同じ宝くじの大当たりが、独身男性には結婚への扉を、妻には離婚への扉を開いていました。
スペインのバルセロナ大学(UB)、アメリカのニューヨーク大学(NYU)、スウェーデンのストックホルム大学(SU)などの研究チームは、スウェーデンの宝くじ購入者およそ7万7000人を最長10年にわたって追跡しました。
その結果、100万スウェーデン・クローナ(約1580万円)が当たると、少額当選者に比べ、独身男性の5年以内の結婚はおよそ3割増え、既婚女性の2年以内の離婚はほぼ2倍になっていました。
研究の詳細は『Journal of Human Resources』に掲載されました。
お金で結婚は買えるのか?

宝くじが当たったら仕事を辞めようか、家を買おうかと、空想したことのある人は多いでしょう。
けれども、その先で結婚や離婚がどう変わるかまで考える人は、あまりいないかもしれません。
実は経済学では、お金と家族の関係は古くからの大きなテーマです。
ノーベル経済学賞を受賞したゲーリー・ベッカーは1960〜70年代に、人は結婚するか、独身でいるか、子どもをもつかを、それぞれから得られる満足を天秤にかけて決めていると論じました。
収入が増えれば、その天秤の傾きも変わるというのです。
現実の統計でも、収入の高い男性ほど結婚している割合が高いことが知られています。

ところが、この数字だけでは「お金があるから結婚できた」とは言えません。
収入の高い人は、学歴や仕事への意欲など、ほかの多くの点でも収入の低い人と違っているからです。
お金そのものの効果を取り出すには、本人の生まれや努力と関係なく、偶然お金が降ってくる場面が必要になります。
そこで研究チームが目をつけたのが、宝くじでした。
たとえばスウェーデンのスクラッチくじ「トリス(Triss)」では、当たり券を持つ人がテレビの生放送に出演し、5万〜500万クローナの賞金の中から自分で額を引き当てていました。
同じ年に同じルールで当たった人どうしなら、受け取った額の違いを生んだのは運だけです。

研究チームはこのトリスに加え、定期購入型のくじ(Kombilotteriet)と抽選付きの預金口座(PLS)のデータも集めました。
どのくじでも、比べたのは、同じ月に同じ枚数のくじを買っていた人たちのように、当たる条件がそろった人どうしだけです。
こうして選び出した、抽選の時点で18〜44歳だった7万6859人について、国の行政データをもとに、抽選から2年、5年、10年のあいだに起きた結婚・離婚・子どもの誕生を追いかけたのです。

結果はどれも、「税引き後で100万クローナ(約1580万円)が当たったら、結婚や離婚、子どもの数がどれだけ変わるか」という形で示されています。
100万クローナは、当時のスウェーデン人の一般的な手取り年収の5年分を超える大金です。
では、ある日突然この額を手にした男性と女性は、その後同じような家族の道をたどったのでしょうか。
宝くじが当たった独身男性は結婚が3割増し、妻は離婚がほぼ2倍

お金に余裕ができれば、男女とも結婚が増えて離婚は減るのか?
