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犬も「ブーバは丸、キキはトゲトゲ」と感じていると判明


ぬいぐるみに名前を付けるとき、見た目に合いそうな響きを、なんとなく選んでしまうものです。


「ブーバ」と「キキ」は、どちらも意味を持たない言葉です。


それでも、丸い形とトゲトゲした形を見せられると、多くの人は「キキ」をトゲトゲのほうに当てはめます。


そして「ブーバ」は、ころんとした丸い形のほうに結びつけるのです。


この奇妙な感覚は「ブーバ・キキ効果」と呼ばれ、人間の言葉と結びついた性質だと考えられてきました。


では、言葉を話さない犬は、この2つの音を聞いてどんな形を思い浮かべるのでしょうか。


研究の詳細は、学術誌に掲載されています。


人間の言葉と結びつけて説明されてきた「ブーバ・キキ効果」


ブーバ・キキ効果がこれまでどんな相手で確かめられたかを、結果で2つに分けた図です。左には字を知らない人や生まれたてのヒナまで並び、この効果が言葉だけの性質ではないかもしれないと分かります。
ブーバ・キキ効果がこれまでどんな相手で確かめられたかを、結果で2つに分けた図です。左には字を知らない人や生まれたてのヒナまで並び、この効果が言葉だけの性質ではないかもしれないと分かります。 / Credit: ナゾロジー編集部(編集部が作成した図)

ブーバ・キキ効果とは、耳で聞いた音と目で見た形が、教わらなくても自然に結びつく現象です。


まるで脳が、形の「響き」を聞き取っているかのようです。


人間では、この効果は音象徴(言葉の響きそのものがイメージを帯びること)の例とされ、言葉と結びついた性質だと考えられてきました。


実際、この現象は母語の違いにかかわらず、さまざまな文化の人々で見られます。


生まれつき目の見えない人や、まだ字を読めない子ども、文字を使わない文化の人にも、似た効果が確かめられています。


このことは、人間の言葉の奥に、生まれつきの何らかのしくみがあることをうかがわせます。


物の名前は、まったくでたらめに付けられているわけではないのかもしれないのです。


そのため、言葉と心の関係を研究する学者(心理言語学者)にとって、この効果は大きな謎になっています。


ところが近年、この謎をさらに広げる報告が出ました。


ふ化したばかりのヒヨコです。ヒヨコの実験に使われた個体ではなく、別の場所で撮られた写真です。
ふ化したばかりのヒヨコです。ヒヨコの実験に使われた個体ではなく、別の場所で撮られた写真です。 / Credit: Otwarte Klatki / Wikimedia Commons(CC BY 2.0)

生まれてわずか3日のヒヨコも、丸い形を「ブーバ」と、トゲトゲした形を「キキ」と自然に結びつけていたのです。


このため、ブーバ・キキ効果は言葉だけのものではない可能性が出てきました。


耳と目のように別々の感覚が結びつく、もっと広い現象(クロスモーダル対応)の一つではないかと考えられ始めたのです。


ブーバ・キキ効果は、人間だけの不思議とは言い切れなくなってきました。


ただし、人間に近いチンパンジーやゴリラで確かめた実験では、この効果は見つかっていません。とはいえ、調べた数がとても少なかったため、本当に無いとは言い切れないと研究チームはみています。


「キキ」と聞いた犬は、どちらの形を見たのか


犬が音を聞きながら2つの形を見比べた部屋を、分かりやすく描いた図です。犬は2つの画面の真ん中を向いて待つので、どちらを見たかが頭の向きで分かります(縮尺は正確ではありません)。
犬が音を聞きながら2つの形を見比べた部屋を、分かりやすく描いた図です。犬は2つの画面の真ん中を向いて待つので、どちらを見たかが頭の向きで分かります(縮尺は正確ではありません)。 / Credit: ナゾロジー編集部(編集部が作成した図、論文の図1(Biffi et al., Proceedings of the Royal Society B Biological Sciences (2026)、CC BY 4.0)をもとに作成)

