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人間の腸にも「巨大細菌」が潜んでいる可能性がある


あなたのお腹にも、肉眼で見えるほどの「巨大細菌」がいるかもしれません。


ドイツのベルリン工科大学などの研究チームが、腸内細菌の公開データを調べ直しました。


すると、魚の腸で知られる肉眼でも見えるレベルの巨大細菌の仲間のDNAが、人の便のデータにも広く見つかったのです。[1]


よく調べられているはずのお腹に、姿を知らない「大物」がいる可能性が浮かびあがったのです。


研究は2026年10月1日、プレプリントサーバーである「bioRxiv」に掲載されました。




目次



  • たった1個で0.6ミリ! 魚の腸にすむ「細菌界の巨人」
  • 人の便にも「巨大細菌の親戚」のDNA! 約54万件のデータを再解析
  • 大きすぎて見落とされた? 腸内細菌研究に潜む盲点

たった1個で0.6ミリ! 魚の腸にすむ「細菌界の巨人」


細菌といえば、顕微鏡を使わなければ見えない、小さな生き物を思い浮かべるでしょう。


ところが、その常識からはみ出した仲間がいます。


エプロピシウムという細菌の仲間には、長さが約0.6ミリに達するものがいるのです。


人間の腸にも「巨大細菌」が潜んでいる可能性がある
人間の腸にも「巨大細菌」が潜んでいる可能性がある / Credit:川勝康弘

これは小さな細菌が集まった塊ではなく、たった1個の細胞の大きさです。[3]


長さ0.6ミリといえば、1ミリ刻みの定規の目盛りの半分を超えます。


その大きさは、最初に見つかったとき、細菌とは別の生き物だと思われたほどでした。[2]


この「細菌界の巨人」は、主に熱帯の海に暮らすニザダイの仲間の腸で研究されてきました。


しかし、研究が魚に集中していたため、ほかの動物にもどれほど広がっているかは、よくわかっていませんでした。[1][3]


その手がかりになりそうなのが、世界中で蓄積されている腸内細菌のDNAデータです。


人間の腸にも「巨大細菌」が潜んでいる可能性がある
人間の腸にも「巨大細菌」が潜んでいる可能性がある / Credit:川勝康弘

腸内細菌の研究では、便に含まれるDNAの一部を読み、その並び方から細菌の種類を調べます。


DNAを手がかりに、お腹の住人の「名簿」を作るような方法です。


一つ一つの細胞を育てて調べなくても、どんな仲間がいるのかをまとめて探れます。[1]


ただし、名簿に名前が載っても、その住人の身長まではわかりません。


それでも、この仲間のDNAがどの動物のデータにあるかを調べれば、実物を探す場所の見当はつけられます。


魚の腸で知られるこの仲間は、ほかの動物の腸にも広く暮らしているのでしょうか?


人の便にも「巨大細菌の親戚」のDNA! 約54万件のデータを再解析


たった1個で0.6ミリ! 魚の腸にすむ「細菌界の巨人」
たった1個で0.6ミリ! 魚の腸にすむ「細菌界の巨人」 / 巨大細菌の仲間が腸に暮らすことが知られる魚、ソハールサージョンフィッシュ。紅海での撮影。Credit: Derek Keats/Wikimedia Commons

では、私たち人間の便にも、この仲間のDNAは見つかるのでしょうか?


答えを得るために研究者たちは、ヒトや動物の腸内細菌を調べた約54万件の公開データを解析しました。


このうちヒト由来のデータだけでも約25万件あり、83か国の研究資料が含まれていました。[1]


調べたのは、細菌の仲間を見分ける目印になる遺伝子です。


その並び方を、既知の細菌のDNAの並び方と照らし合わせると、エプロピシウムに分類されるDNAが見つかりました。


ヒトに加え、ヒト以外の哺乳類や鳥類など、幅広い動物のデータにも含まれていたのです。[1]


さらに、新たに得たヒトの便のDNAも加え、目印にした遺伝子を短い部分だけでなく全長で比べました。


比較できる部分を増やすことで、細菌どうしの近さを詳しく調べたのです。


そこから細菌の「家系図」を作ると、人の便のDNAは、エプロピシウムに近い複数のグループに入りました。


短いDNAの一致だけでなく、より長い範囲を比べても、この仲間とのつながりが見えたわけです。[1]


