ぬいぐるみに名前を付けるとき、見た目に合いそうな響きを、なんとなく選んでしまうものです。
「ブーバ」と「キキ」は、どちらも意味を持たない言葉です。
それでも、丸い形とトゲトゲした形を見せられると、多くの人は「キキ」をトゲトゲのほうに当てはめます。
そして「ブーバ」は、ころんとした丸い形のほうに結びつけるのです。
この奇妙な感覚は「ブーバ・キキ効果」と呼ばれ、人間の言葉と結びついた性質だと考えられてきました。
では、言葉を話さない犬は、この2つの音を聞いてどんな形を思い浮かべるのでしょうか。
研究の詳細は、学術誌に掲載されています。
人間の言葉と結びつけて説明されてきた「ブーバ・キキ効果」

ブーバ・キキ効果とは、耳で聞いた音と目で見た形が、教わらなくても自然に結びつく現象です。
まるで脳が、形の「響き」を聞き取っているかのようです。
人間では、この効果は音象徴(言葉の響きそのものがイメージを帯びること)の例とされ、言葉と結びついた性質だと考えられてきました。
実際、この現象は母語の違いにかかわらず、さまざまな文化の人々で見られます。
生まれつき目の見えない人や、まだ字を読めない子ども、文字を使わない文化の人にも、似た効果が確かめられています。
このことは、人間の言葉の奥に、生まれつきの何らかのしくみがあることをうかがわせます。
物の名前は、まったくでたらめに付けられているわけではないのかもしれないのです。
そのため、言葉と心の関係を研究する学者(心理言語学者)にとって、この効果は大きな謎になっています。
ところが近年、この謎をさらに広げる報告が出ました。

生まれてわずか3日のヒヨコも、丸い形を「ブーバ」と、トゲトゲした形を「キキ」と自然に結びつけていたのです。
このため、ブーバ・キキ効果は言葉だけのものではない可能性が出てきました。
耳と目のように別々の感覚が結びつく、もっと広い現象(クロスモーダル対応)の一つではないかと考えられ始めたのです。
ブーバ・キキ効果は、人間だけの不思議とは言い切れなくなってきました。
ただし、人間に近いチンパンジーやゴリラで確かめた実験では、この効果は見つかっていません。とはいえ、調べた数がとても少なかったため、本当に無いとは言い切れないと研究チームはみています。
「キキ」と聞いた犬は、どちらの形を見たのか

そこで、人間のそばで暮らす犬を調べたのが、イタリアのパルマ大学を中心とする研究チームです。
チームは、飼い主と暮らすおとなの犬が、ブーバとキキの音を形と結びつけるかを確かめました。
実験には51頭の犬が参加しました。
犬の前の壁には2つの画面が並び、片方には黒い丸い形、もう片方には黒いトゲトゲした形が映し出されます。
そこへ「ブーバ」か「キキ」の録音を、30秒のあいだに15回流しました。
2秒に1回のペースで、同じ音がくり返し聞こえてくる計算です。
最初の20秒は、飼い主が犬をその場にとどめておきます。
そのあいだ、AIが犬の頭の向きから視線を推定し、どちらの形を見ているかを記録しました。
これは、音を聞いた犬の目が、どちらへ向かうかを知るためです。
そして残りの10秒になると、犬は放されます。
研究者たちは、犬がどちらの形を調べに行くかを見届けました。

その結果は、人間の感じ方とよく重なるものでした。
「ブーバ」が流れているあいだ、犬は丸い形のほうをはっきりと長く見つめていたのです。

一方で「キキ」が流れると、犬はトゲトゲした形のほうを見つめ、そちらへ近づいて調べました。

しかもこの実験で見ていたのは、訓練で教え込んだ反応ではなく、犬が自然に見せる傾向です。
犬もまた、人間と同じ組み合わせで、音と形を自然に結びつけているらしいのです。
面白いことに、最初の実験の犬は、どちらの音のときも全体としてトゲトゲした形をよく見ていて、最初に目を向けるのもトゲトゲした形のほうが早いという結果でした。研究チームは、その理由の一つの可能性として、オオカミや昔の犬の顔つきが角ばっていることを挙げています。
飼い主に大音量のロックを聴かせても、結果は同じだった

ただし、この結果には1つ気になる点があります。
音を聞いた飼い主が、知らず知らずのうちに犬へ合図を送っていたかもしれないのです。
飼い主が無意識に動物の行動を左右してしまう現象は、「クレバー・ハンス効果」と呼ばれます。
そこでチームは、別の19頭の犬で追加の実験を行いました。
今度は飼い主にヘッドホンを着けてもらい、大音量のロック音楽を流して、ブーバやキキの音が聞こえないようにしたのです。
飼い主が知らず知らずのうちに犬の行動を左右してしまう可能性を除くための工夫です。
それでも、どちらの形を長く見つめるかという結果は変わりませんでした。
ただし、どちらの形を調べに行くかについては、この追加の実験では音による違いが出ませんでした。
犬はやはり「キキ」をトゲトゲした形と、「ブーバ」を丸い形と結びつけているようでした。
犬が反応していたのは、飼い主のしぐさではなく、音そのものだったと考えられます。

