川や海には、小さなプラスチックの粒(マイクロプラスチック)がたまり続けています。
その増え方は、人が片づける速さを上回っています。
これまでマイクロプラスチックは、汚染物質を運んだり、微生物の足場になったりする厄介者として知られてきました。
その一方で、粒そのものは水と反応しない「受け身のごみ」だと考えられがちでした。
ところが、光を浴び続けて古びた粒は、どうやらただのごみではいられないようです。
研究チームが注目したのは、金属加工の工場から川へ入り込むことがある、ある有毒な金属でした。
古びたプラスチックの粒は、その金属にいったい何をしていたのでしょうか?
研究の詳細は、中国の東北師範大学らにより、2026年1月1日付で学術誌『Environmental and Biogeochemical Processes』に掲載されました。
「毒の強いクロム」と「おとなしいクロム」

その金属とは、クロムです。
水の中のクロムには、性質の大きく違う形があります。
1つは、毒性の強い六価クロムです。
金属の表面を仕上げる工場の廃棄物を通じて、川などに入り込むことがあります。
水によく溶けて流れに乗って広がりやすく、中国では汚染物質の一覧で有害な物質とされています。
米国の「エリン・ブロコビッチ」の一件で、問題の中心となった汚染物質でもあります。

もう1つは、ずっと毒性の弱い三価クロムです。
こちらはほかの物質とくっつきやすく、水の中をあまり動き回りません。
つまり、六価クロムを三価クロムに変えること(還元)は、毒を弱める反応なのです。
日光の当たる水では、自然の有機物がこの反応をある程度進めていることも分かっています。
そこで研究チームは、増え続けるマイクロプラスチックもこの反応に関わるのかを確かめることにしました。
調べたのは、ポリスチレンというプラスチックでできた、大きさが平均0.5ミリほどの小さな粒です。

新品の粒は、表面がつるつるの球の形をしています。
チームはこの粒を過酸化水素の溶液に入れて紫外線を当て、0時間から最長96時間まで、時間を変えて古びさせました。
96時間は、ちょうど4日間です。
電子顕微鏡でのぞくと、光を浴びた時間が長い粒ほど、ひび割れや穴が目立っていきました。
表面はざらざらになり、やがて形の不ぞろいな薄いかけらへと砕けていきました。

こうした変化で表面積が広がり、光も吸いやすくなった可能性があります。
光を浴びた粒は、見た目からして新品とは別物になっていたのです。
ひびだらけの粒に光を当てると、毒のクロムは何割変わる?

チームは、古びさせた時間の違う粒を、それぞれ六価クロムの溶けた水に入れました。
そして紫外線を当てながら、水の中の六価クロムがどれだけ減るかを調べました。
まず、光を当てない暗い所では、どの粒を入れても六価クロムの量はほとんど変わりませんでした。
暗い所では、粒がクロムを吸いつけたり変えたりする働きは、無視できるほど小さかったのです。
また、紫外線を当てても、粒を入れていない水では六価クロムは減りませんでした。
ところが、粒を入れて紫外線を当てると、結果は一変します。

紫外線の下では、新品の粒でも六価クロムの約38%が毒の弱い形に変わりました。
そして96時間古びさせた粒を使うと、紫外線の下でその割合は約90%にまで上がったのです。
毒の強いクロムが10個あれば、そのうち9個ほどが毒の弱い形に変わった計算です。
しかも古びさせた時間が長い粒ほど、この割合はそろって高くなっていました。
反応のあとで粒の表面を調べると、そこにあるクロムの90%以上が三価クロムになっていました。

では、古びた粒の何が、クロムの毒を弱めていたのでしょうか?
分子の結合が切れると、反応しやすいかけら(フリーラジカル)ができます。ふつう、このかけらは一瞬で消えてしまいます。
ところが光で古びた粒の表面には、消えずに長く残るラジカル(環境残留性フリーラジカル)がたまっていました。
粒の中にある六角形の輪の部分(ベンゼン環)が紫外線を吸い、その勢いで結合が切れて生まれたものです。

