コンビニのレジ横に置かれた募金箱へ、おつりの小銭をそっと入れていく人がいます。
寄付や投票は、自分のお金や時間を差し出す行動で、ほかの人のためにもなります。
では、頭の良さは、こうした行動とどう関わっているのでしょうか。
「頭のいい人ほど計算高く、損な行動は避けそうだ」と思う人もいるかもしれません。
経済学者のミカエル・エリンダー氏とオスカー・エリクソン氏は、この問いに大規模なデータで挑みました。
使ったのは、スウェーデンの約120万人分の公的な記録です。
研究の詳細は、2024年11月29日付で学術誌『The Economic Journal』に掲載されました。
人はなぜ見知らぬ誰かのために動くのか

人は、見知らぬ相手とも協力し、みんなのためになることに力を出す、珍しい生き物です。
こうした行動は、専門家の間で「社会のための行動(向社会的行動)」と呼ばれています。
なぜ人がここまで協力的になったのかは、生き物の進化を研究する学者たちを長く悩ませてきました。
説明の一つとして挙げられてきたのが、知能です。
筋道立てて考える力や他人の立場に立つ力が、倫理的な考え方を育て、思いやりにつながるという考えです。
実験では、知能の高い人ほどよく協力し、自分も含めた全員が得をする形にたどり着きやすいとの報告もあります。
一方で、知能の高い人は収入や地位も高くなりやすく、お金や時間を出す負担が軽いだけだ、という見方もあります。
ただ、これまでの証拠の多くは短い実験ゲームや本人が答えるアンケートによるもので、ゲームの結果は割れていました。

選挙に行ったかを尋ねると、実際より多めに答える人が出るのは、よく知られた問題です。
そこで2人は、知能も行動も、本人の申告に頼らない記録で測ることにしました。
知能の物差しにしたのは、兵役の入隊検査で受ける知能テストの得点です。
対象は、1969〜1997年に入隊検査を受けた人たちです。
男性は120万人を超え、女性も約3,000人いました。
当時、男性の検査は義務で、各年に生まれた男性の9割以上が18〜19歳で受けていました。
テストは論理・言葉・空間・機械の理解の4分野からなり、結果は9段階で付けられました。

真ん中の5段階目は、IQ(知能指数)でいえば96〜104ほどにあたります。
いちばん上の9段階目は、IQ126を超える水準です。
しかも、成績が良いほど兵役で希望の配属になりやすかったため、やる気の差で得点がゆがむおそれは小さいと考えられています。
この得点は、50〜65歳で受けた似たテストの得点とも強く結びついていました。
つまり、若いころの1回のテストでも、大人になってからの知能をよく映していると考えられるのです。
得点の高い人ほど多かった「3つの行動」とは?

2人は、一人ひとりに振られた番号を使い、テストの得点を別の公的な記録とつなぎ合わせました。
調べた行動は3つです。
1つ目は寄付で、2012〜2015年の税の記録から、慈善団体にお金を出したかを確かめました。
スウェーデンでは慈善団体が寄付を自動で税務当局に報告するため、お金の知識や、申告書を書く手間をいとうかどうかによる偏りが小さく抑えられます。
2つ目は投票で、2009年の欧州議会選挙で実際に投票したかの記録を使いました。
投票は、お金ではなく時間を差し出す行動です。
3つ目は、電気・エタノール・天然ガスで走る「エコカー」を、家で持っているかどうかです。
エコカーは、ふつうの車より値が張りがちな一方で、出す汚染物質が少ない車です。
そのため、自腹を切ってみんなの環境に貢献する行動と見なせるのです。

結果を測った時点で、男性たちは平均して40代後半から50代前半でした。
調べてみると、3つの行動のどれでも、テストの得点が高い人ほどよく行っていました。
中でも差がはっきりしていたのは寄付です。
得点が最も高い男性は、最も低い男性に比べて、寄付をしている確率が5倍を超えていました。
もう少し細かく、9段階の評価でおよそ2段階分の得点差に注目してみます。
この得点差には、寄付をする確率が40%高いという違いが結びついていました。
寄付する人が10人いる集団なら、それが14人に増えるくらいの違いです。
同じ得点差で、投票する確率は31%、エコカーを持つ確率は14%高くなっていました。

入隊検査を受けた女性約3,000人でも、3つの行動に同じような傾向が見られ、男性だけの話ではなさそうです。
では、テストの中でも、どの分野の得点がとくに行動と強く結びついていたのでしょうか。
4つの分野はどれも3つの行動と強く結びついていましたが、特に強かったのは論理と言葉の分野でした。
この2つは、抽象的に考え、初めての問題を解く力(流動性知能)を最もよく測る分野とされています。
ここで気になるのが、「やる気のない若者は得点が低く、社会への関心も薄いだけでは」という疑問です。
実際、得点に見返りのないテストでは、やる気の低い人ほど得点が下がりやすいことが先行研究で示されています。
しかしこのテストには配属という見返りがありました。

