カナダのカナダ自然博物館(CMN)などで行われた研究によって、卵の中で育ちはじめたヘビの赤ちゃんが、ほぼ例外なく「右巻き」のとぐろを巻いていることが明らかになりました。
とぐろを巻かせていた「犯人」は、胴体の伸びに置いていかれた腸でした。
前と後ろを短い腸につなぎとめられたまま胴体だけがぐんぐん伸びるため、まっすぐではいられなくなり、腸を軸にらせんを描いていたのです。
そして右という向きは、赤ちゃんの左側にいつもくっついている卵の黄身が決めているとみられます。
研究内容の詳細は2026年8月31日に科学雑誌『Current Biology』にて発表されました。
卵の中で育ちはじめたヘビの赤ちゃんは、ほぼ全員が右巻きだった

ヘビの絵を描いてくださいと言われたら、多くの人はとぐろを巻いた姿を描くのではないでしょうか。
実はヘビは、卵の中にいるころから、すでにとぐろを巻いています。
殻を開けると、ばねのようにきっちりとらせんを描いた赤ちゃん(胚)が収まっているのです。

細長い体を持つ脊椎動物はほかにもいますが、その多くの胚は、卵の黄身の表面に沿って伸びるか、体をひと折りしてループを作る程度にとどまります。
黄身から離れる向きへ、これほどきつい巻きを何重にも作るのは、ヘビの胚だけです。
巻き方には、胚を背中側から見て、頭から尾へたどったときに時計回りに巻く「右巻き」と、その逆の「左巻き」の2通りがあります。
どちらになるかが偶然で決まるなら、右と左はおよそ半々になるはずです。

ただ、ヘビの胚が実際にどちら向きに巻いているのかを、種ごとにまとめて数えた調査は、これまで見当たりませんでした。
この調査が始まったきっかけは、2020年の新型コロナによるロックダウンでした。
研究を率いたカナダ自然博物館のテツト・ミヤシタ氏は、研究室にも博物館の収蔵庫にも入れなくなった学生たちのために、家からでも取り組める研究テーマを探していました。
思い浮かんだのが、論文でヘビの胚の写真を見るたびに「右巻きだろうか、左巻きだろうか」と気になっていたことです。
研究チームは、論文に載った写真や博物館の標本写真、研究室で育てた胚の記録などをかき集め、ヘビ34種と足のないトカゲの仲間5種、あわせて913匹分の胚について、巻きの向きを1匹ずつ記録していきました。

数えてみると、結果は半々どころではありませんでした。
育ちはじめ(アフリカイエヘビでいえば産卵から2週間ほどまで)のヘビの胚505匹のうち、右巻きは488匹で、左巻きはわずか17匹だったのです。
アフリカイエヘビでは146匹すべてが右巻きで、ペットとしておなじみのコーンスネークでも、左巻きは200匹あまりのうち9匹だけでした。
十分な数を調べられた種のなかに、育ちはじめの胚が左巻きに偏った種や、右と左が半々に分かれた種は1つもありませんでした。
一方、アシナシトカゲやミミズトカゲなど、足のないトカゲの仲間の胚には、はっきりした偏りは見られませんでした。
研究チームは、育ちはじめのころから極端に細長くなるのがヘビの胚だけであることが、この違いにつながっているのではないかとみています。
では、ヘビの赤ちゃんはなぜ、これほどきつく、しかも同じ向きに巻かれているのでしょうか。
ヘビの胚の真ん中には「腸の柱」が立っていた

そもそも、ヘビの胚はなぜ胴体ごと巻かれてしまうのか?筆頭著者のアレクサンドラ・ウェバー氏は「この段階の胚には、体を動かすための筋肉がありません」と指摘します。
胚は自分で体をくねらせて巻いているのではなく、何か別の力によって巻かれているはずなのです。
手がかりは、ほかの生き物の体にできるループにあります。
たとえばニワトリの胚の腸がくねくねとループを描くのは、腸と、それをつなぎとめる膜とで伸びる速さがずれるためです。
速く伸びる腸が、ゆっくり伸びる膜に引き止められ、まっすぐ伸びる場所を失ってたわむのです。

