「幽霊クラゲ」とも呼ばれるダイオウクラゲは、深海を漂う巨大なクラゲです。
大きな傘の下からは、長い腕が垂れ下がっています。
ただ、生きた姿が見られることはめったになく、特に南半球では、記録の多くが網に偶然かかった個体にもとづいています。
そんな謎の多いクラゲが、南米アルゼンチン沖の深海で、無人探査機のカメラにとらえられました。
ところが、映像に映っていたのはクラゲだけではありませんでした。
巨大なクラゲのそばで、いったい誰が、何をしていたのでしょうか?
研究の詳細は、2026年10月1日付で学術誌『Ecology』に掲載されました。
これまで知られていたのは「深海で1匹」だけ

ダイオウクラゲは世界の広い海にすむと考えられていますが、その暮らしぶりはほとんど分かっていません。
それでも、このクラゲに魚が付き添う姿は、これまでに何度か記録されてきました。
ただし、その魚はすべて同じ1種で、アシロ目(もく)という仲間の魚(学名:Thalassobathia pelagica)でした。
記録された場所も、北大西洋のアゾレス諸島の北の沖や、カリフォルニア湾、メキシコ湾など、北半球ばかりでした。
たとえばカリフォルニア湾では、水深1300mの海で、大人の魚が1匹だけクラゲに付いていました。
メキシコ湾の記録も水深約1000mで、やはり大人の魚が1匹という組み合わせでした。
この魚はクラゲに付いた寄生虫を食べることが報告されており、互いに得をする関係だと考えられています。

一方、南大西洋や南極の海でもダイオウクラゲは見つかっていますが、魚が付いていたという記録はありませんでした。
南極の海では体長4mに達する個体も撮影されていますが、やはり魚は付いていませんでした。
ただ、気になる記録が1つだけありました。
1973年の報告によると、北大西洋で、ダイオウクラゲと「ある魚」が同じ網に一緒にかかっていたのです。
当時の研究者たちは、この2種の間に何らかの関わりがあるのではないかと考えました。
しかし、深海で両者が一緒にいる姿は、これまで記録されていませんでした。
ダイオウクラゲと魚の関係は、北半球の深い海で見つかった、わずかな記録から知られているだけだったのです。
北半球ばかりだった記録、南の6mのクラゲには魚が何匹?

観察の舞台は、アルゼンチン沖の海底にある深い谷(海底谷)の上、水深250〜257mの海です。
研究チームは、2025年12月〜2026年1月に行われた調査船「Falkor (too)」の航海で、無人探査機「SuBastian」を使い、そこを漂うダイオウクラゲを撮影しました。
クラゲの大きさは、傘のてっぺんから腕の先まで約6mでした。
2階建ての家の高さほどもある体が、深い海に浮かんでいたことになります。
傘の直径は約1mで、そこから長さ約5mの腕が垂れ下がっていました。
アルゼンチンの海でこれまでに見つかったダイオウクラゲは、傘の直径が38cm以下の小さな個体ばかりで、どれも今回より浅い場所で採集されたものでした。
そして、このクラゲのそばには、約19匹の小さな魚が群れていたのです。
魚の正体は、ラダーフィッシュ(学名:Centrolophus niger)という魚の幼魚でした。

この魚もダイオウクラゲと同じく、世界の広い海にすみながら、めったに観察されない種です。
幼魚たちは主に、傘の下側と、腕のすぐ近くに集まっていました。
長い腕のあいだを出入りしながら、傘の周りを泳ぎ回っていたのです。
幼魚を連れたダイオウクラゲの実際の写真はこちら(IFLScience) 画像1 画像2
研究チームは、この集まり方が、クラゲを隠れ家として使う行動とよく合うと見ています。

