19世紀、南フランスの洞窟から、ツルの骨のかけらが見つかりました。
最後の氷期の終わりごろのものとされる骨です。
フランスの生物学者アルフォンス・ミルヌ=エドワールは、これを新しい種の骨だと考えました。
名づけられたのは「グルス・プリミゲニア(Grus primigenia)」、絶滅した巨大なツルです。
以来、2万年以上前のヨーロッパには、今はいない大型のツルがいたと広く信じられてきました。
ところが、この鳥の正体をめぐる議論は、150年以上も決着がつきませんでした。
巨大なツルは、本当に地球から姿を消した鳥だったのでしょうか?
研究の詳細は、英ボーンマス大学らにより、2026年10月7日付で学術誌『Royal Society Open Science』に掲載されました。
150年続いた「巨大ヅル」の論争

最初の骨はすねの骨(脛足根骨)の先のかけらで、アジアのオオヅルの同じ骨より横幅が広いと記されていました。
その後、別の2つの洞窟からそれぞれ出た上腕の骨と下あごも、同じ種に加えられました。
この種とされた骨は、のちにフランス、イギリス、スペインで見つかり、古いものは約24万6000〜18万6000年前、新しいものは約2200〜2000年前の鉄器時代のものでした。
骨の主をめぐる説の1つ目は、記載どおり絶滅した独立の種だとするものです。
2つ目は、ヒマラヤより南にすむアジアのオオヅルだとする説です。

3つ目は、氷期の骨の一部はソデグロヅルだとする説です。

4つ目は、イギリスの島々にだけいたクロヅルの亜種だとする説です。
デンマークの泥炭から出たツルが大きくなかったことが、この説を後押ししました。
そして5つ目が、今もヨーロッパにいるクロヅルの大柄な個体だとする説です。

グルス・プリミゲニアは、ヨーロッパを含む地域で第四紀(氷河期をくり返してきた、今に続く時代)に絶滅した鳥の中で、オオウミガラスに次いで多く議論されてきた鳥だといいます。

これまでの研究は、骨の大きさと形だけを手がかりにしてきました。
英ボーンマス大学のジョン・スチュワート教授(進化古生態学)らは、骨の主は今のクロヅルの大柄な個体ではないかと疑っていました。
鍵は、ツルのオスが大きく、メスが小さいという性質です。
今のクロヅルでも、オスの方が大きいことが体の計測から分かっています。
この大小の差が、昔は2種のツルがいたという見方を生んだのではないか、と教授はみていました。
チームはスウェーデン・ストックホルムの古遺伝学センターと組み、骨に残るDNAを調べることにしました。
対象は、イングランド、ウェールズ、フランス、ドイツ、スペインのバレアレス諸島で出た18点の骨です。
時代は、フランスの氷期の骨と、氷期かそれより後とされるスペインの骨から、ドイツとイギリスの新石器時代〜サクソン時代の骨までにわたります。
イギリスの3か所で出た骨は、大陸のツルと別の一族?

調べたのは、骨に残るDNAのうち、ミトコンドリアのDNAです。
チームはDNAの文字にして1万5667字分の配列を比べ、ツルどうしの近さを表す系統樹を描きました。
比べる相手には、候補に挙がっていたオオヅルとソデグロヅルも入れました。
その結果、18点の骨はすべて、系統樹の上でクロヅルと同じ枝に集まりました。
今のクロヅルより大きな骨も、例外ではありませんでした。
「絶滅した巨大なツル」は、今もヨーロッパにいるクロヅルそのものだったのです。

オオヅルとソデグロヅルは、骨たちとははっきり別の枝に分かれていました。
クロヅルとは別の種と呼べるほどの違いも、どの骨にも見つかりませんでした。
これで、絶滅種説、オオヅル説、ソデグロヅル説の3つが退けられました。
残るイギリスだけの亜種説も、同じ系統樹で検証しました。
イギリスの骨は、フリックスボロー、カーリーオン、ケンブリッジシャーのフェンズ地方から出たものです。
これらは独自の枝を作らず、大陸の個体の間に散らばっていました。
ミトコンドリアのDNAで見るかぎり、今回調べた時代の西ヨーロッパのクロヅルには、地域ごとの遺伝的なまとまりはなかったとみられます。

