保育園のお迎えに行くと、廊下の壁一面に子どもたちのクレヨン画がにぎやかに貼り出されています。
「子どもは大人よりずっと創造的だ」という言葉に、うなずく人は多いでしょう。
ところが、この見方を実際の作品で直接確かめた研究は、意外なほど少なかったのです。
では、同じ課題を出したとき、より創造的な作品を生むのは子どもと大人のどちらなのでしょうか。
研究の詳細は、オーストリア・グラーツ大学らにより、2026年10月21日付で学術誌『PLOS One』に掲載されました。
「子どもの方が創造的」は本当か

この疑問に取り組んだのは、オーストリアのグラーツ大学のヤニカ・サレツキ氏らのチームです。
チームはまず、人々が創造性をどう捉えているかを探る質的な予備調査を行いました。
すると創造性は、小学校に上がる前の幼い子ども(未就学児)と結びつけて語られがちだと分かりました。
しかもそれは、誰かに言われてではなく、自分から夢中で取り組む姿と重ねられていたのです。
この見方は、本番の調査に参加した大人にもはっきり表れていました。
「子どもと大人、どちらが創造的か」とたずねると、大人の78.6%が「子ども」と答えたのです。
10人いれば8人近くが、自分たち大人より子どもの方が上だと考えている計算です。
一方、子どもたちの答えは「子ども」が46.7%、「大人」が43.5%と、ほぼ半々に割れました。

当の子どもたちは、自分たちの方が上だとは決めつけていなかったわけです。
そこでチームは、92人の未就学児と70人の大人に、同じ創作の課題に取り組んでもらいました。

大人の参加者は、主に20代の人たちでした。
1つ目は、ありふれた空き缶の使い道を、3分間でできるだけ多く考える課題です。
子どもは空き缶になじみが薄いことも考えて、子どもにも大人にも本物の空き缶を渡し、手に取りながら考えてもらいました。
2つ目は、白紙と色ペンを渡され、何でも好きに絵を描く課題です。
3つ目は、この世にいない空想の動物を考えて描く課題で、こちらは独創的な作品をはっきり求めます。
作品は、誰が作ったかを知らされていない採点者が評価しました。
見たのは、新しさ、アイデアとして有効か(有効性)、全体としての創造性の3点です。
さらに参加者自身にも、やる気や楽しさ、自信、不安の度合いを答えてもらいました。
採点者の目に「創造的」と映ったのはどちらか

結果は、多くの大人の思い込みとは逆の方向に出ました。
空き缶の使い道を考える課題では、大人のアイデアの方が新しさ・有効性・創造性のすべてで高く評価されたのです。
空想の動物を描く課題でも同じで、大人の絵は3つの物差しすべてで子どもの絵を上回りました。
とくに有効性の差は、この空想の動物の課題でいちばん大きく開いていました。
ところが、自由にお絵かきをする課題では、少し様子が違いました。
大人の絵は有効性と創造性では上でしたが、新しさだけは子どもと差がなかったのです。

大人の多くが、似たようなありきたりな題材を選んで描いていたためです。
この違いは、独創的な作品を描くようはっきり求めたのが空想の動物の課題だけだったこととも合っています。
自由なお絵かきは、テストとしてではなく、次の課題の前に道具に慣れる時間として、遊びに近い形で出されていました。

自由なお絵かきでは、新しさと創造性の差も、ほかの課題より小さくなっていました。
ここで、もう一つ気になる点があります。
子どもたちは、時間制限のある課題を大人より早く切り上げていたのです。
空想の動物の絵にかけた時間は、子どもが平均約2.7分、大人が約6.6分でした。

大人は子どもの2倍以上の時間をかけて、じっくり描いていたことになります。
空き缶の課題でも、3分のうち子どもは平均約1.9分、大人は約2.7分取り組んでいました。
一方、時間制限のない自由なお絵かきでは、子どもが平均約5.1分、大人が約4.2分と、かけた時間に大きな差はありませんでした。
それなら、大人は長く粘ったから高く評価されただけでは、という疑問が浮かびます。
そこで、かけた時間の違いを計算で差し引いて比べ直しても、全体の結果は変わりませんでした。
つまり作品の評価という点では、全体として大人の方が子どもを上回っていたのです。
それでも子どもが「創造的」に見えるわけ

