子どものころ、図鑑の生き物を「これは犬の仲間」「これは猫の仲間」と分けて遊んだ人もいるでしょう。
生き物の仲間分けは、見た目だけでなく遺伝子も手がかりにして進められています。
中米コスタリカの沖にある深海の山で、鮮やかな黄色の木のようなサンゴが見つかりました。
研究チームは、このサンゴの体のつくりと遺伝子をくわしく調べ、仲間分けを試みました。
ところが、このサンゴの居場所を決めるのは、思いのほか難しい仕事でした。
この黄金色のサンゴは、生き物の系統樹のどこに置かれることになったのでしょうか?
研究の詳細は、コスタリカ大学らにより、2026年6月30日付で学術誌『ZooKeys』に掲載されました。
目次
- 酸素のほとんど無い海に広がる「黄金の林」
- このサンゴは、いったい誰の親戚なのか?
- 「星の原の黄金の木」が教えてくれたこと
酸素のほとんど無い海に広がる「黄金の林」
このサンゴが見つかったのは、コスタリカの太平洋側にある海山(海底からそびえる山)です。

調査では、遠隔操作で動く無人探査機「SuBastian」を使いました。
2回の調査航海で、ココ島国立公園の南西にある海山「ラス・ヘメラス」などが調べられました。
サンゴが見られたのは水深およそ360〜530mで、東京タワーを沈めても頂上が海面に届かない深さです。
そこは酸素がほとんど無い層で、水温も8〜11℃ほどしかありません。

生き物には厳しそうな環境ですが、海山の岩場には思わぬ光景が広がっていました。
岩の表面を、丸い体から細長い腕を伸ばすクモヒトデの一種が、すき間なく覆っていたのです。
その「クモヒトデのじゅうたん」の上に、黄色いサンゴが林のように立ち並んでいました。
サンゴの幹や根元は、ほとんどがクモヒトデの群れに埋もれていました。
林のような密な群れが見られたのはラス・ヘメラスIIで、隣のラス・ヘメラスIではまばらに、別の海山では点々と生えているだけでした。
このサンゴはパナマやガラパゴス諸島でも見られたという観察がありますが、まだ確かめが必要だとされています。
大きな群体は高さ1mを超えます。
幅は1.2mに達し、標本の枝は20〜30回も枝分かれして、扇のような形に広がっていました。
枝の周りには長さ最大5mmの細長いポリプ(サンゴの個体)が並び、群体は毛羽立って見えます。

生きている間は鮮やかな黄色ですが、保存すると色が消え、茶色っぽく変わってしまいます。
研究チームは、岩場一面に広がるこの光景を、黄金色のサンゴの「庭」と表現しています。
ラス・ヘメラスIIで集めた標本からは卵が見つかっていて、この「庭」で子孫を残している可能性もうかがえます。
このサンゴは、いったい誰の親戚なのか?
このサンゴの正体を探るため、研究チームは体のつくりとあわせて遺伝子を調べました。
使ったのは3つの遺伝子で、八放サンゴ(はっぽうサンゴ、触手が8本あるサンゴの仲間)の仲間分けによく使われるものです。
2つは細胞の中の小さな発電所「ミトコンドリア」の遺伝子、残る1つは細胞核の遺伝子でした。
ところが、結果は遺伝子ごとにバラバラで、同じ答えに揃わなかったのです。

ミトコンドリアの遺伝子の1つ(mtMutS)は、このサンゴを「インクルスタトゥス科」に強く結びつけました。
この科は、軸(体を支える芯)を持たず、岩などの表面を這うように広がるソフトコーラル(柔らかいサンゴ)の仲間です。
枝を広げて1mを超える黄金の木とは、形のうえで共通点がほとんどありません。
一方、もう1つのミトコンドリアの遺伝子(COI)は、「エウニケラ科」という別の科を、やはり強く支持しました。
核の遺伝子(28S)は手がかりが弱く、はっきりした居場所を示せませんでした。

