外来種は無理に駆除すべきではないのかもしれません。
カリフォルニア大学デービス校の研究で、外来種のヨーロッパ・ミドリガニ(学名:Carcinus maenas)を根絶する実験で、約90%を駆除した後、根絶前の3倍に増加したという報告があります。
これは、外来種が駆除活動に対して劇的な増加が起こることを示した非常に興味深い報告です。
しかしなぜそのような真逆の反応が起きるのでしょうか?
研究は、2021年3月10日付けで『California Agriculture』に掲載されました。
目次
- 駆除でもとの3倍に激増!原因は「成体」がいなくなったこと?
駆除でもとの3倍に激増!原因は「成体」がいなくなったこと?
研究チームは2009年に、カリフォルニア州マリン郡にあるスティンソン・ビーチにて、ヨーロッパ・ミドリガニの根絶実験を開始しました。
本種は世界の外来生物トップ100にランクインしており、アメリカの貝類産業は年間約2000万ドルの損失を出しています。
作業の末、2013年には、現地のヨーロッパ・ミドリガニの個体数を約12万5000から1万以下にまで減少させることに成功しました。
ところが、翌年の2014年に、個体数は30万匹を超えるほど爆発的に増えていたのです。
これは2013年の約30倍に当たり、根絶前と比べるとほぼ3倍に匹敵します。
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
同チームが監視していた他の4つのエリア(駆除活動はしていない)ではいずれも、そのような集団的爆発は見られていません。
つまり、数の増加は、大気や海水の気候変化ではなく、駆除活動に原因があると予想されます。
そして追跡調査の結果、原因は駆除によって成熟個体がいなくなることにありました。
というのも、エビやカニのような甲殻類には、成体が若い個体を共食いするカニバル習性があり、これによってコロニーの増え過ぎが抑圧されます。
ところが成体を根絶すると、駆除されなかった小さな個体たちが無制限に急成長し、短期間で数が一気に増えてしまうのです。
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「科学実験の失敗はしばしば私たちを予期せぬ方向に導いてくれる」と語るのは、研究主任のエドウィン・グロスホルツ氏です。
「この失敗により、外来種への正しいアプローチが見えてきました。私たちは、外来種の完全な根絶ではなく、機能的な根絶(Functional eradication)に取り組むべきです」と話します。
「機能的な根絶」の効果は、同氏も参加したカナダ・アルバータ大学の研究(『Frontiers in Ecology and the Environment』、2020)で証明されています。
具体的には、「ゴルディロックス値(Goldilocks level)」を目標として駆除を行うというものです。
ゴルディロックス値とは、外来種の急増を防ぐには十分な成体がおり、逆に、在来種を征服するには数が少なすぎるといったレベルのこと。
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
研究チームは、この方法をスティンソン・ビーチで実践したことで、2017〜18年には安定した数に落ち着いています。
一方で、この傾向は甲殻類に特有のものであって、他の外来種では駆除がどのような反応を起こすのか分かりません。
しかし、外来種もただ闇雲に駆除すればいいというわけではないようです。
参考文献
When ‘eradicated’species bounce back with a vengeance
https://phys.org/news/2021-03-eradicated-species-vengeance.html
元論文
Engaging the importance of community scientists in the management of an invasive marine pest
https://escholarship.org/uc/item/7456p21c
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部