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風車の羽根にペンキを塗ると、鳥の衝突が大きく減ると判明


扇風機のスイッチを入れると、さっきまで見えていた羽根が、向こうが透けて見える薄い円盤のようになっていきます。


風力発電は、気候変動に立ち向かうための大切な手段です。


ところが鳥にとっては、回る巨大な羽根が命取りになることがあります。


米国だけでも、風車にぶつかって死ぬ鳥は年に最大100万羽にのぼるとされます。


この問題に対して、スペイン南部の風力発電所で、安くて単純な工夫が試されました。


使ったのは、高価な装置ではなく、ペンキです。


3枚ある羽根のうち1枚だけを黒く塗ると、鳥の死はどこまで変わるのでしょうか?


研究の詳細は、ノルウェー自然研究所らにより、2026年9月1日付で学術誌『Ecology and Evolution』に掲載されました。




目次



  • 回る白い羽根は、鳥にはぼやけて見える
  • 黒い羽根1枚で、鳥の死はどこまで減ったのか?
  • 効きにくかった鳥と、広めるための壁


この研究の概要


発表

2026年9月に、科学誌『Ecology and Evolution』に論文が掲載されました。



研究チーム

ノルウェー自然研究所のロエル・メイ氏が筆頭著者を務める研究チームです。



調べた対象

スペイン南部のタリファにあるエル・ルエド風力発電所の20基の風車と、その下で見つかった鳥の死骸です。



調べ方

4基の風車で3枚ある羽根の1枚を黒く塗り、残る16基の白い風車と比べました。2012年から2024年まで毎日死骸を探し、塗る前の約9年半と塗った後の約3年半を比べました。



分かったこと

羽根を塗った風車では、塗らない風車と比べて鳥の衝突死が約74%減りました。効果は小鳥と大型の水鳥で大きく、猛禽類では小さめでした。



まだ分かっていないこと

その土地の鳥の数や飛び方、鳥の視野が効果をどこまで左右するのかは、まだ分かっていません。



回る白い羽根は、鳥にはぼやけて見える


そもそも鳥は、なぜあれほど大きな羽根にぶつかってしまうのでしょうか。


風車の白い羽根は、速く回ると透けたようにぼやけて見えます。


この現象は「動きのぼやけ(モーションスミア)」と呼ばれます。


このぼやけのせいで、鳥は羽根を見分けにくくなると考えられています。


そこで、羽根の1枚だけ色を変えてぼやけを崩せば、鳥が羽根に気づきやすくなるかもしれません。


実際に、小型のハヤブサの仲間であるアメリカチョウゲンボウを使った実験室の実験がありました。


その実験では、1枚を黒く塗ると羽根を見つけやすくなる可能性が示されていました。


ノルウェーの風力発電所では、この方法で鳥の死亡率が最大70%減ったと報告されています。


南アフリカでは、黒ではなく赤で1枚を塗り、83%の減少が報告されました。


一方、オランダでの追試では、はっきりした減少は見られませんでした。


効果が場所や鳥の顔ぶれで変わるのかは、まだ確かめる必要があったのです。


そこで研究チームが選んだ舞台が、ジブラルタル海峡に近いタリファの「エル・ルエド風力発電所」です。


この一帯はヨーロッパとアフリカを結ぶ渡り鳥の大通りで、春と秋には数百万羽が通過します。


チームは、発電所にある20基の風車のうち4基で、羽根1枚を黒く塗りました。


羽根の1枚を鳥への目印として黒く塗った、エル・ルエド風力発電所の風車です(スペイン)。
羽根の1枚を鳥への目印として黒く塗った、エル・ルエド風力発電所の風車です(スペイン)。 / Credit: May et al., Ecology and Evolution (2026)(CC BY 4.0)

