starthome-logo 無料ゲーム
starthome-logo

光を当てると「藻」で動くロボットの腕が金属の玉をつかむ


水槽のガラスにいつの間にか緑色のぬめりが付いていて、休日にスポンジでせっせとこすり落とした覚えのある人もいるでしょう。


ロボットの腕を動かすものと聞くと、多くの人はモーターや電池を思い浮かべるはずです。


ところが今回、ごく小さな藻に覆われた柔らかいロボットの腕が、光を当てるだけで動き、物をつかめることが報告されました。


この腕を動かすのに、複雑な機械の部品も、遺伝子の組み換えも要りません。


では、目に見えないほど小さな藻が、いったいどうやって腕を曲げているのでしょうか。


研究の詳細は、オランダのデルフト工科大学らにより、2026年10月22日付で学術誌『Nature Communications』に掲載されました。


光と藻で動く、長さ約2cmの「腕」


空気で膨らませて動かす、柔らかい素材のロボットの腕です(アメリカ・カーネギーメロン大学のロボティクス研究所)。ディズニー映画に出てくるベイマックスの姿を考えるときに、制作チームのヒントになったロボットです。別の研究所のロボットで、今回の藻で動く腕ではありません。
空気で膨らませて動かす、柔らかい素材のロボットの腕です(アメリカ・カーネギーメロン大学のロボティクス研究所)。ディズニー映画に出てくるベイマックスの姿を考えるときに、制作チームのヒントになったロボットです。別の研究所のロボットで、今回の藻で動く腕ではありません。 / Credit: Z22 / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)

柔らかい素材でできたロボットは、水の中で物をそっと扱う作業に向いています。


ただ論文によると、これまでの柔らかい動く部品(ソフトアクチュエーター)は、外からのエネルギーや複雑な機械の部品、遺伝子の組み換えなどのどれかに頼るものでした。


この課題に取り組んだのは、オランダのデルフト工科大学のマリー=イヴ・オービン=タム氏らの研究チームです。


オランダ・デルフトにあるデルフト工科大学の、工業デザイン学部の建物です。今回の研究チームは、この大学の研究者たちです。
オランダ・デルフトにあるデルフト工科大学の、工業デザイン学部の建物です。今回の研究チームは、この大学の研究者たちです。 / Credit: Ymblanter / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)

同氏によると、最初から特定の使い道を狙った研究ではありませんでした。


生きた細胞を素材に組み込んだら何ができるのかを、確かめたかったのだといいます。


作られたのは、長さ約2cm、厚さ約1mmの緑色の細い帯です。


帯は、水をたっぷり含んだゼリー状の素材(ハイドロゲル)を2枚貼り合わせたものです。


その表面に、植物に近い単細胞の小さな藻、クラミドモナス(Chlamydomonas reinhardtii)が住み着いています。


クラミドモナスを電子顕微鏡(走査型)で撮った画像です。細胞1つででき、べん毛という毛を持つ藻で、遺伝子の研究でお手本の生き物としてよく使われています。
クラミドモナスを電子顕微鏡(走査型)で撮った画像です。細胞1つででき、べん毛という毛を持つ藻で、遺伝子の研究でお手本の生き物としてよく使われています。 / Credit: Dartmouth Electron Microscope Facility, Dartmouth College / Wikimedia Commons(Public domain)


研究チームが利用したのは、藻が光を浴びると周りの水の性質を変える、という働きでした。


藻が光合成をすると周りの水はアルカリ性に傾き、暗くなって呼吸をすると酸性の側へ戻ると考えられます。


もし2枚の層が、水のpH(酸性・アルカリ性の度合い)にそれぞれ違う反応を示せば、どうなるでしょうか。


藻の昼と夜のリズムが、そのまま帯の曲がる動きに変わるはずです。


つまりこの腕のエンジンは、モーターではなく、藻の光合成そのものなのです。


藻はどうやって腕を曲げているのか?


pHを調べるための紙(pH試験紙)を巻いたものです。藻の働きは、この紙で調べるような水のpHの上がり下がりとなって現れます。
pHを調べるための紙(pH試験紙)を巻いたものです。藻の働きは、この紙で調べるような水のpHの上がり下がりとなって現れます。 / Credit: Kiyok / Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0)