では、なぜ大人の8割近くが「子どもの方が上」と考えていたのでしょうか。
手がかりは、作品の出来ではなく、課題に向かう「気持ち」の側にありました。
子どもたちは、空き缶と自由なお絵かきの課題ではやる気が、2つのお絵かきの課題では自信が、大人より高いと答えていたのです。
空き缶の課題では、不安も子どもの方が低くなっていました。

楽しさも、空想の動物の課題を除けば、子どもの方が大きいと答えていました。
自分の創造性をどう思うかという自己評価でも、子どもの方がはっきり高い点をつけました。
子どもの多くは自分を「とても創造的」と答え、大人で多かったのは「わりと創造的」でした。
ふだん創作に触れる回数にも、大きな開きがありました。
子どもで最も多かった答えは「ほぼ毎日」何かを作ったり描いたりしているというもので、大人で最も多かったのは「少なくとも週に1回」でした。

研究チームは、この食い違いを「スポーツマン」という言葉にたとえています。
スポーツマンと呼ばれるのは、試合に勝つ人というより、ふだんからよく運動する人だというのです。
同じように、毎日のように自信たっぷりに創作する子どもの姿が、大人の目に「創造的」と映る可能性があります。

ただし、今回分かったのは、子どもと大人で自信や不安に違いがあったということです。
大人の不安や自信のなさが、作品の出来を押し下げていると確かめたわけではありません。
また、なぜ大人が自分を子どもより創造的でないと見るのかも、まだ分かっていません。
研究チームは今後、この点を明らかにしていくとしています。
チームは「子どもの方が創造的だという通説は、単純すぎることが分かった」と述べています。
大人はより独創的で有効なアイデアを出し、幼児はより自信とやる気をもって創作を楽しんでいたのです。
冷蔵庫に貼られたわが子のクレヨン画に大人が及ばないのは、腕前ではなく、迷わず描き始める思い切りの方なのかもしれません。
まずは「絵は苦手で」という決まり文句を、そっと封印するところから始めたいものです。
ここからは、創造性をもっと知りたい人へ
創造性とは、新しく独自で実りのある考えを生み出す力のことです

心理学の研究では、創造性は新しい考えを生み出す力だけを指すのではありません。それにかかわる性格や技能、ふるまいまで含めた、幅の広い言葉として使われています。
この創造性は頭のよさ(知能)とは別の力だ、と唱えたのが、アメリカの心理学者ギルフォードです。
ギルフォードがそう考えたきっかけは、第二次世界大戦中に陸軍で、その場に応じて対処する力を研究した経験でした。
ギルフォードの考えでは、答えが1つに決まらない場面に対処する力(拡散的思考)が創造性で、決まった答えを出す力(集束的思考)が知能です。
この考えをもとに、創造性テストが作られてきました。たとえば、新聞紙のようなありふれた物の使い道を、できるだけたくさん挙げるテストです。
こうしたテストで調べたところ、創造性テストの成績は、知能テストの成績とあまり関係がないとされています。
ところで世の中には、「学校は子どもの創造性を損なう」という通説があります。影響力のあるTEDトークや本を通じて、広く知られるようになりました。
けれどもこれまでの研究では、学校教育は創造性を損なうのではなく、むしろ育てるという結果が出ています。
写真で見る子どものお絵かき




参考文献
Preschoolers aren't more creative than adults—they're just more confident (Phys.org)
https://phys.org/news/2026-10-preschoolers-creative-adults-theyre-confident.html
コトバンク「創造性」
https://kotobank.jp/word/%E5%89%B5%E9%80%A0%E6%80%A7
元論文
Are children really more creative than adults? A mixed-methods examination of creative performance and experience
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0346553
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部
