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愛犬をなでた飼い主ほど「次のストレス」に体が落ち着いて反応すると判明


仕事で疲れて帰った夜、玄関で出迎えた愛犬の背中を、つい長めになでてしまう。


犬と暮らすと心と体によい、という話はよく聞きます。


これまでの研究をまとめた分析では、ペットを飼う人は、死因を問わない死亡のリスクが24%低いとも報告されています。


ただ、犬との触れ合いのどの部分が効いているのかは、はっきりしていませんでした。


オーストリアの研究チームは、飼い主64人に愛犬を連れて実験室へ来てもらいました。


そして触れ合いの中から「なでる」ことだけを取り出し、脳と心臓の反応を調べました。


なでる手は、いつ、どのように体を落ち着かせていたのでしょうか。


研究の詳細は、オーストリアのインスブルック大学らにより、2026年8月18日付で学術誌『Biological Psychology』に掲載されました。


犬との触れ合いは「どこ」が効いているのか


女性の手が、自然の中で犬をなでています。 ふだん飼い主が犬に触れる時は、なでながら見つめたり話しかけたりもしてしまうものです。
女性の手が、自然の中で犬をなでています。 ふだん飼い主が犬に触れる時は、なでながら見つめたり話しかけたりもしてしまうものです。 / Credit: 作者不明 / Rawpixel(CC0)

身近な人とのつながりが、つらい出来事への反応を和らげる働きは「ストレス緩衝(かんしょう)」と呼ばれます。


人どうしでは、その大きな担い手が、愛情をこめた触れ合いだと考えられています。


よく引かれるのが、スピーチの前にパートナーから首と肩を短くもんでもらった女性たちの実験です。


彼女たちは、一人で準備した女性より心拍もストレスホルモンも上がり方が小さく、言葉で励まされただけではそうなりませんでした。


では犬はどうかというと、「なでる」ことの効き目だけを取り出すのは簡単ではありませんでした。


飼い主はふつう、なでる、見つめる、話しかけるを、全部いっぺんにしてしまうからです。


これまでの研究の結果も、そろっていません。


2019年の研究では、大学生に10分間、猫や犬をなでてもらいました。


すると、ほかの人がなでる様子を眺めていた学生より、だ液のストレスホルモンが下がったのです。


あくびをしている犬が、人の手でなでられています。
あくびをしている犬が、人の手でなでられています。 / Credit: nomao saeki saekinomao / Wikimedia Commons(CC0)

一方、2021年の研究では、評価を受けて緊張している10代の若者に、初対面のセラピー犬を触ってもらいました。


けれども、触らずに話しかけた場合と比べて、不安も体の高ぶりも下がりませんでした。


犬との触れ合いは、試練の最中よりも前に効くのでは、という見方もあります。


2017年の実験では、大学生が計算テストの前にセラピー犬と触れ合いました。


すると、早いテンポで解くテストの最中も、汗の出る反応が抑えられていたのです。


これを受けて、インスブルック大学のカウフマン氏とシルマー氏らは新しい実験を組みました。


自分の愛犬に触れることだけを、ほかの触れ合いから切り分ける実験です。


研究者たちは、触れ合いの何が人のためになるのか、その「どうやって」を知りたかったと語ります。


調べたのは、ストレス直後の回復の早さと、続けてやって来る次のストレスへの強さの2つでした。


なでた手は、いつ効いていたのか?


毛布の上で横になったコーギーが、飼い主の手に頭をなでられています。
毛布の上で横になったコーギーが、飼い主の手に頭をなでられています。 / Credit: Photo by Ron Lach on Pexels(Pexels のライセンス)

参加したのは、犬を飼う大人64人です。


うち51人が女性で、平均年齢は34歳でした。


連れてきたのは2歳を超えた健康な犬で、知らない部屋でも落ち着いていられる子ばかりでした。


実験では、同じ流れを2回くり返しました。


まず5分間静かに休み、続いて10分間のストレス課題に取り組みます。


短い休みをはさんで別の部屋で5分間愛犬と過ごし、最後にもう一度5分間休みます。


参加者が1回の実験でしたことを、時間の順に並べた図です。2回の実験では、別の問題と引き算を使ったうえで、緑の箱の愛犬との過ごし方の条件を変えました。
参加者が1回の実験でしたことを、時間の順に並べた図です。2回の実験では、別の問題と引き算を使ったうえで、緑の箱の愛犬との過ごし方の条件を変えました。 / Credit: ナゾロジー編集部(編集部が作成した図、論文の図1(Kaufmann et al., Biological Psychology (2026)、CC BY 4.0)をもとに作成)

