた / Credit:Dani Clode Design and The Plasticity Lab, UCL

これは参加者が「第3の親指」を使用するトレーニングをしたことで、脳の手に関する理解に変化が及んだことを意味しています。


しかし、事故などにより手を失った人であっても、このような変化が確認されたことはありません


手腕を切断したとしても、人の脳内の手の表現は安定したままです。


それが、たった5日間「第3の親指」を使用しただけで、このような変化が起きたということは、研究者たちから見て些細な問題とは考えられませんでした。


まだ、今回発見された脳の変化が、具体的に何を意味するかは理解されていません。


しかし、この結果は、まだ脳が完全にできあがっていない若年層や子供にとってさらに大きな影響を及ぼす可能性があります


「このデバイスは、斬新なおもちゃのように見えるかもしれませんが、その効果は子供の遊びではありません。人体拡張技術の脳への影響を検討することは非常に重要です」


研究著者の1人である、UCLのダニー・クロード氏はそのように語り、特に子供や青年にデバイスを与えた場合の、脳の可塑性(変形後戻らずに残る性質のこと)について、危惧しています。


この影響についてはさらに調査を進め、拡張技術が人の運動能力などに生物学的な悪影響を与えないように学んでいく必要があります。


動画を見ると参加者たちは無邪気に楽しんでいるように見えますが、人間の体を拡張する技術については、慎重にならなければいけないようです。



この研究について、つま先の動きで追加の指を動かすというのは、なんか違うと感じた人もいるかもしれません。


実は、同系の研究で日本の電気通信大学が行った更新されたバージョンもあります。そちらでは腕の筋肉の電気信号で追加の指を操るという方法を採用しているため、こちらはより新たな身体の部位を操作するというイメージに近いかもしれません。


独立制御可能な「第6の指」を身体化することに成功



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参考文献

ROBOTIC AUGMENTATION CAN TRANSFORM HUMAN BODIES — BUT AT A PSYCHOLOGICAL COST
https://www.inverse.com/innovation/robot-human-hybrids

元論文

Robotic hand augmentation drives changes in neural body representation
https://robotics.sciencemag.org/content/6/54/eabd7935

ライター

海沼 賢: 大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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