残る16基は白いままにして、比べるための「対照」としました。


エル・ルエド風力発電所での実験の配置を示した図です(スペイン)。番号の付いた丸が1基ずつの風車で、羽根を塗った4基は赤で示されています。
エル・ルエド風力発電所での実験の配置を示した図です(スペイン)。番号の付いた丸が1基ずつの風車で、羽根を塗った4基は赤で示されています。 / Credit: May et al., Ecology and Evolution (2026)(CC BY 4.0)

調査員は2012年から2024年まで、毎日すべての風車の下を見回りました。


風車の周り、テニスコート約13面分の範囲を歩いて死骸を探し、牛のいる区域では高い所から双眼鏡で探しました。


塗る前の約9年半と、塗った後の約3年半を比べられる設計です。


この長い見回りで見つかった鳥の死骸は、44種297羽にのぼりました。


黒い羽根1枚で、鳥の死はどこまで減ったのか?


結果は、はっきりしていました。


羽根を塗った風車では、塗らない風車と比べて、鳥の年間の衝突死が73.8%減っていたのです。


塗らない風車と比べたとき、4羽がぶつかっていたところが1羽ほどで済むようになった計算です。


1基あたりで見ると、塗った風車では年に約1.8羽だった死骸が、約0.3羽まで減りました。


塗らない風車でも年に約1.1羽から約0.7羽へと減っていました。


塗らない風車での減り方を差し引いても、塗った風車にははっきりした差が残ったのです。


羽根を塗ったことが年間の衝突死にどう効いたかを、統計の計算で確かめた結果の図です(エル・ルエド風力発電所)。
羽根を塗ったことが年間の衝突死にどう効いたかを、統計の計算で確かめた結果の図です(エル・ルエド風力発電所)。 / Credit: May et al., Ecology and Evolution (2026)(CC BY 4.0)

研究チームは、黒い風車を避けた鳥が隣の風車にぶつかるようになっていないかも確かめました。


その結果、塗った風車の近くの風車で、死ぬ鳥が増えた様子は見られませんでした。


また、13年にわたる長い記録からは、鳥が黒い羽根に慣れて効果が薄れていく様子も見つかりませんでした。


季節ごとに分けた数字では、冬は100%、春は83%と大きく減っていました。


一方、夏は68%、秋は33%の減少にとどまり、季節によって差がありました。


エル・ルエド風力発電所での年間の衝突死が、年ごと・季節ごとにどう変わったかを示す図です。塗った効果がプラスに出た所は青、マイナスに出た所は赤で示されています。
エル・ルエド風力発電所での年間の衝突死が、年ごと・季節ごとにどう変わったかを示す図です。塗った効果がプラスに出た所は青、マイナスに出た所は赤で示されています。 / Credit: May et al., Ecology and Evolution (2026)(CC BY 4.0)

では、どんな鳥がとくに守られたのでしょうか。


最も目立ったのは、小鳥と、サギやコウノトリの仲間といった大型の水鳥です。


この発電所では、アマサギが41羽、コウノトリの仲間のシュバシコウが25羽見つかっていました。


どちらも、羽根が回る高さで時間を過ごすことが知られている鳥です。


ところが塗った後の黒い羽根の風車では、大型の水鳥の死骸は1羽も見つからず、100%の減少となりました。


小鳥も、塗った後は年間の衝突死が74%減りました。


いちばん多く見つかった鳥は、ハタホオジロという地面近くを飛ぶ小鳥で、13年間で55羽です。


減った小鳥には、イエスズメのように低く飛ぶ種のほか、カンムリヒバリのように空を飛び回る種も含まれていました。


黒い羽根1枚で、大型の水鳥と小鳥の衝突は大きく減ったのです。


風車1基あたりの年間の衝突死を、左は季節ごと、右は鳥のグループごとに分けて示した図です(エル・ルエド風力発電所)。
風車1基あたりの年間の衝突死を、左は季節ごと、右は鳥のグループごとに分けて示した図です(エル・ルエド風力発電所)。 / Credit: May et al., Ecology and Evolution (2026)(CC BY 4.0)