ストレス課題は、かなり手ごわいものでした。


画面に雑学の問題が次々と出て、5秒以内に口で答えないと、次の問題に切り替わってしまいます。


もう一つは、決まった数ずつ引いていく引き算で、画面で点滅する赤い点のテンポに合わせて答えます。


その様子をZoom越しに仕掛け人のスタッフが見張り、返ってくるのはダメ出しだけでした。


「あとで分析するために録画している」とも伝えられ、人から悪く評価される不安まであおられたのです。


2回では、くり返しにならないよう別の問題と引き算を使ったうえで、課題のあと犬と過ごす5分間の条件を変えました。


「なでられる」回では、犬は部屋を自由に歩き回り、飼い主は思うままになでたり抱いたりできました。


「なでられない」回では、犬を短いリードでつなぎ、飼い主の手が届かないようにしました。


話しかけたり目を合わせたりはできるので、触れることだけを取り除いた形です。


課題のあと愛犬と過ごす時間を、2通りに分けて比べたことを示す図です。違うのは犬に触れられるかどうかだけで、順番も人によって入れ替えています。
課題のあと愛犬と過ごす時間を、2通りに分けて比べたことを示す図です。違うのは犬に触れられるかどうかだけで、順番も人によって入れ替えています。 / Credit: ナゾロジー編集部(編集部が作成した図)

31人は「なでられる」回を先に、33人は後に受けました。


この間、たくさんのセンサーが付いたキャップをかぶってもらい、脳の電気の波(脳波)を記録しました。


脳波を記録するためのキャップです(今回の実験の写真ではありません)。参加者も、センサーがたくさん付いたこうしたキャップをかぶって課題に取り組みました。
脳波を記録するためのキャップです(今回の実験の写真ではありません)。参加者も、センサーがたくさん付いたこうしたキャップをかぶって課題に取り組みました。 / Credit: Chris Hope / Wikimedia Commons(CC BY 2.0)

頭の後ろに出るゆったりした波(アルファ波)は、くつろぐと出やすく、ストレスで弱まります。


前や横に出る速い波(ベータ波)は、気を張って頭を使う時に強まります。


腕のセンサーでは、心拍数と、拍ごとの間隔のわずかなゆらぎ(心拍変動)を測りました。


このゆらぎは体を休ませる神経の働きで生まれ、大きいほど落ち着いている目安になります。


結果、課題はきちんと体を緊張させていました。


休んでいる時と比べて、アルファ波は弱まり、ベータ波は強まり、心拍は速く、ゆらぎは小さくなったのです。


しかも課題の最中には、脳波と心臓の値がそろって動いていました。


では、この緊張のあとに犬をなでると、回復は早まったのでしょうか。


研究チームは早まると予想していましたが、その予想を支える結果は得られませんでした。


なでて過ごした回が、なでずに過ごした回より早く回復したという証拠は見つからなかったのです。


なでた効き目は「次の試練」に現れていた


あくびをする犬を、人が両腕で抱きしめています。
あくびをする犬を、人が両腕で抱きしめています。 / Credit: Photo by Ivan Babydov on Pexels(Pexels のライセンス)

なぜ、なでても回復が早まるという証拠は得られなかったのでしょうか。


研究者たちは、なでる回の方が体をよく動かしていたため、くつろぐ効果が打ち消されたのかもしれないと考えています。


もう一つ考えられるのが、目を合わせる時間です。


なでられない回の飼い主は、そのぶん犬と目を合わせることが多かったようなのです。


犬と見つめ合うとオキシトシンというホルモンが出ることが知られ、それが体の緊張を和らげた可能性があります。


触れられない不利を、見つめ合いが埋めていたのかもしれません。


女の子と犬が、手と前足を合わせてハイタッチをしています。
女の子と犬が、手と前足を合わせてハイタッチをしています。 / Credit: Photo by ZigmarsBerzins on Pixabay(Pixabay のライセンス)