それに対してヘビの胚は、器官ができあがるよりも前に、胴体をまるごと巻いてしまいます。
もし同じような仕組みが働いているなら、ヘビの胴体を引き止めている相手は何なのでしょうか。
その相手を写し出したのは、胚のCT画像でした。
アメリカのカリフォルニア州立大学ロサンゼルス校(CSULA)のラウル・ディアス氏が、体を切らずに中身を輪切りで見られる装置(マイクロCT)で胚を撮影したのです。
この方法なら、胚の中で何がどこにつながっているのかを、壊さずに立体でたどることができます。
ミヤシタ氏は「ラウルが撮ったヘビの胚のCT画像には、私たちが一度も見たことのない構造が写っていました。らせんを巻く体の中を貫いて伸びる、腸の柱です」と振り返ります。

この柱の正体は、胃から総排出口(おしりの出口)までの消化管に、黄身などへ伸びる血管が寄り添ったものでした。
ふつう腸は、胴体の中を胴体に沿って走っています。
ところがこの時期のヘビの胚では、腸は胴体に沿わず、らせんの真ん中を柱のように突っ切っていたのです。
この腸は、前は胃のあたりで、後ろは総排出口のあたりで胴体につなぎとめられ、そのあいだは薄い膜(腸間膜)で胴体からつり下げられています。
しかも腸の長さは、胴体の5分の1にも届いていませんでした。

前と後ろを短い腸につなぎとめられたまま、胴体だけがどんどん伸びていけば、まっすぐではいられません。
行き場を失った胴体はたわみ、腸の柱に巻きつくようにらせんを描いていくのです。
ミヤシタ氏は「体がたわみ、ねじれて、とぐろになるのです」と説明します。
かばんのストラップを短く詰めたときに、余って輪になった部分がたわんでよじれるのと同じだというのです。
胴体と柱が連動していることを物語るように、柱に寄り添う血管も、外側の胴体と同じ向きに、確認できたかぎり同じ回数だけ巻いていました。
興味深いのは、胴体と別行動をとっているのは、場所よりもむしろ伸び方のほうという点です。
ふつうの動物なら、消化管は胴体と一緒に伸びて、胴体に沿って走ります。
ところがこの時期のヘビでは胴体だけがどんどん伸びて巻き、短い消化管は芯の位置に取り残されます。
そのため、らせんの輪を1つずつ見ると、消化管は胴体の中ではなく、輪の真ん中の空間を通っていることになるのです。
では、なぜ腸はここまで出遅れてしまうのでしょうか。

理由は、胴体と腸とで、伸び方の仕組みがまるで違うことにあります。
胴体は、体のもとになるブロック(体節)を後ろへ後ろへと足していくことで伸びます。
ヘビはこのブロックを300個以上、ほかの爬虫類や鳥、哺乳類のおよそ5倍も作り、しかも速いテンポで次々と足していきます。
一方の腸は、1本の管そのものが長くなっていくので、ぐんと伸びる時期が胴体よりも遅れてやってきます。
アフリカイエヘビでは、産卵から2週間ほどのあいだ、先に伸びた胴体に腸が追いついていません。
胴体が巻く理由が腸にあるのなら、巻く向きを右にそろえているのは何なのでしょうか。
ヘビの胚を右巻きにするカギは、左側にある卵の黄身だった

右という向きは、胚の体の中で決まっているのか?
研究チームが注目したのは、胚の体の外、すぐ横にある黄身の位置でした。
ヘビやトカゲの仲間の卵では、黄身はいつも胚の左側にくっついています。
胚は育つにつれて、この黄身に沈み込んでいきます。