効きにくかった鳥と、広めるための壁


ただし、すべての鳥に同じように効いたわけではありません。


タカやハゲワシなどの猛禽類では、減り方は16%にとどまり、はっきりした差とは言えませんでした。


猛禽類はこの発電所でデータの多いグループの一つで、シロエリハゲワシは18羽、チョウゲンボウは17羽見つかっています。


空を飛ぶシロエリハゲワシです(スペイン)。
空を飛ぶシロエリハゲワシです(スペイン)。 / Credit: Pierre Dalous / Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0)

ノルウェーや南アフリカの研究では猛禽類にも効果が見られており、今回とは違う結果です。



研究チームは、渡りの途中の鳥に加えて、地元で繁殖する猛禽類もぶつかっていた可能性を挙げています。


地元の鳥は数は少なくても、餌探しなどでこの一帯をよく使っている可能性があります。


そのため、たまに通る渡り鳥より、ぶつかる危険が大きいのかもしれません。


なお、ハゲワシやトビのように死肉を探す鳥は、もともと風車にぶつかりやすい鳥です。


飛びながら地面を見渡しているうえ、真正面が見えにくいため、前方に死角ができて障害物に気づくのが遅れるとされます。


空中で虫を捕るアマツバメやツバメの仲間でも、はっきりした減少は見られませんでした。


調べ方にも注意点があります。


死骸の見落としや、動物による持ち去りの割合を確かめる試験は行われていません。


ただ、同じ発電所で同じやり方で比べているため、塗った効果を比べる目的には使えると研究チームは述べています。


また、地域の鳥の数や飛び方、鳥の視野が効果にどう影響するかは、まだ分かっていません。


実際に広めるうえでも、壁が残っています。


今のところ風車メーカーは黒い羽根を供給しておらず、設置後に塗ると風車の保証が切れてしまいます。


論文の筆頭著者であるノルウェー自然研究所のロエル・メイ氏は、稼働中の風車に塗るのは手間も費用もかかると話します。


製造の段階で塗るほうが簡単で安いものの、メーカーは羽根が熱を持ちやすくなることや重さが変わることを心配しています。


論文では、黒い羽根に雷が落ちやすくなるのではという懸念も挙げられています。


そのため、赤など別の色の塗り方を調べることも大切だとされています。


それでも今回の結果は、この方法が緯度の大きく違う場所でも効くことを裏付けました。


メイ氏は、業界が規模を広げて実際に使い、結果を見ながら学んでいくことを望んでいます。


白く並ぶ風車からサギやコウノトリを守る鍵は、最新の装置ではなく、羽根1本分の黒いペンキだったのかもしれません。


風車の世界にも、「1本だけ色違い」というおしゃれの時代がやって来るのかもしれません。


ここからは、バードストライクをもっと知りたい人へ


バードストライクとは、鳥が人の作ったものにぶつかってしまう事故のことです


送電線と風力発電所が見える、スペイン・アンダルシア地方の景色です。
送電線と風力発電所が見える、スペイン・アンダルシア地方の景色です。 / Credit: Konstantin / Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0)

鳥がぶつかる相手は風車だけではありません。車や鉄塔、建物の窓など、人が作ったさまざまなものにぶつかります。


その中で、風車にぶつかって死ぬ鳥の数は、窓や車、鉄塔にぶつかって死ぬ数よりずっと少ない可能性が高いと、カナダの研究は見ています。


ただし風車では、鳥だけでなくコウモリも、回る羽根にぶつかって命を落としています。


被害の大きさは土地によっても違います。アメリカの研究では、風車1基あたりで死ぬ鳥の数は、グレートプレーンズという地域でいちばん少なかったと報告されています。


また、鳥の種類によっては影響が大きくなります。日本で絶滅のおそれがあるとされるオジロワシでは、死因が分かっているものの中で、風車への衝突がいちばん多くなっています。