研究チームはまず、ふつうの培養液から、pHを一定に保つ成分と、藻が光合成なしでも栄養にできる酢酸を抜きました。


藻の働きだけで、水のpHが大きく動くようにするためです。


さらに、藻の「食べ物」である窒素の材料を、アンモニウムから硝酸に替えました。


藻がアンモニウムを取り込むときは細胞から水素イオンが出て、周りの水はわずかに酸性に傾き、pHは小さくしか振れません。


一方、硝酸は水素イオンといっしょに細胞へ運び込まれるため、外の水はアルカリ性に傾きます。


藻の細胞が窒素の材料を取り込むときの、水素イオンの出入りを表した図です。矢印の向きが左右で逆になるので、硝酸の方が外の水をアルカリ性に傾けます。
藻の細胞が窒素の材料を取り込むときの、水素イオンの出入りを表した図です。矢印の向きが左右で逆になるので、硝酸の方が外の水をアルカリ性に傾けます。 / Credit: ナゾロジー編集部(編集部が作成した図)

しかも硝酸を細胞の中で使える形に変える作業は、光合成で作られる物質に頼るので、主に明るい間に進みます。


こうして整えた培養液で、6時間明るく18時間暗いという周期で藻を育てました。


代表的な1回(5回目の周期)では、明かりをつけると、水のpHは8.1から10.8まで一気に上がりました。


藻を育てた水のpHが、明暗1回(24時間)の間にどう変わるかを示した図です。短い明るい時間に一気に上がり、長い暗い時間をかけて戻ることが分かります。
藻を育てた水のpHが、明暗1回(24時間)の間にどう変わるかを示した図です。短い明るい時間に一気に上がり、長い暗い時間をかけて戻ることが分かります。 / Credit: ナゾロジー編集部(編集部が作成した図)

かかった時間は、点灯からわずか2時間40分ほどです。


pHは1違うと10倍の差を表す目盛りなので、これは大きな変化です。


明るい残りの時間、pHは11.0あたりで頭打ちになりました。


暗くなるとpHは下がり、18時間かけて元の8.1に戻りました。


この上下は少なくとも14回くり返され、上限と下限は回を重ねるごとに少しずつ高くなりました。


次は、この水の変化を受け止める2層のゲルです。


片方の層にはpHに反応する化学の「部品」(フェニルボロン酸)が組み込まれ、もう片方はpHに反応しません。


pHが3〜7の液では、反応する層の膨らみ方は、反応しない層の4分の1ほどでした。


ところがpH11の液では、反応する層は反応しない層のおよそ3倍まで膨らみました。


pHのちがう液に浸けたとき、2つの層がどれだけ膨らむかを比べた図です。棒の高さは実際の比のとおりで、pH9で差がほぼ縮まり、pH11で逆転するのが見どころです。
pHのちがう液に浸けたとき、2つの層がどれだけ膨らむかを比べた図です。棒の高さは実際の比のとおりで、pH9で差がほぼ縮まり、pH11で逆転するのが見どころです。 / Credit: ナゾロジー編集部(編集部が作成した図)

2枚の膨らみ方がずれるため、帯は膨らみの少ない側へ反るように曲がります。


実際に帯をさまざまなpHの液に浸けると、pH8までは一方向へ、pH10以上では逆方向へ曲がりました。


2枚の膨らみ方が近づくpH9あたりでは、帯はほぼまっすぐ立ったままでした。


pH12の液では、帯はたった10分で約440度も逆向きに曲がりました。


1回転の360度を超え、さらに80度ほど巻き込む曲がり方です。


ただしこれはpHを整えた液に浸けたときの値で、藻の力だけで出した曲がり方ではありません。


続いて、藻のいない帯を藻の培養液に浸け、明暗を7日間くり返しました。


その間、帯は藻が起こすpHの上下によく合わせて曲がっていました。


明るい時と暗い時に、2層の帯がどちらへ曲がるかを表した図です。膨らんだ層が外側に回るように反るので、点線のまっすぐな位置から左右逆へ曲がります(形は模式的です)。
明るい時と暗い時に、2層の帯がどちらへ曲がるかを表した図です。膨らんだ層が外側に回るように反るので、点線のまっすぐな位置から左右逆へ曲がります(形は模式的です)。 / Credit: ナゾロジー編集部(編集部が作成した図)