このとき頭のほうは、左の頬を黄身に押しつけるようにして深く沈み、胴体は黄身から離れる側、ヘビ自身から見て右側へと巻き出していきます。
こうして右側へ巻いていくと、右巻きのらせんができあがるのです。
この考え方が正しければ、胚がたまたま黄身に対していつもと違う向きで育ったときには、左巻きになるはずです。

ここで参考になるのが、ニワトリの卵です。
温めるときの卵の向きによっては、5.0%の胚が黄身に対して逆さまの向きで育つと報告されています。
これは、コーンスネークの育ちはじめの胚で左巻きが現れる割合(4%台)に近い値です。
左巻きの胚は、黄身との位置関係がたまたまずれた例外なのかもしれません。
研究チームによると、右巻きであること自体には、生きるうえでの得はなさそうです。
巻く向きは、何かの役に立つから選ばれてきた性質ではなく、黄身の位置と胴体の伸び方から自動的に出てくる「幾何学の答え」にすぎないというわけです。
巻き方が腸の短さと黄身の位置で決まっているのなら、腸が伸び、黄身が小さくなっていけば、巻き方も変わるはずです。
卵の中で育ち続けるうちに、ヘビの胚のとぐろはどうなっていくのでしょうか。
腸が追いつくと、ヘビの胚のとぐろはゆるみはじめる
育ちはじめの時期を過ぎた後期の胚でも、右巻きはそろったままなのか?後期の胚の写真を調べると、そろっていたはずの右巻きはくずれていました。
後期のヘビの胚では、およそ半数で巻きがゆるんだり乱れたりしていました。
向きも、右巻き200匹に対して左巻き160匹と、半々に近づいていたのです。
ウェバー氏は「右巻きのままの胚もいれば、左へ巻き直す胚もいます」と話しています。
内部を詳しく調べたアフリカイエヘビでは、このころ胚の中で2つの変化が起きています。
1つめは、出遅れていた腸が胴体に追いつくことです。
腸は産卵5〜6日後から10〜12日後までのあいだに、長さが3倍になります。
胴体の伸びがにぶるのと入れ替わるように、産卵から2週間を過ぎるころには、腸は胴体の長さに追いついていきます。
追いついた腸は、やがて胴体に沿った位置へと収まっていきます。
胴体を縛っていた「短すぎる腸」という条件が、ここでゆるむのです。

2つめは、胚が自分の体を動かせるようになることです。
産卵から10日ほどたつと、背中の筋肉が体節の区切りを越えて帯のようにつながり、背骨のもとになる軟骨もでき始めます。
さらに黄身が使われて小さくなり、胚には体の位置を変える余地も生まれます。
縛りがゆるみ、動けるようにもなった胚は、自分で体をよじって巻き方を組み替えていく、と研究チームは考えています。
その途中をとらえたらしい胚も見つかっています。
ボールパイソンの後期の胚の1匹は、黄身にできた大きなくぼみに尾の側を落とし込み、育ちはじめの胚とは逆向きの左巻きになっていました。
きつい右巻きのとぐろは、腸が短く、胚が自分では動けないころに保たれやすい形だったことになります。
では、ヘビにとって、このとぐろはどんな意味を持っていたのでしょうか。
研究チームの答えは、長い体ができた「結果」というだけでなく、長い体を作るための「仕組み」でもある、というものです。
育ちはじめの胴体はブロックを足して猛スピードで伸び、腸の伸びはその後を追いかけます。