このラジカルは、新品の粒にも、暗い所で古びさせた粒にも見つかりませんでした。
そして量は、光を浴びた時間に沿ってほぼ一直線に増え、測った範囲で約2.7倍になりました。
さらに、六価クロムの水に入れた粒では、純水に入れた粒よりもこのラジカルが少なくなっていました。
ラジカルが、クロムとの反応に直接使われていたと考えられます。
粒は光で古びるほど、表面に毒を弱める「手」をため込んでいたのです。
酸素を抜いて見えた「2つの道」

ただ、話はこれだけでは終わりません。
ラジカルを持たない新品の粒でも、紫外線の下で六価クロムの約38%を変えていたからです。
チームが目をつけたのは、古びていく粒から水へ溶け出す有機物でした。
プラスチックが崩れるときに出る細かな断片や添加物、小さな分解物などです。
マイクロプラスチックから溶け出すこうした有機物は、1年に2万3600トン分の炭素を海へ運び込んでいるとされます。
この溶け出した成分だけを使っても、紫外線の下では六価クロムの約32%が還元されました。
これは新品の粒に近い値です。また、暗い所では還元されませんでした。
10時間かけて溶け出させた成分を分析すると、植物由来の成分(リグニンやタンニン)に似た分子が中心でした。
その顔ぶれは、陸の植物から出る有機物とよく似ていたのです。
こうした分子は、光を受けて反応しやすい分子を生み出す性質を持っています。

こうして見えてきたのが、毒を弱める2つの道です。
1つ目は、粒の表面のラジカルが、六価クロムへ直接電子を手渡す道です。
2つ目は、光で酸素から生まれる反応しやすい分子(スーパーオキシド)を介した回り道です。
古びた粒からも、紫外線の下でこのスーパーオキシドが見つかり、古びさせた時間が長いほど多く出ていました。
2つの道の大きさを比べるため、チームは水に窒素を吹き込み、溶けている酸素を追い出しました。
酸素が無ければスーパーオキシドは生まれず、回り道だけが通行止めになるという仕掛けです。
96時間古びさせた粒では、酸素を抜くと還元の効率が約20%下がりました。
つまり、表面から電子を直接渡す道が、全体の約8割を担っていたことになります。
一方、溶け出した成分では、スーパーオキシドを介する回り道が約78%を占めていました。
粒と溶け出した成分を合わせた還元の力は、炭の一種であるバイオ炭に並ぶほどでした。

もっとも研究チームは、これでプラスチック汚染が良いものになるわけではないと強調しています。
実験は実験室の管理された条件で行われ、川や海で同じことが起きるかはまだ分かっていません。
実際の川の酸性度や溶けたイオンの濃さ、有機物の量のもとで何が起きるかは未知です。
また、ポリスチレンは構造上、ラジカルができやすいプラスチックです。
世の中により多く出回るポリエチレンやポリプロピレンでは、ふるまいが違うかもしれません。
この反応が汚れた水を安全にするのか、別の危険を生むのかも、はっきりしていません。
研究の責任者である東北師範大学のジウニアン・グアン氏は、次のように話しています。

「マイクロプラスチックは、単に汚染物質を受け身で運ぶだけのものではないと考えられます」
「光を浴びて古びるにつれ、環境の中の化学反応に積極的に加わる存在になりうるのです」
つるつるだった小さな球は、紫外線を浴びるうちにひびだらけになり、毒のクロムを変える反応の場になっていたのです。
参考文献
Microplastics can make toxic metals less dangerous, study finds (Earth.com)
https://www.earth.com/environment/microplastics-can-make-toxic-metals-less-dangerous-study-finds/
元論文
Microplastics as emerging mediators of Cr(VI) reduction: roles of environmentally persistent free radicals and microplastic-derived dissolved organic matter
https://doi.org/10.48130/ebp-0026-0015
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部