追跡データが描き出したのは、男女で向きの異なる2本の道でした。
まず独身の男性では、100万クローナが当たると、5年以内に結婚する確率が4.7ポイント上がっていました。
少額しか当たらなかった独身男性の結婚率は約16%なので、およそ3割の上乗せです。
この効果は、男性の中でも当選前の収入が真ん中(中央値)より下だった人に集中していました。
研究チームは、男性は結婚の前に「家族を養えるだけの経済力」を示すよう女性より強く求められやすく、当選金がその壁を一気に越えさせたという見方を示しています。
子どもの数も、男性では増えていました。
当選からの10年間に、既婚者も含めた男性当選者がもうけた子どもは、100万クローナあたり14%多くなっていました。
研究チームの見積もりでは、増えた子どものうち2〜4割は、当選をきっかけに結婚生活を送る年月が延びたことによるものでした。
一方、女性では、独身者が結婚しやすくなることも、子どもが増えることも、はっきりとは確かめられませんでした。
しかし、すでに結婚していた女性では、大きな変化が現れていました。
少額しか当たらなかった妻が2年以内に離婚する確率は約4%でしたが、100万クローナが当たると3.7ポイント上がり、ほぼ2倍に跳ね上がっていたのです。(※一方で、夫が当たった夫婦では、むしろ離婚が減る傾向が見られました。)

当選から2年の時点では、妻が当たった場合と夫が当たった場合の差は、統計的にもはっきりしていました。
ところが10年後まで見ると、少額しか当たらなかった妻たちもほぼ同じ割合で離婚しており、大金を当てた妻との差はほとんど消えていました。
そのため研究チームは、大金が離婚を新たに生んだというより、いずれ訪れるはずだった離婚を前倒ししたとみています。
実際、妻が当たって離婚が増えていたのは、年齢や学歴の離れた、いわば「釣り合いの取れていない」夫婦でした。
共著者のアナスタシア・テルスカヤ氏(バルセロナ大学)は、科学ニュースサイト「PsyPost」の取材で、ありがちな読み違いにこうくぎを刺しています。
「『お金を手にすると女性は夫のもとを去る』というわけではありません。効果は時間とともに薄れていきます。資産が主に変えるのは、すでにうまくいっていなかった結婚が『いつ』終わるかであって、終わる『かどうか』ではないのです」
では、同じ大金が、ではなく妻の手に入ったときにだけ離婚を早めるのはなぜなのでしょうか。
離婚した夫婦の財産は「半分こ」ではなかった――妻の当選金が「家を出る資金」に変わる理由

妻と夫で、同じお金の何が違ったのか?
研究チームは、その鍵が「離婚したとき、お金が誰の手に残るのか」にあると考えています。
スウェーデンの法律では、離婚すると夫婦の財産は原則として半分ずつに分けられます。
もし本当にきっちり半分ずつなら、妻と夫のどちらが当てても、離婚後は二人とも当選金の半分を受け取ることになり、当てた側だけが得をすることはありません。
ところが、国の資産登録データで、宝くじとは関係のない一般の夫婦の資産を調べると、現実は違っていました。

子どものいる夫婦が離婚したケースの約3割では、離婚の前から片方が資産の8割以上を握り、その偏りは離婚後も続いていたのです。
そもそも夫婦の約1割は、財産の一部や全部を分け合う対象から外す契約を登録しています。
宝くじの当選金も、結婚生活の中ですでに約3分の2が当てた本人の手元にとどまっていました。
当たったお金の多くは、離婚しても当てた本人の側に残ると考えられるのです。
ただ、お金が当てた本人の側に残るのは夫が当てた場合も同じで、これだけでは、妻が当てたときにだけ離婚が増えた理由になりません。
そこで候補に挙がるのが、もうひとつの鍵である家事の分担です。
多くの家庭では、家事の大きな部分を妻が担っています。
家事に時間を取られ、自分の裁量も小さい妻にとって、結婚生活の中で自分のためにお金を使える場面は限られます。
そのため妻にとって当たったお金は、結婚生活の中より、独り身になって自分のために使えるときのほうが値打ちを増します。
反対に、家事の多くを妻に任せられる夫にとっては、当たったお金は、家事を自分で抱える独り身のときより、結婚生活の中で使うほうが値打ちを増します。