こうして、魚の腸で研究されてきた仲間が、私たちを含むさまざまな動物の腸にもいる可能性が示されました。


ただし、近い親戚だからといって、体の大きさまで同じとは限りません。


人の腸にも肉眼サイズの細菌がいると確かめるには、DNAの持ち主を実際に見る必要があります。[1]


この仲間のDNAの割合には、年齢や健康状態による違いもありました。


研究チームは、この仲間のDNAが見つかった試料だけを対象に、読み取った目印の遺伝子のうち、この仲間のものが占める割合を比べました。


すると、生後1年以内の乳児では、ほかの年齢層より割合が高くなっていました。


大腸がんなど一部の腸の病気がある人でも、健康な成人より高い割合が見られました。[1]


この仲間が腸内でどんな暮らしをしているのかを知るには、DNAだけでなく、その持ち主の姿も調べる必要があります。


では、この仲間のDNAが以前から記録されていたのに、その持ち主の姿が確かめられていなかったのはなぜでしょうか?


大きすぎて見落とされた? 腸内細菌研究に潜む盲点


細菌を調べるための方法そのものが、この「大物」を見えにくくしていたのでしょうか?


著者たちは、DNAによる分類と、生き物の姿を調べる研究の間に隔たりがあると指摘しています。


以前のヒトの腸内データにも、この仲間のDNAは記録されていました。


それでも、そのDNAの持ち主が巨大な細菌である可能性は、十分に検討されていなかったのです。[1]


しかも、姿を捉える前に、調査対象からこぼれてしまう可能性もあります。


便を調べる際には、大きなごみを取り除くため、試料をこしたり、回転させて粒子を沈めたりすることがあります。


著者たちは、その処理で巨大な細胞まで一緒に取り除かれていた可能性を挙げています。


大きいから見つけやすいどころか、大きすぎるから見落とすのかもしれません。[1]


姿の確認は、DNAの数字を読み解くうえでも大切です。


魚で知られる巨大な仲間には、1個の細胞が遺伝情報のコピーを何万部も持つものがいます。


そのため、少ない細胞から大量のDNAが読み取られることがあります。


少数の大物が、DNAのデータでは大勢に見えることもありうるのです。


では、数が少なければ、お腹の中での存在感も小さいのでしょうか。


本当に巨大な細胞なら、数が少なくても、その集まりが占める体積は大きくなるかもしれません。[1]


DNAの数字から腸内での暮らしを読み解くには、持ち主の大きさや数を確かめる必要があるのです。


その暮らしを探るもう一つの手がかりが、年齢や健康状態によってDNAの割合が違ったという結果です。


生後間もない赤ちゃんの腸では、細菌たちの集まりが形作られている途中です。


病気に伴って腸内の栄養や、ほかの細菌との競争が変わる場合もあります。


著者たちは、こうした変化が、この仲間にとって暮らしやすい条件を生む可能性を考えています。[1]


つまり、病気の「犯人」とは限らず、変化した環境に居場所を見つける住人なのかもしれません。


どんな条件で現れやすいのかがわかれば、腸内環境の変化を知らせる目印として役立つ可能性もあります。


著者たちは、DNAの解析と、細胞の姿を直接調べる方法を組み合わせることを求めています。[1]


DNAの持ち主を顕微鏡で捉えられれば、大きさや数を手がかりに、お腹の中での存在感を調べられます。


私たちのお腹には、名前は名簿に載っていても、まだ顔を見ていない住人がいるのかもしれません。


参考文献




[1] Lyu, Y. et al. Giant bacteria in gut microbiomes. bioRxiv


[2] Cornell Chronicle. Giant bacterium powers itself with unique processes.


[3] Miyake, S., Ngugi, D. K. &Stingl, U. Phylogenetic Diversity, Distribution, and Cophylogeny of Giant Bacteria (Epulopiscium) with their Surgeonfish Hosts in the Red Sea. Frontiers in Microbiology 7, 285 (2016).




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参考文献

Giant bacterium powers itself with unique processes
https://news.cornell.edu/stories/2023/12/giant-bacterium-powers-itself-unique-processes

元論文

Giant bacteria in gut microbiomes
https://doi.org/10.64898/2026.09.30.750856

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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