そこで、人間のそばで暮らす犬を調べたのが、イタリアのパルマ大学を中心とする研究チームです。


チームは、飼い主と暮らすおとなの犬が、ブーバとキキの音を形と結びつけるかを確かめました。


実験には51頭の犬が参加しました。


犬の前の壁には2つの画面が並び、片方には黒い丸い形、もう片方には黒いトゲトゲした形が映し出されます。


そこへ「ブーバ」か「キキ」の録音を、30秒のあいだに15回流しました。


2秒に1回のペースで、同じ音がくり返し聞こえてくる計算です。


最初の20秒は、飼い主が犬をその場にとどめておきます。


そのあいだ、AIが犬の頭の向きから視線を推定し、どちらの形を見ているかを記録しました。


これは、音を聞いた犬の目が、どちらへ向かうかを知るためです。


そして残りの10秒になると、犬は放されます。


研究者たちは、犬がどちらの形を調べに行くかを見届けました。


1回の試しで、犬がまず形を見て、次に調べに行くまでを、時間の長さどおりに並べた図です。前の3分の2は目の向きだけを、後ろの3分の1は体の動きを調べているのが分かります。
1回の試しで、犬がまず形を見て、次に調べに行くまでを、時間の長さどおりに並べた図です。前の3分の2は目の向きだけを、後ろの3分の1は体の動きを調べているのが分かります。 / Credit: ナゾロジー編集部(編集部が作成した図)

その結果は、人間の感じ方とよく重なるものでした。


「ブーバ」が流れているあいだ、犬は丸い形のほうをはっきりと長く見つめていたのです。


「ブーバ」が流れる中で、犬が丸い形のほうを見ている様子です(最初の実験)。この時は、飼い主にも形が見え、音も聞こえていました。
「ブーバ」が流れる中で、犬が丸い形のほうを見ている様子です(最初の実験)。この時は、飼い主にも形が見え、音も聞こえていました。 / Credit: Biffi et al., Proceedings of the Royal Society B Biological Sciences (2026)(CC BY 4.0)

一方で「キキ」が流れると、犬はトゲトゲした形のほうを見つめ、そちらへ近づいて調べました。


「キキ」が流れる中で、犬がトゲトゲした形を調べに行く様子です(最初の実験)。「キキ」をトゲトゲした形に結びつける点で、犬は人と同じ組み合わせを見せていました。
「キキ」が流れる中で、犬がトゲトゲした形を調べに行く様子です(最初の実験)。「キキ」をトゲトゲした形に結びつける点で、犬は人と同じ組み合わせを見せていました。 / Credit: Biffi et al., Proceedings of the Royal Society B Biological Sciences (2026)(CC BY 4.0)

しかもこの実験で見ていたのは、訓練で教え込んだ反応ではなく、犬が自然に見せる傾向です。


犬もまた、人間と同じ組み合わせで、音と形を自然に結びつけているらしいのです。


面白いことに、最初の実験の犬は、どちらの音のときも全体としてトゲトゲした形をよく見ていて、最初に目を向けるのもトゲトゲした形のほうが早いという結果でした。研究チームは、その理由の一つの可能性として、オオカミや昔の犬の顔つきが角ばっていることを挙げています。


飼い主に大音量のロックを聴かせても、結果は同じだった


耳をぴんと立てて、ほかの犬たちの声に聞き入るジャーマン・シェパードです。
耳をぴんと立てて、ほかの犬たちの声に聞き入るジャーマン・シェパードです。 / Credit: Gopal1035 / Wikimedia Commons(CC BY 2.5)

ただし、この結果には1つ気になる点があります。


音を聞いた飼い主が、知らず知らずのうちに犬へ合図を送っていたかもしれないのです。


飼い主が無意識に動物の行動を左右してしまう現象は、「クレバー・ハンス効果」と呼ばれます。


そこでチームは、別の19頭の犬で追加の実験を行いました。


今度は飼い主にヘッドホンを着けてもらい、大音量のロック音楽を流して、ブーバやキキの音が聞こえないようにしたのです。


飼い主が知らず知らずのうちに犬の行動を左右してしまう可能性を除くための工夫です。


それでも、どちらの形を長く見つめるかという結果は変わりませんでした。


ただし、どちらの形を調べに行くかについては、この追加の実験では音による違いが出ませんでした。


犬はやはり「キキ」をトゲトゲした形と、「ブーバ」を丸い形と結びつけているようでした。


犬が反応していたのは、飼い主のしぐさではなく、音そのものだったと考えられます。


飼い主に音が聞こえる実験と、聞こえないようにした実験の結果を並べた図です。青い段がどちらの実験でも同じなので、犬は飼い主のしぐさではなく音そのものに反応していたと考えられます。
飼い主に音が聞こえる実験と、聞こえないようにした実験の結果を並べた図です。青い段がどちらの実験でも同じなので、犬は飼い主のしぐさではなく音そのものに反応していたと考えられます。 / Credit: ナゾロジー編集部(編集部が作成した図)