研究チームは、音と形を自然に結びつける人間とよく似た傾向が、おとなの犬にもあることが示唆されたとしています。
生まれて3日のヒヨコ、人間のそばで暮らす犬、そして人間に、似た感覚が見つかったことになります。
言葉を話さない動物が加わったことで、ブーバ・キキ効果の謎はいっそう深まったともいえます。
音と形を結びつける感覚は、言葉を持つ人間だけのものではなく、もっと広く見られるしくみの一部なのかもしれません。
その下地には、自然の中の音があるとも考えられています。丸い物はぶつかったり転がったりすると、ふつうは同じ大きさのトゲトゲした物より低く、途切れにくい音を出すのです。

とはいえ、まだ分かっていないこともあります。
この結びつきが犬にとってどんな役に立っているのかは、まだ明らかではありません。
また、この感覚が成長の中でどのように形づくられるのかも分かっていません。
研究チームは、これらを確かめるさらなる研究が必要だとしています。
意味のない「ブーバ」と「キキ」を、人間と同じように形と結びつける仲間が、実はすぐ足元で尻尾を振っていたのです。
愛犬に「ブーバ」と名付けるなら、丸いクッションも一緒に用意しておくと喜ばれるかもしれません。
ここからは、ブーバ・キキ効果をもっと知りたい人へ
ブーバ・キキ効果とは、意味のない音の響きから、丸い形やとがった形を思い浮かべてしまう感覚です

ブーバ・キキ効果は、意味を持たない言葉の響きが、丸さやトゲトゲといった形の印象と結びつく現象です。
言葉の研究では長いあいだ、音と意味は似ていないという考えが定説でしたが、ラマチャンドランとハバードという研究者は、この効果が言葉の起源を解く手がかりになるかもしれないと考えました。
この効果が言葉を持たない生き物にもあるかをヒヨコで確かめたのが、イタリアのパドヴァ大学のマリア・ロコンソーレたちです。
チームはまず生後3日のヒヨコに、丸さとトゲトゲの混ざった形をつけた板の裏へ行くと、エサがもらえることを覚えさせました。
次に丸い形とトゲトゲの形の板を並べ、ヒヨコが迷っているあいだに「ブーバ」か「キキ」の音をくり返し流しました。
すると「ブーバ」を聞いたヒヨコは丸い形の板へ、「キキ」を聞いたヒヨコはおおむねトゲトゲの形の板へ向かいました。
生後わずか1日のヒヨコでも、動く物を映した2つの画面を使う似た実験で、「キキ」ならトゲトゲの形へ、「ブーバ」なら丸い形へ近づきました。
研究に加わっていないイギリスのバーミンガム大学のマーカス・パールマンは、ヒヨコにこの効果があるかと聞かれたら「無い」と答えただろうと驚いています。
一方でロコンソーレは、ヒヨコが人の言葉を持つわけではないとしたうえで、ヒヨコにもある感覚どうしの結びつきが、人では言葉に使われるようになったとみています。
人ではほかにも似た結びつきがあり、ある研究では、巻き舌の「r」の音が、すべすべした面よりざらざらした面の手ざわりと結びつけられやすいと分かりました。
文化や文字の違う人々を調べた調査では、「キキ」より「ブーバ」のほうが答えがそろいやすく、文字の形の丸さやとがり方は効果を強めていませんでした。
日本語にも「トリ」と「ドリ」のように濁るかどうかで意味が変わる言葉があり、ポケモンの名前も濁音が多いほど進化の段階が高くなっています。
日本の子どもも、実在しない2つの名前のうち濁音を含むほうや、「イ」より「ア」の音を、進化した後のポケモンに結びつけやすいことが分かっています。
動物でも、高い音は小さく明るい物と、低い音は大きく暗い姿と結びつけられる例が見られています。
なぜそう感じるのかについて、ラマチャンドランとハバードは、トゲトゲの形が、「キキ」と言うときに舌が上あごへ鋭く当たる動きをまねていると考えました。
高い音が小ささと結びつくのも、小さな動物や物はふつう大きなものより高い音を出すからだと考えられています。
パールマンは、こうした結びつきが鳥類と哺乳類の共通の祖先にまでさかのぼるほど進化の深いところに根ざし、背骨のある動物の感覚が世の中の決まりごとを前もって予想するようにできていることを示すとみています。
写真で見る犬のしぐさ



参考文献
The Words "Bouba" And "Kiki" Have An Odd Effect On Humans. A New Study Finds Dogs Experience It Too (IFLScience)
https://www.iflscience.com/the-words-bouba-and-kiki-have-an-odd-effect-on-humans-a-new-study-finds-dogs-experience-it-too-84948
コトバンク「音象徴」
https://kotobank.jp/word/%E9%9F%B3%E8%B1%A1%E5%BE%B4
論文「The bouba/kiki effect is robust across cultures and writing systems」(2022年)
https://www.ebi.ac.uk/europepmc/webservices/rest/PMC8591387/fullTextXML
NPR「Baby chicks link certain sounds with shapes, just like humans do」
https://www.npr.org/2026/02/19/nx-s1-5717039/baby-chicks-link-certain-sounds-with-shapes-just-like-humans-do
Kawahara ほか「Acquisition of sound symbolic values of vowels and voiced obstruents by Japanese children: Using a Pokémonastic paradigm」の要旨
https://websites.umass.edu/phonolist/2018/04/28/kawahara-2018-acquisition-of-sound-symbolic-values-of-vowels-and-voiced-obstruents-by-japanese-children-using-a-pokemonastic-paradigm
元論文
Hearing shapes: the Bouba–Kiki effect in adult domestic dogs
https://doi.org/10.1098/rspb.2026.1209
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部