研究チームは、妻が当てると「出ていく価値」が、夫が当てると「とどまる価値」が上がるとみています。

この「出ていく価値」が離婚にまで結びついたのは、自分の稼ぎだけでは家を出にくかった妻たちでした。
離婚が増えたのは、当選前の収入が真ん中より下だった妻に限られていたのです。
収入が真ん中より上だった妻では、長い目で見るとむしろ離婚が減り、夫と同じような反応を示していました。
しかも、当選額が桁外れに大きくなっても、離婚を後押しする効果はそのぶん伸びてはいませんでした。
研究チームはこれを、ひとりで暮らしていけるだけの額さえあれば十分で、それ以上の上積みはあまり効かないことの表れとみています。
世界でも指折りの男女平等の国スウェーデンでさえ、経済的に弱い立場の妻にとっては、お金が結婚生活を終わらせる最後のひと押しになっていたことになります。
「このことは、女性がいまだに、結婚生活から抜け出すうえで経済的な障壁に直面していることを示しています」(テルスカヤ氏)
ただし、この研究はスウェーデンという、離婚の手続きが簡単で、結婚せずに暮らすカップルも広く受け入れられている国のデータにもとづいています。
研究チーム自身も、結果が最もよく当てはまるのは北欧のような高所得の福祉国家だと考えています。
それでも、アメリカの宝くじ当選者を調べた先行研究では、結婚を後押しする効果は男性のほうが、離婚を後押しする効果は女性のほうが大きいという、同じ向きの男女差が出ています。
運だけで配られたお金を手がかりにしたことで、お金と家族の関係が、単なる相関ではなく因果として浮かび上がりました。
同じお金が、妻には結婚の外へ出る扉を、独身男性には結婚へ入る扉を開いていたのです。

専門家向けの補足
宝くじ研究から読み解く資産と家族形成の関係
この研究が捉えたのは、予期しない資産の増加が、その後の結婚・離婚・出生をどう変えるかです。
結果からは、家族を築くための経済的な条件と、結婚の外でも暮らせる条件の両方が見えてきます。
ただし、お金が行動を変えたことを示す証拠と、なぜ変わったかを説明する証拠には、強さの違いがあります。〔1〕
1 主結果は男性の結婚と出生の増加および女性の短期的な離婚増加
分析の対象は、スウェーデンの宝くじ参加者7万6859人で、抽選時の年齢は18〜44歳です。
同じ人が複数の抽選で登場するため、分析に用いた抽選イベントは8万8124件あります。
研究チームは、抽選回や購入枚数、賞金の決まり方など、くじごとに必要な条件がそろう組を作りました。
その組の中で偶然に生じた賞金額の違いを使い、本人の学歴や所得などと切り分けて資産の効果を推定しています。〔1〕
結婚は抽選前年末に結婚していなかった人、離婚は結婚していた人について調べています。
いずれも、2年・5年・10年以内に一度でもその出来事を経験したかという、累積の確率です。
子どもの数は、既婚者と独身者を含む参加者について、抽選後の各期間に生まれた人数を捉えます。
追跡は最長10年で、生涯の最終的な子どもの数を測った結果ではありません。
すべての効果は、税引き後・2010年の物価にそろえた当選金100万クローナあたりに換算されています。〔1〕
対象と結果 期間 100万クローナあたりの
推定効果大きさの読み方 独身男性の結婚 5年以内 +4.68ポイント 基準となる約16%に対して、約3割の増加 既婚女性の離婚 2年以内 +3.70ポイント 基準となる約4%に対して、ほぼ2倍 既婚女性の離婚 10年以内 −0.28ポイント 平均的な効果はゼロに近く、明確な増減を確認できない 男性の子どもの数 10年間 1人あたり+0.0563人 約14%増、人数では男性100人あたり約5.6人増 表の「基準」は、1万クローナ未満の少額当選者などの平均です。
効果の値は、さまざまな賞金額の比較から推定した、金額あたりの平均的な変化です。
100万クローナを当てた集団と、少額当選者の割合をそのまま引き算した値ではありません。
また、出生の約14%増は、子どもを持った男性の割合が14ポイント上がったという意味ではありません。〔2〕