研究チームは、音と形を自然に結びつける人間とよく似た傾向が、おとなの犬にもあることが示唆されたとしています。


生まれて3日のヒヨコ、人間のそばで暮らす犬、そして人間に、似た感覚が見つかったことになります。


言葉を話さない動物が加わったことで、ブーバ・キキ効果の謎はいっそう深まったともいえます。


音と形を結びつける感覚は、言葉を持つ人間だけのものではなく、もっと広く見られるしくみの一部なのかもしれません。


その下地には、自然の中の音があるとも考えられています。丸い物はぶつかったり転がったりすると、ふつうは同じ大きさのトゲトゲした物より低く、途切れにくい音を出すのです。


丸い物とトゲトゲした物が床でぶつかったり転がったりした時の、音のちがいを表したイメージ図です。こうした自然の中の音が、音と形を結びつける感覚の下地かもしれません(波の形は模式的です)。
丸い物とトゲトゲした物が床でぶつかったり転がったりした時の、音のちがいを表したイメージ図です。こうした自然の中の音が、音と形を結びつける感覚の下地かもしれません(波の形は模式的です)。 / Credit: ナゾロジー編集部(編集部が作成した図)

とはいえ、まだ分かっていないこともあります。


この結びつきが犬にとってどんな役に立っているのかは、まだ明らかではありません。


また、この感覚が成長の中でどのように形づくられるのかも分かっていません。


研究チームは、これらを確かめるさらなる研究が必要だとしています。


意味のない「ブーバ」と「キキ」を、人間と同じように形と結びつける仲間が、実はすぐ足元で尻尾を振っていたのです。


愛犬に「ブーバ」と名付けるなら、丸いクッションも一緒に用意しておくと喜ばれるかもしれません。


ここからは、ブーバ・キキ効果をもっと知りたい人へ


ブーバ・キキ効果とは、意味のない音の響きから、丸い形やとがった形を思い浮かべてしまう感覚です


放し飼いのニワトリの親子です(実験のヒヨコではなく、別の場所で撮られた写真です)。
放し飼いのニワトリの親子です(実験のヒヨコではなく、別の場所で撮られた写真です)。 / Credit: Nathaly 1106 / Wikimedia Commons(CC BY 4.0)

ブーバ・キキ効果は、意味を持たない言葉の響きが、丸さやトゲトゲといった形の印象と結びつく現象です。


言葉の研究では長いあいだ、音と意味は似ていないという考えが定説でしたが、ラマチャンドランとハバードという研究者は、この効果が言葉の起源を解く手がかりになるかもしれないと考えました。