伸び方の仕組みそのものが違うため、腸を急がせることも、胴体の伸びを待たせることもできないのです。
ふつうなら、この食い違いは体を長くするうえで足かせになるはずです。
ヘビは、腸より長く伸びた胴体を腸の柱に巻きつけることで、伸びる速さの違う胴体と腸をつないだまま、長い体を育て上げていたのです。
ただし、胴体と腸の伸びのずれだけで本当にあのらせんができるのかは、まだ実験では確かめられていません。
ヘビの卵は殻がやわらかく、切り開くだけで中の圧力や膜の張りまで一緒に変わってしまうため、狙った条件だけを変えて試すことが、いまの技術ではできないのです。
それでも、913匹分の胚が見せた巻き方の偏りとその移り変わり、そしてCTが写し出した腸の柱は、どれも「伸び遅れた腸と左側の黄身」という一つの筋書きで説明がつきます。
研究チームは、この考え方を発展させれば、自然界のほかのらせんの成り立ちも説明できる可能性があるとしています。
「らせんには、どこか謎めいたところがあります。私たちの腸のループやカタツムリの殻、そしてこの美しく巻いたヘビの胚のように、動物がこうした形をどうやって作るのか、私たちはようやく理解し始めたところです」とウェバー氏は話しています。
ヘビが卵の中で最初に巻くとぐろは、自然界のらせんの作り方を解き明かす入口になるかもしれません。
専門家向けの補足
今回の研究の核心は、胴体と消化管が異なる時間割で育つことにあります。胴体は体節という小さな単位を次々に加えて伸び、消化管は管として伸びながら各部を形成します。初期には両者の長さがそろわず、短い消化管が血管などとともに、巻いた胴体の中央を通る「柱」をつくります。消化管は前方の胃側と後方の排出口側で胴体に接続し、その間も腸間膜という薄い膜でつながっています。
著者らは、この短い消化管が胴体のまっすぐな伸びを制限し、らせん状のたわみを生むと考えています。とぐろは長い体ができた結果であると同時に、内臓とのつながりを保ちながら、異なる発達の進み方を両立させる構造でもある、という解釈です。消化管も後から急速に伸びるため、成長の速度に加え、急成長する時期のずれが重要になります。消化管が追いついて初期の拘束が緩み、筋肉の成熟で体を動かせるようになるという説明は、後期に巻き方が不規則になる観察とも合います。
さらに、巻く原因と、巻く向きがそろう原因は区別する必要があります。成長差によるたわみだけでは、なぜ右巻きに偏るのかは決まりません。著者らは、胚の左側にある卵黄と、そこへ頭部が沈み込む姿勢が方向を偏らせると提案しています。この見方なら、右巻き自体に特別な利益がなくても偏りが生まれます。ただし、生存や繁殖の有利不利は測定しておらず、右巻きが「適応ではない」と証明したわけではありません。
観察が支える説明と、まだ残る検証
巻き方を広く調べた調査と、仕組みを詳しく調べた観察では、対象の範囲が異なります。巻き方の調査はヘビ34種に及びますが、CTによる内部構造の発達比較はアフリカイエヘビという1種の13個体です。種ごとの標本数にも偏りがあるため、提案された仕組みをすべてのヘビに当てはめるには追加の確認が必要です。また、成長に伴う変化は発達段階の異なる個体の比較で調べており、同じ個体が成長に伴って巻き方を変える過程を連続観察したわけではありません。
最大の未解決点は、成長差が生む力だけで、実際のらせんをつくれるかです。著者らも、力を受けた組織が、細胞の働きによってさらに形を変える必要があるかもしれないとしています。卵の表面や胚を包む膜から受ける制約も排除されていません。消化管の拘束を操作した実験も行われておらず、CTで構造が見えたことと、それが形の原因だと確かめたことは分ける必要があります。
検証が難しい理由は、ヘビの軟らかい卵を開くだけで、内圧や膜の張力、卵黄による支えが同時に変わることにあります。狙った条件だけを変えにくいのです。今後は、胴体と中央の柱の変形しやすさを測り、実際の成長差を組み込んだ力学モデルで、巻き方を再現できるかを試すことが課題になります。器官ごとの成長のずれと、その間に働く力から全身の形をどこまで予測できるかが、この説明の次の試金石です。
参考文献
Caught right-handed: Mystery of coiling snake embryos explained
https://www.eurekalert.org/news-releases/1141750
元論文
How snake embryos coil
https://doi.org/10.1016/j.cub.2026.07.078
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部