研究チームが最も驚いたとしているのは、同じミトコンドリアの遺伝子どうしで答えが大きく食い違ったことです。
そこで研究チームは、2つの標本から、ゲノム(生き物が持つ遺伝情報の全体)を広く読み取りました。
そして、ゲノムのあちこちに散らばる多数の領域を取り出し、まとめて比べたのです。
比べる相手には、過去の研究で集められた八放サンゴ393サンプルのデータなどを使いました。
その結果、このサンゴは既存のどの科にも入らず、独自のグループを作ることが強く支持されました。
系統樹の上では、エウニケラ科のすぐ隣で枝分かれした「姉妹」にあたる位置です。

振り返ると、COIの遺伝子は、この大規模な解析と同じ並びを示していたことになります。
ただし、群体の形や、体の中に散らばる小さな骨のかけら(骨片)は、エウニケラ科とは大きく違っていました。

そこで研究チームは、このサンゴのために新しい科「ラウリンクウェ科」を立てました。
あわせて新しい属と種として、「ラウリンクウェ・エレニャ(Laurinque elenya)」と名づけられています。
「星の原の黄金の木」が教えてくれたこと
では、このちょっと変わった学名には、どんな意味があるのでしょうか。
属名のラウリンクウェは、トールキンの『指輪物語』のエルフの言葉(クウェンヤ)で「黄金の木」を意味します。
鮮やかな黄色の、木のような群体にちなんだ名前です。
種名のエレニャは、同じ言葉で「星の」「星座」といった意味を持ちます。
これは、クモヒトデがすき間なく並ぶ「星の原」で見つかったことにちなんでいます。
研究チームは、クモヒトデの原に広がる黄金の林が、エルフの神秘的な世界を思わせると書いています。

一方で、この研究には、サンゴの研究全体に関わる大事な教訓も含まれていました。
もしmtMutSの遺伝子だけに頼っていたら、形のほとんど似ていない科に誤って入れていた、と研究チームは指摘します。
この遺伝子は、属のレベルの関係を見分けるのには、ふだんよく役立つとされています。
しかし今回の結果は、もっと大きなまとまり(科のレベル)を決める時には注意が必要だと示しました。
なぜミトコンドリアの遺伝子は、ときに違う答えを出すのでしょうか。
過去の研究では、八放サンゴのミトコンドリアの遺伝子でつくる系統樹は、核の遺伝子でつくる系統樹としばしば食い違うと指摘されています。
種そのものではなく、ミトコンドリア自身がたどってきた歴史を映しているのかもしれない、という見方です。
また、ミトコンドリアの遺伝子には自然選択(環境に合った性質が子孫に残っていく仕組み)が強く働くとみられています。
さらに、その遺伝子が変化する速さは、八放サンゴのグループごとに大きく違うことも分かっています。
研究チームは、遠く離れたグループどうしの関係を知るには、数百の遺伝子にもとづく解析が必要だと強調しています。
生きている間は黄金色に輝き、引き上げて保存すると茶色に変わってしまう深海のサンゴ。

その本当の居場所は、家族写真を1枚だけ見るのではなく、アルバムを丸ごとめくって初めて分かったのです。
ここからは、八放サンゴ亜綱をもっと知りたい人へ
八放サンゴとは、触手が8本あるサンゴのグループです

ウミエラやアオサンゴも、この八放サンゴの仲間に入ります。
体はふつう柔らかいものの、多くの種では、石灰質などの硬い材料で補強されています。
仲間の分け方も見直されていて、かつての「ウミトサカ目」というまとめ方は、遺伝子を比べる研究をきっかけに使われなくなりました。
写真で見るさまざまなサンゴ











参考文献
A coral among stars: A new octocoral family (Anthozoa, Octocorallia, Malacalcyonacea) from seamounts in the tropical eastern Pacific (ZooKeys)
https://doi.org/10.3897/zookeys.1283.191899
元論文
A coral among stars: A new octocoral family (Anthozoa, Octocorallia, Malacalcyonacea) from seamounts in the tropical eastern Pacific
https://doi.org/10.3897/zookeys.1283.191899
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部