この効果が言葉を持たない生き物にもあるかをヒヨコで確かめたのが、イタリアのパドヴァ大学のマリア・ロコンソーレたちです。


チームはまず生後3日のヒヨコに、丸さとトゲトゲの混ざった形をつけた板の裏へ行くと、エサがもらえることを覚えさせました。


次に丸い形とトゲトゲの形の板を並べ、ヒヨコが迷っているあいだに「ブーバ」か「キキ」の音をくり返し流しました。


すると「ブーバ」を聞いたヒヨコは丸い形の板へ、「キキ」を聞いたヒヨコはおおむねトゲトゲの形の板へ向かいました。


生後わずか1日のヒヨコでも、動く物を映した2つの画面を使う似た実験で、「キキ」ならトゲトゲの形へ、「ブーバ」なら丸い形へ近づきました。


研究に加わっていないイギリスのバーミンガム大学のマーカス・パールマンは、ヒヨコにこの効果があるかと聞かれたら「無い」と答えただろうと驚いています。


一方でロコンソーレは、ヒヨコが人の言葉を持つわけではないとしたうえで、ヒヨコにもある感覚どうしの結びつきが、人では言葉に使われるようになったとみています。


人ではほかにも似た結びつきがあり、ある研究では、巻き舌の「r」の音が、すべすべした面よりざらざらした面の手ざわりと結びつけられやすいと分かりました。


文化や文字の違う人々を調べた調査では、「キキ」より「ブーバ」のほうが答えがそろいやすく、文字の形の丸さやとがり方は効果を強めていませんでした。


日本語にも「トリ」と「ドリ」のように濁るかどうかで意味が変わる言葉があり、ポケモンの名前も濁音が多いほど進化の段階が高くなっています。


日本の子どもも、実在しない2つの名前のうち濁音を含むほうや、「イ」より「ア」の音を、進化した後のポケモンに結びつけやすいことが分かっています。


動物でも、高い音は小さく明るい物と、低い音は大きく暗い姿と結びつけられる例が見られています。


なぜそう感じるのかについて、ラマチャンドランとハバードは、トゲトゲの形が、「キキ」と言うときに舌が上あごへ鋭く当たる動きをまねていると考えました。


高い音が小ささと結びつくのも、小さな動物や物はふつう大きなものより高い音を出すからだと考えられています。


パールマンは、こうした結びつきが鳥類と哺乳類の共通の祖先にまでさかのぼるほど進化の深いところに根ざし、背骨のある動物の感覚が世の中の決まりごとを前もって予想するようにできていることを示すとみています。




Q. ブーバとキキのほかにも、音の響きで印象が変わる例はありますか?
A. サピアの古典的な実験では、英語を話す人が「ミル(mil)」のような作り言葉を小さい物に、「マル(mal)」のような作り言葉を大きい物に結びつけました。また、人は小さい物を説明するときには声を高くし、大きい物を説明するときには低くすることも分かっています。


Q. なぜヒヨコでブーバ・キキ効果を調べたのですか?
A. ごく幼いヒヨコで確かめれば、見つかった音と形の結びつきが、経験で身についたものではなく生まれつきのものだといえるからです。


Q. ヒヨコでブーバ・キキ効果を確かめた論文は、どこに発表されましたか?
A. 学術誌『サイエンス』に掲載されています。


Q. ブーバ・キキの図形は、どこが音と似ていると考えられていますか?
A. ラマチャンドランとハバードは、トゲトゲの図形の線が急に向きを変える様子が、「キキ」という音の鋭い変化をまねていると考えました。



写真で見る犬のしぐさ


ソファの上で、何かに耳をすませている犬です。
首をかしげる黒い子犬です。
首をかしげる犬です。

この研究の概要


発表

学術誌『Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences』に、2026年10月に掲載されました。



研究チーム

イタリアのパルマ大学を中心とする研究チームで、実験は同大学の犬の行動の研究室で行われました。



調べた対象

飼い主と暮らすおとなの犬です。最初の実験には1〜12歳の中型〜大型の犬51頭、追加の実験には別の19頭が参加しました。



調べ方

丸い形とトゲトゲした形を2つの画面に映し、「ブーバ」か「キキ」の録音を30秒流しながら、前半20秒はAIが犬の頭の向きから視線を推定し、後半10秒はどちらの形を調べに行くかを記録しました。追加の実験では、飼い主にロック音楽を流すヘッドホンを着けてもらい、飼い主が無意識に合図を送ってしまう影響を除くための工夫をしました。



分かったこと

犬は「ブーバ」を聞くと丸い形を、「キキ」を聞くとトゲトゲした形を長く見つめました。この見つめ方の違いは、飼い主に音が聞こえない追加の実験でも同じように表れました。



まだ分かっていないこと

音と形の結びつきが犬にとってどんな役に立つのか、そして成長の中でどう形づくられるのかは、これからの研究で確かめる必要があります。



全ての画像を見る

参考文献

The Words "Bouba" And "Kiki" Have An Odd Effect On Humans. A New Study Finds Dogs Experience It Too (IFLScience)
https://www.iflscience.com/the-words-bouba-and-kiki-have-an-odd-effect-on-humans-a-new-study-finds-dogs-experience-it-too-84948

コトバンク「音象徴」
https://kotobank.jp/word/%E9%9F%B3%E8%B1%A1%E5%BE%B4

論文「The bouba/kiki effect is robust across cultures and writing systems」(2022年)
https://www.ebi.ac.uk/europepmc/webservices/rest/PMC8591387/fullTextXML

NPR「Baby chicks link certain sounds with shapes, just like humans do」
https://www.npr.org/2026/02/19/nx-s1-5717039/baby-chicks-link-certain-sounds-with-shapes-just-like-humans-do

Kawahara ほか「Acquisition of sound symbolic values of vowels and voiced obstruents by Japanese children: Using a Pokémonastic paradigm」の要旨
https://websites.umass.edu/phonolist/2018/04/28/kawahara-2018-acquisition-of-sound-symbolic-values-of-vowels-and-voiced-obstruents-by-japanese-children-using-a-pokemonastic-paradigm

元論文

Hearing shapes: the Bouba–Kiki effect in adult domestic dogs
https://doi.org/10.1098/rspb.2026.1209

ライター

山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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