日がたつと、藻は帯の表面に住み着いて、薄い膜(バイオフィルム)を作りました。


しかも藻はpHに反応する層の側に多く集まり、7日目にはその膜の厚さが約71µm(マイクロメートル。1µmは1000分の1mm)に達しました。


これは、帯の厚さのおよそ14分の1にあたります。


反応しない層の側の膜は、その6割ほどの厚さにとどまりました。


反応する層の「部品」は糖を含む生体の分子とくっつきやすく、それが藻の付きやすさにつながった可能性があるといいます。


藻は、自分が動かす層のすぐそばに好んで住み着き、光に合わせて水のpHを上げ下げして帯を曲げていたのです。


ゴムの輪を引っかけ、金属の玉をつかむ


アメリカのカリフォルニア大学サンディエゴ校の研究室で作られた、物をつかむロボットの手(グリッパー)が、レモンをはさんで持ち上げているところです。別の研究室のロボットで、今回の藻で動く腕ではありません。
アメリカのカリフォルニア大学サンディエゴ校の研究室で作られた、物をつかむロボットの手(グリッパー)が、レモンをはさんで持ち上げているところです。別の研究室のロボットで、今回の藻で動く腕ではありません。 / Credit: Jacobs School of Engineering / Flickr(CC BY 2.0)

では、この曲がる帯で、実際にどんな仕事ができるのでしょうか。


筆頭著者のファン・ジャン氏らは、帯でゴムの輪を引っかけて持ち上げ、小さな金属の玉をつかんでみせました。


柔らかくそっと扱えるため、特に水の中で小さな物をつかんだり動かしたりする作業に向くといいます。


帯の形を変えれば、別の動きや働きを持たせることも簡単だそうです。


光に合わせて曲がる性質は、光に応じて形や向きを変えるブラインドや農業の装置に生かせる可能性もあります。


窓のブラインドと、そのすき間から差し込んだ日の光が壁に作った模様です。
窓のブラインドと、そのすき間から差し込んだ日の光が壁に作った模様です。 / Credit: Tomwsulcer / Wikimedia Commons(CC0)

明かりを消したときの反応は、意外なほど早く始まります。


ジャン氏によると、明かりを消すと、藻が細胞にためた「燃料」が燃やされて二酸化炭素が出ます。


すると10秒もしないうちに、帯は逆向きに曲がり始めるといいます。


さらにこの腕は、同じ培養液の中で、少なくとも2か月間、曲がっては戻る動きを続けました。


論文によると、生き物を組み込んだ柔らかい動く部品で、これほど長く働き続けた例はあまり多くありません。


動力は自然の光合成だけで、外からのエネルギーも、複雑な機械の部品も、遺伝子の組み換えも使っていません。


遺伝子を組み換えた生き物を外の環境に放つときの安全面の心配を避けられる、と研究チームは述べています。


藻は日光からエネルギーを得ながら、空気中の二酸化炭素も取り込みます。


このため、電気と機械で動く従来のロボットに比べて、二酸化炭素の排出を大きく減らせる可能性があるといいます。


管の形をした、光を使って生き物を育てる装置(管型のフォトバイオリアクター)です。
管の形をした、光を使って生き物を育てる装置(管型のフォトバイオリアクター)です。 / Credit: AlgaEnergy / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)

藻は温度や塩分、光の強さの変化にも強いとされます。


研究チームは、水中ロボットや農作業の自動化装置のほか、芸術作品や、生き物や組織に力を加えて刺激する用途なども、将来の使い道に挙げています。


ドイツ・ハンブルクで開かれた風力の見本市(ウィンドメッセ)に出された水中ロボットです。今回の研究とは別のロボットです。
ドイツ・ハンブルクで開かれた風力の見本市(ウィンドメッセ)に出された水中ロボットです。今回の研究とは別のロボットです。 / Credit: Dr. Karl-Heinz Hochhaus / Wikimedia Commons(CC BY 3.0)

ただし、整えた培養液を6時間明るく18時間暗い周期で育てた代表的な測定では、点灯からpHが8.1から10.8まで上がるのに約2.7時間、暗くなってから8.1に戻るのに18時間かかっていました。


オービン=タム氏も、多くのエネルギーをかけずに動かせるという点については「理論上は」と断っています。


挙げられた使い道の多くも、いまはまだ可能性の段階です。


それでも同氏は「人工の素材が藻の反応を本当に機械の動きに変えるのを見るのは、正直わくわくする」と話します。


藻の「食べ物」を選び、pHに反応するゲルと組み合わせたことで、ごく小さな藻が腕を曲げる力になりました。


いつか窓辺のブラインドに藻が住み着き、朝日を浴びてゆっくり向きを変える日が来るのかもしれません。


観葉植物の水やりのついでに、ロボットの腕も日なたへ出してやる、そんな家事が増える日が来るのかもしれません。


ここからは、ハイドロゲルをもっと知りたい人へ


ハイドロゲルとは、中に水を抱え込んだ、ゼリーのような柔らかい素材のことです


水をとてもよく吸う種類のハイドロゲル(高吸水性のハイドロゲル)です。
水をとてもよく吸う種類のハイドロゲル(高吸水性のハイドロゲル)です。 / Credit: Petra Klawikowski / Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0)