さらに映像には、1匹の幼魚がクラゲの腕の表面をついばむ様子も映っていました。
無人探査機「SuBastian」がアルゼンチン沖でとらえた、ダイオウクラゲと幼魚の群れの映像です。
動画: 無人探査機 SuBastian の映像(YouTube「IFLScience」)
ただし、何を食べていたのかまでは分かりませんでした。
クラゲに付く幼魚は、クラゲが捕えた獲物を食べることがあると報告されています。
ほかにも、クラゲの体に付く小さな生き物や寄生虫、クラゲの体そのものを食べる例が知られています。
つまり幼魚たちは、身を隠すだけでなく、食べ物も手に入れている可能性があるのです。
実際、この魚の幼魚は、北半球の浅い海であるアドリア海で、別の種類のクラゲに付くことが知られています。
そこでは隠れ家と食べ物の両方を得る一方で、クラゲと獲物を取り合うこともあるといいます。
研究チームによると、深海でこの2種の結びつきが記録されたのは、今回が初めてです。
深さも酸素もまるで違う海で、同じ関係が成り立っていた

今回の観察が注目されるのは、これまでの記録と、ほとんどの条件が違っていたからです。
まず、クラゲに付いていた魚の種類が違います。
次に、成長段階が分かっているカリフォルニア湾とメキシコ湾の記録では、大人の魚が1匹ずつでしたが、今回は幼魚の群れでした。
深さも、カリフォルニア湾とメキシコ湾の記録が水深約1000〜1300mだったのに対し、今回はその4分の1から5分の1ほどの浅い場所でした。
さらに大きく違ったのが、海水に溶けている酸素の量です。
カリフォルニア湾の記録と比べると、今回の海水には約15倍もの酸素が溶けていました。
酸素の少ない深い海と、酸素の多いずっと浅い海という、まるで別の環境だったのです。
クラゲの大きさも違いました。カリフォルニア湾の個体は傘の直径約0.8m、腕3〜4mで、今回のほうがひと回り大きかったのです。

研究チームは、幼魚の群れが大きかった理由に、クラゲの大きさが関わっている可能性を挙げています。
ほかにも、魚の成長段階や種ごとの性質、すむ環境の違いが関係しているかもしれないといいます。
これだけ条件が違う海でも、魚がダイオウクラゲに寄り添う関係は成り立っていたのです。
研究チームは、ダイオウクラゲと魚の関係が、考えられていたより幅広い環境で生まれうると指摘しています。
また、浅い海では別のクラゲに付くこの魚が、水深200mより深い海では、ダイオウクラゲのような深海のクラゲを選んで付いている可能性もあります。
さらに、今回クラゲのそばにいたのは、すべて幼魚でした。
そのためこの魚にとってクラゲは、幼いあいだを過ごす「宿」になっているのかもしれません。

ただし、成長するにつれてこの関係がどう変わるのかは、まだ分かっていません。
実は、1973年の報告で北大西洋でダイオウクラゲと一緒に網にかかったとされた「ある魚」こそ、このラダーフィッシュでした。
そのため研究チームは、この関係が南大西洋に限らず、両者がすむ広い海に及んでいるかもしれないと考えています。
一方で、クラゲの側が得をしているのかどうかは分かっていません。
幼魚がアシロ目の魚のように寄生虫を食べていれば、クラゲにも得があることになります。
しかし今回の映像では、クラゲに寄生虫がいたかどうかも確かめられませんでした。
研究チームは、深海の生き物どうしの関わりについてはまだほとんど分かっておらず、今回の観察はそのことを示していると述べています。
1973年の報告で、同じ網にかかったことから疑われた関係は、雨傘ほどの傘の下に幼魚が身を寄せる姿として、ようやく映像に残されたのです。
写真で見るラダーフィッシュとクラゲ



参考文献
Want Some Deep-Sea Protection? Hire Yourself A Giant Phantom Jellyfish Body Guard (IFLScience)
https://www.iflscience.com/want-some-deep-sea-protection-hire-yourself-a-giant-phantom-jellyfish-body-guard-84994
元論文
Riding a phantom: Rudderfish ( Centrolophus niger ) with a giant deep‐sea jellyfish ( Stygiomedusa gigantea ) off Argentina
https://doi.org/10.1002/ecy.70542
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部