ところがデータをさらに見ると、なでた効き目は別の場面に現れていました。


1回目に犬をなでて過ごした人たちは、2回目のストレス課題を、より落ち着いた体で迎えていたのです。


2回目の課題の最中は、1回目と比べてアルファ波の弱まり方が小さく済みました。


心拍は低めに保たれ、心拍のゆらぎは大きくなっていました。


つまり、同じように手ごわい課題を前にしても、脳も心臓も前ほど身構えなかったということです。


ここで気になるのは、単に2回目で慣れただけではないか、という点です。


もしそうなら、1回目になでられなかった人たちも、2回目は落ち着いていてよさそうです。


しかし、1回目をなでずに過ごした人たちには、こうした変化は見られませんでした。


1回目の休みに愛犬をなでたかどうかで分けて、2回目の課題中の脳と心臓の反応をまとめた図です。青い列にだけ変化が出ていて、単に2回目で慣れたのではないと読み取れます。
1回目の休みに愛犬をなでたかどうかで分けて、2回目の課題中の脳と心臓の反応をまとめた図です。青い列にだけ変化が出ていて、単に2回目で慣れたのではないと読み取れます。 / Credit: ナゾロジー編集部(編集部が作成した図)

研究チームはこの結果から、なでることは人と犬の触れ合いの大事な要素だと見ています。


アントワーヌ・コワペルの絵で、果物かごを持つ黒人の少年と、犬をなでる少女が描かれています。
アントワーヌ・コワペルの絵で、果物かごを持つ黒人の少年と、犬をなでる少女が描かれています。 / Credit: Antoine Coypel / Wikimedia Commons(Public domain)

そして、犬と暮らすよさの一部を、なでることが実際に生み出しているようだと結論づけました。



もう一つ、興味深い発見もありました。


課題によって、参加者自身が答える「いやな気分」も強まっていました。


ところがその感じ方は、脳波や心拍の変化とほとんど結びついていなかったのです。


アントニオ・ロッタが1871年に描いた、犬と飼い主の絵です。
アントニオ・ロッタが1871年に描いた、犬と飼い主の絵です。 / Credit: Antonio Rotta / Wikimedia Commons(Public domain)

先行研究でも、本人の感じ方は体の変化より、その場の状況や予想に左右されやすいとされており、今回の結果はこの見方と合っています。


ただし、参加者は全員が白人のヨーロッパ人で、8割ほどが女性でした。


もっとも、犬の飼い主はもともと女性が多く、研究チームは、典型的な飼い主に近い顔ぶれだとしています。


また効き目が見られたのは、実験室で続けて行った2回の課題の間でのことです。


見つめ合いが触れられない不利を埋めたという説明も、まだ可能性の段階にとどまります。


愛犬の背中をなでるその手は、目の前の疲れをすぐに消してはくれないのかもしれません。


けれども、次にやって来る5秒の雑学問題やダメ出しに、心臓が慌てないよう体を整えていた可能性があるのです。


上司との面談の前には、まず愛犬との打ち合わせを入れておくのがよさそうです。


ここからは、犬とふれあう効果をもっと知りたい人へ


犬とふれあう効果とは、犬と一緒に過ごすことで、ストレスを受けた時の体の反応(ストレスホルモンや心拍の上がり方)が和らぐことです


日の低い時間帯のやわらかな光の中で、2歳の女の子が笑顔で目を閉じ、自分の犬をぎゅっと抱きしめています(ラオス)。 人と犬という、種をこえた絆を写した一枚です。
日の低い時間帯のやわらかな光の中で、2歳の女の子が笑顔で目を閉じ、自分の犬をぎゅっと抱きしめています(ラオス)。 人と犬という、種をこえた絆を写した一枚です。 / Credit: Basile Morin / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)

これまでの研究をまとめた総説によると、動物との触れ合いが、コルチゾールというストレスホルモンや心拍、血圧、それに本人が感じる恐れや不安によい効果を持つことは、よく裏付けられています。


犬と人を比べた実験では、トリーア社会ストレステストと呼ばれるストレス課題を受ける時、人の友人より犬がそばにいる方が、実験のあいだずっとコルチゾールが低めに抑えられ、課題中の心拍も抑えられました。


ただし、本人が答える不安は、どの組でも課題のあとに高まっていました。


半分がペットを飼う夫婦240組を調べた研究では、ペットを飼う人は暗算などの課題で心拍や血圧の上がり方が小さく、元に戻るのも早いことが分かりました。


ペットを飼う人の中でも、上がり方が最も小さく回復が最も早かったのは、ペットがその場にいる時でした。


しくみの手がかりとして、飼い犬と飼い主を30分間再会させた実験では、犬に見つめられると飼い主のオキシトシンというホルモンが増え、続いて犬の側でも増えました。ただし増えたのは長く見つめ合った組で、短くしか見つめ合わなかった組では変わりませんでした。