2人がデータで確かめても、やる気の差による偏りの気配は見られませんでした。
つまり、得点の高い人ほど、お金や時間を差し出す社会のための行動を、実際によく行っていたのです。
双子で比べても、差は消えなかった

ただし、ここまでの結果は、知能が行動を生んだという証拠にはなりません。
得点の高い人は、豊かな家庭や、市民としての務めを大切にする地域で育っていたのかもしれないからです。
そこで2人は、双子5,786組に絞った比較を行いました。
双子はふつう同じ家で育ち、遺伝子の多くも共有しているため、育ちの違いの影響をかなり取り除けます。

2人は、片方がもう片方より得点の高い組に注目しました。
さらに、入隊時の面接で評価された、情緒の安定や社交性といった性格の違いも考慮しました。
その結果、得点の高い側のほうが、一貫して寄付も投票もよく行っていました。
同じ得点差で比べると、寄付をする確率は26%、投票する確率は13%高かったのです。
エコカーを持つ確率も13%高くなっていました。
全体で見たときより数字は小さく、研究者は、全体の数字には家庭などの影響がかなり混じっていたと見ています。

それでも差が消えなかったことは、知能と社会のための行動の結びつきが本物だという見方を強めるものだ、と2人は述べています。
では、知能はどんな道すじで行動につながっているのでしょうか。
2人は、学歴、収入、結婚や子どもの有無、住んでいる自治体を加えて、双子の比較を計算し直しました。
すると数字は少し小さくなったものの、寄付と投票の結びつきは、偶然では説明しにくい差として残りました。

一方、エコカーは増える向きこそ同じでしたが、偶然と区別できるほどの差ではなくなりました。
間に入る要因としては、学校で学んだ年数が主なものだったようです。
学校が社会を大事にする考えを伝えたり、倫理観を育てたりするという見方と、合う結果です。
意外にも、収入は関係をあまり説明していませんでした。
「お金に余裕があるから寄付できる」という説明だけでは、この結びつきは片づけられないようです。
研究者たちは、知能が社会のための行動に直接影響していることを示唆する結果だとしています。

さらに約600人分のアンケートでも、得点の高い人ほど、他人のために尽くそうとする気持ちを強く表していました。
もちろん、これは記録どうしの結びつきを見た研究で、知能が行動を生むと証明したわけではありません。
また、データの中心はスウェーデンの男性で、女性は約3,000人にとどまります。
それでも、知能の高い人ほど、寄付や投票、エコカーの所有といった社会のための行動を実際に多く行っていたことが、記録からはっきり見えてきました。
レジ横の募金箱に入る小銭や、休日の投票所へ向かう足取りの裏には、筋道立てて考える頭の働きがあるのかもしれません。
ここからは、流動性知能と結晶性知能をもっと知りたい人へ
流動性知能と結晶性知能とは、頭の良さを「その場で考える力」と「ためてきた知識を使う力」の2つに分けてとらえる考え方です

流動性知能と対になるのが結晶性知能で、長い年月をかけてためてきた知識や事実、経験を使う力を指します。
たとえば、歴史の出来事や年号を思い出すこと、地名を覚えていること、言葉の数を増やすこと、詩をそらんじることがこちらにあたります。
2つの力は別々にあるわけではなく、結晶性知能は、流動性知能を新しいことの学習に注いだ結果として生まれると考えられています。
年齢とともに変わる様子にも違いがあり、流動性知能は20代後半に最も高くなって、その後はゆっくり下がっていくとされます。ただ最近の研究では、流動性知能の一部は40歳ごろまで最も高くならない可能性も示されています。
一方で結晶性知能は、一生のほとんどの間ゆっくり伸び続け、年をとっても流動性知能のような下がり方は見られないとされます。
この分け方は、心理学者のレイモンド・キャッテルが1963年に初めて唱え、その教え子だったジョン・ホーンがさらに発展させました。
なお流動性知能は、少し前まで、主に遺伝で決まって変わらないものだと広く考えられていました。
写真で見る寄付・投票・エコカーと双子






参考文献
Intelligence predicts charitable giving and voting in massive Swedish study (PsyPost)
https://www.psypost.org/intelligence-predicts-charitable-giving-and-voting-in-massive-swedish-study/
コトバンク「双生児法」
https://kotobank.jp/word/%E5%8F%8C%E7%94%9F%E5%85%90%E6%B3%95
コトバンク「知能指数」
https://kotobank.jp/word/%E7%9F%A5%E8%83%BD%E6%8C%87%E6%95%B0
ウプサラ大学「Intelligence linked to behaviors that benefit society」
https://www.uu.se/en/department/housing-and-urban-research/news/archive/2025-05-21-intelligence-linked-to-behaviors-that-benefit-society
Simply Psychology「Fluid vs. Crystallized Intelligence」
https://www.simplypsychology.org/fluid-crystallized-intelligence.html
元論文
An inquiry into the relationship between intelligence and prosocial behavior: Evidence from Swedish population registers
https://doi.org/10.1093/ej/ueae105
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部