男女差の証拠は、結果によって異なります。
結婚と出生では男性の増加を支持する証拠が得られましたが、女性では明確な効果が確認されませんでした。
しかし、両者の効果の差を直接調べた検定は、どの期間でも通常の5%基準を満たしていません。
たとえば5年以内の結婚では、男性が+4.68ポイント、女性が+0.72ポイントでも、差の検定のp値は0.090です。
一方の効果が明瞭で、もう一方が不確かであることは、二つの効果が違うと確定したこととは別です。〔2〕
これに対し、離婚への効果の男女差は、2年と5年で統計的に支持されています。
それぞれのp値は0.007と0.017です。
ただし、夫の当選による離婚減少は、妻の短期離婚増加ほど安定した結果ではありません。
主解析では10年以内の離婚が6.42ポイント減る推定ですが、対象を18〜64歳に広げると0.81ポイントの減少に縮みます。
抽選の無作為性を利用した検定や、多数の比較に対する調整でも、男性の離婚減少は著者の採用基準を満たしません。
妻では離婚が増え、夫では減るという対称的な説明には、この証拠の強弱を残す必要があります。〔8〕
男女をまとめた離婚の推定では明確な効果が見えなくても、分けて調べると反応の違いが現れる点は、本研究の重要な成果です。〔2〕
2 男性の結婚増加には経済的な安心と相対的な有利さが考えられる
男性の結婚増加は、当選前の所得が低い層で目立ちました。
この結果は、生活の見通しが立たず結婚に踏み出せなかった人に、資産が経済的な安心を与えたという説明と整合します。
著者は、結婚前に一定の経済力を示すことが男性に強く求められる、という既存の議論と結びつけています。〔3〕
ただし、当選が結婚相手を探すうえでの相対的な有利さを高めた可能性もあります。
この二つは、個人の当選では似た結果を生みますが、社会全体にお金を配る場合には予測が異なります。
生活に必要な資金の不足が主な壁なら、多くの人の資産が増えることで、結婚できる人も増えるでしょう。
相手選びで周囲より経済的に有利かどうかが重要なら、全員の資産が同じように増えても、順位は変わりません。
本研究は、この二つの説明を識別できていません。
個人の当選による結婚増加を、そのまま一律給付による社会全体の結婚増加に置き換えられない理由です。〔3〕
出生の結果にも、希望と実現条件を区別する必要があります。
男性の子どもの数が増えたことから、男性のほうが本来多くの子どもを望んでいたとは結論できません。
パートナーを得る機会が増えたことや、家族を持つ経済的な条件が整ったことでも説明できるからです。
また、ここで比較するのは、男性本人が当選した場合と女性本人が当選した場合です。
当選した男性に子どもが増えることは、その相手の女性にも子どもが増えることと両立します。〔4〕
著者は、男性の出生増加の2〜4割を、結婚の増加や離婚の減少で説明できると概算しています。
しかし、これは結婚を通じた因果経路を直接測った割合ではありません。
当選で子どもを持つ見通しが変わり、それが結婚を促した可能性まで含めると、出来事の順序は単純ではなくなります。
この概算は、結婚の変化が出生増加に寄与しうる規模を示すもので、原因の内訳を確定するものではありません。〔4〕
3 夫婦の総資産とそれぞれが使える資産は同じではない
離婚の男女差から著者が掘り下げるのは、世帯の資産が増えることと、個人の選択肢が広がることの関係です。
夫婦の間で資源の使い方を調整するモデルでは、離婚後にどの程度の生活ができるかも、結婚中の力関係に影響します。
結婚の外で暮らせる条件がよくなれば、離婚が選びやすくなるだけでなく、結婚を続けながら希望を通す余地も広がりえます。〔5〕
このモデルで、離婚時に賞金が必ず半分ずつに分かれるなら、離婚後の受取額はどちらが当てても同じです。
その条件でも男女差を説明するには、誰が当てたかによって結婚生活から得る満足が変わる仕組みが必要になります。
たとえば「夫が主な稼ぎ手であるべきだ」という規範を、夫婦のどちらかが重視している場合です。
一方、当てた本人に半分を超える資産が残るなら、本人の独立後の生活条件がより大きく改善します。〔5〕