ハイドロゲル(ヒドロゲルとも書きます)は、ゲルのうち、中に含んでいる液体が水であるものを指す呼び名です。


その水の量は思いのほか多く、寒天のゲルでは99.8%以上が水ということもあります。


身近なところでは、ゼラチンや寒天で固めたものがゲルの代表的な例です。


ほかにも、ゼリーや豆腐、こんにゃくはゲルの仲間と考えられていて、生き物の体や土の一部もゲルとみなされます。


なお、中の液体が水ではなく有機溶媒であれば、オルガノゲルという別の呼び名になります。


一方、ものづくりの世界では、柔らかい素材で作る動く部品が、人工の筋肉や、物をそっとつかむ装置、身につける機器、触った感覚を伝える機器などに使われています。


さらに、生きた細胞の力で形を変える部品も研究されていて、これまでに心臓の筋肉の細胞や、増えていく酵母、細菌が栄養を使う働きで動く例が示されてきました。


写真で見る藻、ゲル、pHの道具とロボットの手


1万倍に拡大したクラミドモナスです。今回、腕を曲げる力になったのは、この小さな藻です。
クラミドモナスを、細胞を透かして写す電子顕微鏡(透過型)で撮った画像です。この藻は淡水のほか、土の中にもすんでいます。
同じく透過型の電子顕微鏡で撮った、クラミドモナスの別の画像です。この藻は、水に溶けた形の二酸化炭素を、細胞の膜と葉緑体の膜にある2つのたんぱく質で運び込んでいることが、京都大学の研究で分かっています。
ハイドロゲルでできた傷の手当て用のシートで、傷を適度にしめった状態に保つためのものです(保護フィルムを一部はがしてあります)。今回の腕と同じく、水をたっぷり含んだ柔らかい素材を生かした使い道です。
液が酸性かアルカリ性かを調べる、万能pH試験紙です。pHは7が中性で、それより小さいと酸性、大きいとアルカリ性を表します。
同じ研究室の、物をつかむロボットの手を、オレンジの実る木の枝の間に入れたところです。別の研究室のもので、今回の藻で動く腕ではありません。研究チームも、藻で動く腕の使い道に農作業の自動化装置を挙げています。

この研究の概要


発表

2026年10月22日に、科学誌『ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)』に掲載されました。



研究チーム

オランダのデルフト工科大学の研究チームで、研究を率いたのはマリー=イヴ・オービン=タム氏、筆頭著者はファン・ジャン氏です。



調べた対象

淡水にすむ単細胞の藻クラミドモナスと、pHに反応する層と反応しない層を貼り合わせた2層のハイドロゲルです。



調べ方

藻の培養液の成分を変えたうえで、明るさを切り替えたときの水のpHの上がり下がりを測りました。さらに、藻のいない2層のゲルを藻の培養液に7日間浸け、ゲルの曲がり方と、表面にできる藻の膜を調べました。



分かったこと

光に合わせて藻が水のpHを上げ下げすることで、帯は曲がっては戻る動きをくり返しました。この動きは、同じ培養液の中で少なくとも2か月続きました。



全ての画像を見る

参考文献

Algae-powered soft robot arm uses light to grasp and lift small objects (Phys.org)
https://phys.org/news/2026-10-algae-powered-soft-robot-arm.html

サイエンスポータル(JST)
https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20150603_02/

コトバンク「水素イオン指数」
https://kotobank.jp/word/%E6%B0%B4%E7%B4%A0%E3%81%84%E3%81%8A%E3%82%93%E6%8C%87%E6%95%B0-3193302

コトバンク「ヒドロゲル」
https://kotobank.jp/word/hydrogel-1236116

元論文

Light-powered photosynthetic living actuator
https://doi.org/10.1038/s41467-026-78653-z

ライター

山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。

編集者

ナゾロジー 編集部

    Loading...
    アクセスランキング
    game_banner
    Starthome

    StartHomeカテゴリー

    Copyright 2026
    ©KINGSOFT JAPAN INC. ALL RIGHTS RESERVED.