こうして5つの説のうち、「大柄なクロヅル」説だけが残りました。
系統樹には、時代ごとのまとまりも見られませんでした。
ドイツやイギリスの新石器時代〜サクソン時代の骨が、フランスの氷期の骨や、氷期かそれより後とされるスペインの骨と入り混じっていたのです。
ただし、DNAの傷みが激しく、読み取れない部分が多く残った骨もありました。
それでも系統樹の解析は、DNAが取れた骨がすべてクロヅルだと示しています。
昔のクロヅルは、メスも今より大きかった?

種の正体が分かると、次の疑問が浮かびます。
なぜ昔の骨には、今のクロヅルより大きなものが混じっていたのでしょうか。
チームはこれを確かめるため、骨のDNAから持ち主の性別を割り出しました。
鳥では、オスが性染色体のZを2本、メスがZとWを1本ずつ持ちます。
そこで、Z染色体のDNAの量を、性別と関係のない4番染色体の量と比べました。
オスならこの比は約1.0、Zが1本しかないメスなら約0.5になるはずです。
比が0.7〜0.8の間に入った骨は、性別を決めずに「不確か」として扱いました。
オスと判定されたのは、イギリスの3か所とエス・ポウアスで出た骨です。
その計測値は、今のオスと同じか、それを上回っていました。
たとえばウェールズのカーリーオンで出たローマ時代の上腕骨は、4か所の計測のうち3か所で、比べた今のクロヅル24羽(オス12羽・メス12羽)のどれよりも大きいものでした。

例外はフリックスボローで出た足の骨(足根中足骨)の1か所の計測値だけで、今のオスとメスが重なる範囲に入りました。
一方、今のオスと同じ大きさの骨には、昔のメスも含まれていました。
メスの骨で測った値は、今のメスの範囲が3つ、オスとメスが重なる範囲が6つでした。
さらに、今のオスと同じ大きさが5つ、今のオスより大きいものが3つありました。
今のメスの範囲に入る値があっても、同じ骨の別の計測値はそれより大きかったのです。
つまり、昔のメスは平均して今のメスより大きかったと考えられます。

以前の大規模な骨の計測でも、今のメスの大きさに収まる昔のツルはわずかでした。
フランスのル・モランで出た太ももの骨(大腿骨)の付け根側は、2か所の計測とも今のどの標本より大きなものでした。
ところがDNAは、この骨の持ち主をメスと判定しました。
このメスという判定は、先行研究の記録とも合うといいます。先行研究では、別の標本の大腿骨の内側から、髄様骨(ずいようこつ、卵を産む時期のメスの鳥の骨の中にできる骨)が見つかっていました。
研究チームは、オスとメスの大きさの差が、昔は大小2種のツルがいたという見方を生んだようだと述べています。
そして、クロヅルはサクソン時代以降に小さくなった可能性が高いとみています。

なぜ小さくなったのかは、まだ分かっていません。
教授は湿地の干拓や人による土地利用の変化を疑っていますが、確かめるにはさらに研究が必要だとしています。
研究は、骨の大きさの違いだけで絶滅種とされた鳥にも、DNAによる確認が要るかもしれないと指摘します。
教授は、過去の鳥の絶滅の数を多めに見積もってきたのかもしれないと述べています。
その一部は、今も生きる種の大きさが変わっただけかもしれないというのです。
南フランスの洞窟などで見つかってきた「巨大ヅル」の骨は、今より一回り大きかった頃のクロヅルが残したものだったとみられます。
写真で見るツルの仲間





参考文献
150-year-old mystery about the identity of an 'extinct' giant crane solved (Phys.org)
https://phys.org/news/2026-10-year-mystery-identity-extinct-giant.html
元論文
Ancient DNA study resolves the taxonomic status of the extinct large Palaearctic crane Grus primigenia Milne-Edwards, 1871 (Aves: Gruiformes: Gruidae)
https://doi.org/10.1098/rsos.260699
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部