ただし、本人に多く残るという条件だけで、離婚への影響が男女で逆向きになるとは限りません。
著者のモデルが検討するのは、同じ額のお金が増えても、妻は結婚中より独り身のときに、夫は独り身のときより結婚中に、より大きな利益を得るという条件です。
その背景の候補が、家事負担や、お金を自分のために使う自由の違いです。
この条件が十分に強ければ、妻の当選は結婚から離れる価値を、夫の当選は結婚を続ける価値を高めると説明できます。
家事分担が実際の離婚を引き起こしたと測定したわけではなく、観測結果を生みうる仕組みを示した理論上の説明です。〔5〕
資産の資料は、この説明の前提を部分的に支えています。
宝くじとは別の登録データ分析では、調査した子どものいる夫婦の約3割で、離婚前から片方に資産の8割以上が偏っていました。
その偏りは離婚後にも残っており、登録された個人資産が一律に半分ずつになる状況ではありませんでした。
また、宝くじ当選年の夫婦の資産増加を比べると、本人側に生じた増加は合計の約3分の2と推定されます。〔5・6〕
もっとも、離婚後の登録資産は、財産分与の合意や実際の送金を直接記録したものではありません。
消費や借入などによる変化も含まれるため、偏りだけから当選金の分配率を確定することはできません。
また、当選で得られる満足が、結婚中と独り身で男女それぞれどう異なるかも重要です。
著者の満足度などの補助分析は推定の幅が大きく、モデルで置いた条件を確かめるには十分ではありません。
したがって、この研究が促すのは、家計の総額に加え、誰が資産を使え、別離後に何を保持できるかまで分析することです。〔5・6〕
4 離婚の前倒しという解釈には時間変化の根拠と限界がある
女性の離婚への効果は、2年では増加し、10年では平均するとほぼゼロになりました。
しかも、2年と10年の効果の差自体が統計的に支持されており、p値は0.005です。
この時間的な変化は、資産がすでに終わりに向かっていた結婚の解消を早めた、という解釈を支えます。〔2〕
ただし、これは集団の累積確率から導かれる解釈です。
誰が離婚を望んでいたか、当選しなければいつ離婚したかを、個人ごとに確認したものではありません。
所得別の追加分析では、低所得の女性で離婚が増え、高所得の女性では長期的に減る傾向も見られます。
そのため、女性全体の平均がゼロに近づいたことを、すべての女性について「時期だけが変わった」と読むことはできません。〔2・7〕
低所得の妻で効果が目立つことは、別離の経済的な壁が緩んだという説明に合います。
しかし、所得別などの追加分析は、細かく分けるほど対象が減り、多数の比較による偶然の違いも入りやすくなります。
年齢差や学歴差を夫婦関係の質の手がかりにした分析もありますが、夫婦仲そのものの測定ではありません。
離婚の理由を確かめるには、本人の意思や関係の変化を追う別の証拠が必要です。〔7〕
5 男女差の説明と他の社会への適用にはなお条件がある
研究チームは、法的な婚姻に限らず、同棲を含む関係の形成・解消も調べています。
女性の短期的な別離増加は同様に見られましたが、男性の別離減少は小さく、不確かでした。
また、子どものいない同棲を過去の登録情報だけで把握することには限界があります。
この分析は女性の結果の範囲を広げる手がかりになりますが、男性の資産があらゆるパートナー関係を安定させるとは言えません。〔8〕
無作為性の範囲にも区別が必要です。
この研究で偶然に決まるのは、条件をそろえた参加者の間での賞金額です。
同じ夫婦について、同額の賞金の受取人が妻か夫かまで無作為に割り当てられているわけではありません。
男女の参加者には、測定していない性質の違いが残る可能性があります。
著者は夫婦の年齢・所得・学歴などの分布がそろうよう調整しても結果が保たれることを示していますが、この可能性を完全に除いてはいません。〔8〕
金額や制度が変わる場合も、そのままの比例換算はできません。
当選金100万クローナは、当時の一般的な年間可処分所得の5年分を超える規模です。
少額の継続給付や、働く時間あたりの報酬が上がる賃上げとは、家族の選択に作用する条件が異なります。