風車を建てる場所の選び方も大切です。カナダの研究は、影響を受けやすい生息地や、絶滅のおそれのある種が集まる場所を避ければ、その種の数が全体として減るほどの影響は考えにくいとしています。




Q. 風車1基では、年に何羽くらいの鳥が死んでいますか?
A. カナダの43か所の風力発電所で死骸を探した調査をもとにすると、風車1基あたり年に平均8.2羽と推計されました。ただし、発電所ごとの差は大きく、0羽から26.9羽まで幅がありました。


Q. 背の高い風車ほど、鳥はぶつかりやすいのですか?
A. アメリカの研究では、羽根の付け根にあたる風車の中心(ハブ)が高いほど、死ぬ鳥が増える傾向が見られました。


Q. 風力発電が鳥に与える影響は、衝突のほかにもありますか?
A. あります。風車を建てると鳥のすむ場所が失われるため、そのことも心配されています。カナダの32か所の風力発電所のデータからは、風車1基あたり平均1.23ヘクタール、国全体で3635ヘクタールの生息地が直接失われたと推定されました。


Q. 日本では、風車による鳥の被害にどう取り組んでいますか?
A. 環境省は、風車を建てる場所を検討するときに配慮すべきことを、平成23年(2011年)1月に「鳥類等に関する風力発電施設立地適正化のための手引き」としてまとめました。また平成22年度から平成24年度までは、とくに海ワシ類を対象にして、鳥がぶつかる状況とその原因を調べ、効果のある防止策の案を検討しました。



写真で見る風車と鳥


衝撃を感じ取るセンサーを取り付けた後に、風車の羽根の先を作業員が最終点検しているところです。
バーガー・ヒルに立つ風車と、野鳥を観察するための小屋です。風車と鳥を見る場所が、同じ丘の上に並んでいます。
アメリカ・カリフォルニア州のバーズランディング近くに並ぶ風車です。アメリカでも、風車への鳥の衝突が研究で見積もられてきました。
シロエリハゲワシのくちばしを横から見た写真です。
パリ動物園で撮影されたシロエリハゲワシの頭です(フランス)。
マドリード動物園にいるシロエリハゲワシです(スペイン)。研究の舞台と同じスペインでは、野外を飛ぶ姿も撮影されています。
スペイン・アンダルシア地方の風力発電所です。研究の舞台と同じスペインにある発電所の一つです。
スペイン・マラガ県のバーニョス山地に建つ風力発電所です(アンダルシア地方)。並んでいるのは、ガメサ社のG87という型の風車です。
同じバーニョス山地の風力発電所を写した、もう1枚の写真です(スペイン・マラガ県)。
海に立つ風車の手前を、カモメが飛んでいます。
羽根の先に赤い帯の入った風車と、その上空を飛ぶ鳥です。
夕焼けの空に並ぶ風車のシルエットです。回る羽根は、ぶれて透けたように写っています。

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参考文献

Painted wind turbines can dramatically reduce bird deaths, study finds (Mongabay)
https://news.mongabay.com/short-article/2026/10/painted-wind-turbines-can-dramatically-reduce-bird-deaths-study-finds/

風力発電施設に係るバードストライク防止策(環境省)
https://www.env.go.jp/nature/yasei/sg_windplant/birdstrike.html

Estimates of bird collision mortality at wind facilities in the contiguous United States(Tethys)
https://tethys.pnnl.gov/publications/estimates-bird-collision-mortality-wind-facilities-contiguous-united-states-america

A Canadian estimate of bird mortality due to collisions and direct habitat loss associated with wind turbine developments(Tethys)
https://tethys.pnnl.gov/publications/canadian-estimate-bird-mortality-due-collisions-direct-habitat-loss-associated-wind

元論文

Efficacy of Painting Wind Turbine Blades as a Mitigation Measure to Reduce Bird Collisions in a Mediterranean Wind Farm
https://doi.org/10.1002/ece3.74017

ライター

山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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