一方、人に慣らしたオオカミと飼い主では、こうした変化は起きませんでした。


先の総説の著者たちも、動物との触れ合いで報告された効果の大半で、オキシトシンの働きが鍵を握っていると提案しています。


ただ、見つめ合いでオキシトシンが増えるこの流れが、犬が家畜になる間に進化したのかもしれないという実験チームの結論には、別の研究者たちが早すぎると論評しています。 調べた犬がすべて成犬だったため、生まれてから育つ間の経験で身についた可能性もあるという指摘です。


また、アドレナリンなどのストレスの目安を下げる効果や、免疫の働き、痛みの和らぎへの効果は、まだ裏付けが限られています。




Q. 犬に癒されるのはなぜですか?
A. 犬と人の関係は、子どもとその子を主に世話する人とを結ぶ母子の絆と、いくつもの特徴を共有すると指摘されてきました。


Q. 自分の犬でなくても、効果はあるのですか?
A. 友人と犬を比べた実験の研究者たちは、慣れない場所で初対面の犬と短い時間過ごすだけでも、役に立ちうると考えています。


Q. 犬とふれあう効果について、論文はありますか?
A. 人と動物の触れ合いを扱った69本の研究をまとめた総説が出ています。


Q. 犬の側にも効果はあるのですか?
A. 人と犬が好ましい触れ合いをしたあと、βエンドルフィンやオキシトシン、ドーパミンなどの濃度は、人だけでなく犬でも上がっていました。 ただし、ストレスホルモンのコルチゾールが下がったのは人の側だけでした。




この研究の概要


発表

学術誌「Biological Psychology」に、2026年8月に掲載されました。



研究チーム

オーストリアのインスブルック大学心理学科の、ヴァネッサ・カウフマン氏とアネット・シルマー氏らのチームです。



調べた対象

愛犬を連れて実験室に来た、犬を飼う大人64人です。



調べ方

10分間のストレス課題のあとに愛犬と5分間過ごす流れを2回行い、片方の回だけ犬に触れられるようにしました。



調べ方

その間、脳波と心拍数、心拍変動(拍ごとの間隔のゆらぎ)を記録しました。



分かったこと

犬をなでても、ストレスからの回復が早まるという証拠は見つかりませんでした。



分かったこと

一方、1回目に犬をなでた人は、2回目のストレス課題でアルファ波の弱まりが小さく、心拍が低く、心拍変動が大きくなっていました。



まだ分かっていないこと

なでても回復が早まらなかった理由ははっきりせず、研究チームは、なでる回の方が体をよく動かしていたことなどが効き目を打ち消した可能性を挙げています。



全ての画像を見る

参考文献

New study suggests touch is a key ingredient in dogs’ stress-buffering power (PsyPost)
https://www.psypost.org/new-study-suggests-touch-is-a-key-ingredient-in-dogs-stress-buffering-power/

Frontiers in Psychology「Commentary: Oxytocin-Gaze Positive Loop and the Coevolution of Human-Dog Bonds」
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4663257/

Polheber &Matchock「The presence of a dog attenuates cortisol and heart rate in the Trier Social Stress Test compared to human friends」(J Behav Med 2014)の要旨
https://www.ebi.ac.uk/europepmc/webservices/rest/search?resultType=core&format=json&query=TITLE%3A%22presence%20of%20a%20dog%20attenuates%20cortisol%22

Odendaal &Meintjes「Neurophysiological correlates of affiliative behaviour between humans and dogs」(Vet J 2003)の要旨
https://www.ebi.ac.uk/europepmc/webservices/rest/search?resultType=core&format=json&query=TITLE%3A%22Neurophysiological%20correlates%20of%20affiliative%20behaviour%20between%20humans%20and%20dogs%22

Allen ほか「Cardiovascular reactivity and the presence of pets, friends, and spouses: the truth about cats and dogs」(Psychosom Med 2002)の要旨
https://www.ebi.ac.uk/europepmc/webservices/rest/search?resultType=core&format=json&query=TITLE%3A%22Cardiovascular%20reactivity%20and%20the%20presence%20of%20pets%2C%20friends%2C%20and%20spouses%22

Beetz ほか「Psychosocial and Psychophysiological Effects of Human-Animal Interactions: The Possible Role of Oxytocin」(Front Psychol 2012)の要旨
https://www.ebi.ac.uk/europepmc/webservices/rest/search?resultType=core&format=json&query=TITLE%3A%22Psychosocial%20and%20psychophysiological%20effects%20of%20human-animal%20interactions%22

元論文

Pet-induced stress buffering depends on touch: Evidence from brain and cardiac measures
https://doi.org/10.1016/j.biopsycho.2026.109366

ライター

山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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