賃上げには、育児のために仕事を休んだときに失う収入が増える面もあり、資産だけが増える場合と区別する必要があります。〔1・4〕
賞金が一定額を超えると効果が頭打ちになる可能性も論じられていますが、その形は確定していません。
また、スウェーデンでは離婚や同棲が広く受け入れられ、育児や就労を支える制度も整っています。
結果の移し替えが比較的しやすいと著者が考えるのは、北欧など制度や社会的条件の近い国です。
日本で同額のお金を配れば同じ割合だけ結婚や離婚が増える、と読み替えることはできません。〔8・9〕
本研究は、偶然の賞金額の違いから、男性の結婚・出生の増加と、女性の短期的な離婚増加を捉えました。
その理由を考えるうえで重要なのは、家計の総額に加え、夫婦それぞれが結婚の内と外で使える資源を見ることです。〔2〜5〕
出典と補注
一次論文:David Cesarini、Erik Lindqvist、Robert Östling、Anastasia Terskaya.
Fortunate Families? The Effects of Wealth on Marriage and Fertility.
Journal of Human Resources、2026年5月12日オンライン先行公開。
https://doi.org/10.3368/jhr.0824-13793R2補足資料:同論文のOnline Appendix、2026年3月30日版。
https://journals.uwpress.wisc.edu/JHR/supp/0824-13793R2_supp.pdf〔1〕一次論文 pp.7–17、表1・2。
宝くじの記録は1986〜2011年にまたがり、行政登録データは2018年までです。
本文のページ番号は、確認した62ページの論文PDFに対応します。〔2〕一次論文 pp.16、21–23、表4。
著者は27通りの主効果検定に、偽発見率の基準を10%に置いた多重比較調整を用いています。
これは、有意と判断した結果の中に混じる誤検出の割合を制御する方法です。
男性の10年出生効果の調整後p値は0.093で、著者の10%基準では支持されますが、5%基準では有意ではありません。
本文に示した男女差のp値は、この27検定の調整値とは別の、効果の差を直接調べた検定の値です。〔3〕一次論文 pp.27–28、36–38。
経済的な準備と相対的な順位による説明、および社会全体への資産増加へ移す際の違いは、著者の考察に基づきます。〔4〕一次論文 pp.14–15、28–29、43–44、式3。
出生増の2〜4割は、結婚形成・解消の推定効果を組み合わせた概算です。
男女別の出生効果が矛盾しないという説明は、当選者本人を分析単位とすることから導く整理です。〔5〕一次論文 pp.38–42、図4。
資産の帰属、離婚後の選択肢、家事負担による説明は、著者のモデルと考察に基づきます。
一般の夫婦の資産分布、宝くじ当選後の資産配分、満足度の分析は、それぞれ別の証拠として扱っています。〔6〕補足資料 表A.14、B.3、I.3。
約3分の2は当選年末の夫婦の純資産増加に占める本人側の割合で、離婚時の当選金保持率ではありません。
資産登録には、住宅の評価や所有者の把握、登録されない資産などの制約もあります。〔7〕一次論文 pp.27–29、図2、脚注8(pp.60–61)。
所得・年齢・学歴差による追加分析は、主結果を説明する探索的な手がかりです。〔8〕一次論文 pp.24–27。
対象年齢、高額当選の除外、参加者の属性、追跡対象、同棲を含む指標を変えた検証に対応します。〔9〕一次論文 pp.17–20。
他国への適用については、著者が論じた制度・文化・家族形成の条件に基づきます。
元論文
Fortunate Families? The Effects of Wealth on Marriage and Fertility
https://doi.org/10.3368/jhr.0824-13793R2
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部


