休日に宇宙が舞台のパニック映画を観ると、帰り道に少しだけ空が気になるものです。
約6600万年前、小惑星の衝突をきっかけに、地球の動物や植物のおよそ75%が姿を消しました。
ただ小惑星の衝突は、多くの自然災害と違い、人の手で防げるかもしれない災害です。
2022年にはNASAの探査機(DART)が、ギザの大ピラミッドほどの小惑星に体当たりしました。
そして、その小惑星の進む道を変えることに成功しています。
ところが、見つかるのが遅かったり相手が巨大だったりすると、体当たりでは間に合わないおそれがあります。
実際、小惑星「2024 YR4」は、一時は地球にぶつかる確率が3.1%とされました。
のちの観測で脅威ではないと分かりましたが、このように発見から衝突までの時間が短い場面もありえます。
研究チームは、そんなときには小惑星を粉々に壊すことが、現実的な唯一の手段になりうると述べています。
そこで検討されているのが、核爆発を使う、映画『アルマゲドン』を思わせる作戦です。
では、核爆発で本当に小惑星を壊しきれるのでしょうか。
研究の詳細は、米ローレンス・リバモア国立研究所らにより、2026年8月1日付で学術誌『The Planetary Science Journal』に掲載されました。
核は小惑星に「当てずに」爆発させる

核を使う強みは、体当たりする探査機よりもずっと大きなエネルギーを小惑星に届けられる点です。
ただし核は小惑星に当てず、表面から少し離れた場所で爆発させるのが基本です。
核爆発のエネルギーのうち、7〜8割はX線として放たれます。
そのX線が小惑星の表面の薄い層に吸収され、岩石を一気に蒸発させます。
噴き出したガスの反動で小惑星は押され、同時に内部へ衝撃波が走ります。

エネルギーが十分に大きければ、この衝撃波が全体にひびを広げ、小惑星をばらばらにできると考えられています。
研究チームは、小惑星をたくさんの粒(粒子)の集まりとして扱う計算方法(SPH法)で、この流れを再現しようとしました。
X線の吸収をとらえるため、表面近くの粒は深さ方向に1cm未満の細かさで刻んでいます。
そのぶん横方向は粗く(ふつうは数m)、表面の粒は縦横比が数万にもなる「パンケーキ」のような薄い形になりました。
まず1,500回を超える1次元の計算で、これまでの別の計算方法と0.8%以内で一致することを確かめています。
そのうえで、均一な岩石(苦土かんらん石)でできた直径160mの小惑星を想定し、3Dの計算を3通り行いました。
変えたのは、爆発させる距離(10mと25m)と、実在の隕石をもとにした岩石の壊れやすさの想定です。
核は小惑星に近いほど、よく壊せるのか?

この計算は、とてつもなく重いものでした。
1680個の計算コア(計算を受け持つ演算装置)を使い、最も長く回した計算では59日かかりました。
それでも進められたのは、爆発から145ミリ秒、つまり1秒の7分の1ほどまでです。
現実のほんの一瞬を追うのに、約2カ月を費やしたことになります。
最も先まで計算できたのは、小惑星から10m離れて爆発させたケースです。
145ミリ秒の時点で、小惑星の物質の98.2%が「完全に損傷した」状態になっていました。
つまり、小惑星のほぼ全体に、ひびが行き渡ったことになります。
しかも、物質の97%が、小惑星の重力を振り切る速さ(脱出速度)を超えて動いていました。
この小惑星の脱出速度は秒速わずか7.89cm、時速に直すと約0.28kmです。
人が歩くよりずっと遅い速さです。重力の弱い小惑星からは、破片がゆっくり動くだけで離れていけるのです。

物質の77%は、脱出速度の2倍を超えていました。
さらに27%は、10倍を超える速さで動いていました。

研究を率いたイザイア・サンティステバン氏は、この結果を「心強い」と表現しています。
大きな損傷と、重力を振り切る物質の動きは、小惑星が壊れつつある重要な兆しだというのです。
さらに意外だったのは、爆発させる距離による違いです。
核爆発の元のエネルギーは1メガトン(TNT火薬100万トン分)でしたが、小惑星が吸収したのはそのごく一部でした。
10mの距離から爆発させると、吸収されたのは55.4キロトン分でした。
一方、25mまで離すと30キロトン分と、半分ほどに減りました。
ところが爆発から68ミリ秒の時点で、完全に損傷した物質の割合は、離れた方が高かったのです。
その割合は、近い方が78.1%、離れた方が92.6%でした。

計算したどの時点でも、離れた方が壊れた割合は大きいままでした。
研究チームは、離れて爆発させた方が、エネルギーが小惑星の広い面に届いたためだと考えています。
つまり、核を近づけるほどよく壊れるとは限らず、爆発の距離の選び方が作戦を左右しうるのです。
それでも「成功」と言い切れない理由

ただし研究チームは、これで小惑星を確実に壊せると結論づけたわけではありません。
しっかり壊せたと言うには、残った破片が地球の脅威にならないことを確かめる必要があります。
よく使われる目安は、直径10mより大きな破片を1つも残さないことです。
ところが計算は145ミリ秒で止まっており、破片の大きさまでは確かめられていません。

動きの面でも、爆発と反対側へ動く物質の平均の速さは秒速約66cmで、脱出速度の8.37倍でした。
しっかり壊す目安とされる「脱出速度の10倍」には、わずかに届いていません。
ただ研究チームは、計算が最も速く飛び出す物質をとらえきれていないため、この速さは実際より低めに出ている可能性が高いとみています。
もう1つの心配は、飛び散った破片が自分たちの重力で再び集まってしまうことです。
研究チームは、衝突で小惑星が壊れる条件を示す別の目安とも比べています。
すると吸収されたエネルギーは、すき間の多い岩石質の小惑星の基準を50〜100倍も上回っていました。
ただ、この目安でいう「壊れた」とは、質量の半分が再び集まらない程度のことです。
逆に言えば、残りの半分がひとかたまりになると、その重さは約190万トンになります。
球に直すと直径約120m(半径約59m)で、これでもまだ地球にとって大きな脅威です。

さらに今回の模型は中身が均一な小惑星で、大きな岩の塊や大きな空洞は扱えません。
岩くずが寄せ集まった「がれきの山」のような小惑星では、違う結果になるかもしれません。
実際、岩石の壊れやすさの想定を変えただけでも、壊れ方は大きく変わりました。
比べたのは、どちらも25m離れて爆発させ、34ミリ秒たった時点の、完全に損傷した物質の割合です。
2013年にロシアで窓ガラスを広く割った出来事で知られる、チェリャビンスク隕石をもとにした想定では、60.2%でした。
一方、ひびが入りにくく広がりにくいアバ・パヌ隕石をもとにした想定では、34.2%にとどまりました。

研究チームは、より長い時間まで計算を進め、破片の大きさや散らばり方を直接確かめる必要があるとしています。
それでも今回調べたのは、作戦の設計で「確実に壊せる」とされる条件より少し手前の範囲です。
その範囲でも、損傷の広がりと物質の動きは、小惑星がしっかり壊れる領域のすぐ近くにあることを強く示していました。

簡単な見積もりの式では、直径約160mの小惑星を壊すのは無理だとされていました。
それでも計算では、10mと25mのどちらの距離でも、壊れつつあることを示す損傷の進み方と全体の動きが現れたのです。
現実の1秒の7分の1を追うのに、1680個の計算コアは約2カ月をかけました。
その一瞬のうちに、直径160mの岩の塊のほとんどが、自分の重力を振り切れる速さで動き出していたのです。
地球を救う役目に名乗りを上げたい方も、ドリルの練習はもう少し後回しで大丈夫そうです。
ここからは、DART (探査機)をもっと知りたい人へ
DARTとは、小惑星に体当たりして進路を変える方法を、実際に試したNASAの探査機です

NASAによると、DARTの体当たりは、人類が狙って天体の動きを変えた初めての出来事でした。
その相手は、ディモルフォスという直径約160mの小惑星で、より大きな直径約780mの小惑星ディディモスの周りを回っています。
なお、この2つの小惑星は、体当たりの前も後も、地球にとって危険はありません。
そこへDARTが時速約2万2530kmでぶつかると、ディモルフォスがディディモスを1周する時間は、11時間55分から11時間23分へと32分短くなりました。
この変化は、NASAが前もって決めていた成功の最低の線を、25倍以上も上回るものでした。
しかも、体当たりで噴き出した岩くずの反動が、風船が空気を噴き出して逆へ飛ぶのと少し似たしくみで、小惑星を押す力を大きく強めました。
この後は、欧州宇宙機関がJAXAと協力して進める探査機ヘラが、DARTの残したクレーターを中心に2つの小惑星を詳しく調べ、ディモルフォスの重さを正確に測る計画です。
写真で見る小惑星と、チェリャビンスクの火球




参考文献
Bruce Willis, We May Have A Job For You: Scientists Simulate Nuking An Asteroid, And The Results Are Pretty Encouraging (IFLScience)
https://www.iflscience.com/bruce-willis-we-may-have-a-job-for-you-scientists-simulate-nuking-an-asteroid-and-the-results-are-pretty-encouraging-84992
NASA「NASA Confirms DART Mission Impact Changed Asteroid’s Motion in Space」
https://www.nasa.gov/news-release/nasa-confirms-dart-mission-impact-changed-asteroids-motion-in-space/
ジョンズ・ホプキンス大学応用物理研究所「NASA, Johns Hopkins APL Launch First Planetary Defense Test Mission to Double Asteroid System」
https://www.jhuapl.edu/news/news-releases/211124-nasa-johns-hopkins-apl-launch-first-planetary-defense-test-mission-to-double-asteroid-system
JAXA「Hera」
https://global.jaxa.jp/projects/sas/hera/
元論文
Nuclear Mitigation of Hypothetical Asteroid Threats in Smoothed Particle Hydrodynamics
https://doi.org/10.3847/psj/ae8a49
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部
