親戚の集まりで「いい人はいないの?」と聞かれ、笑ってごまかした経験がある人も多いでしょう。
人の一生の歩みを説明する心理学の理論では、パートナーを見つけて結婚することが、人生の大事な目標として扱われてきました。
その一方で、一度も結婚しないまま年を重ねる人たちには、あまり目が向けられてきませんでした。
では、結婚せず恋人もいない暮らしを10年以上続けた人は、本当に年々不満をためていくのでしょうか。
今回の研究は、ドイツで11年間ずっと独身だった約3000人の記録をたどり、この問いに答えようとしたものです。
研究の詳細は、カナダのトロント大学らにより、2026年8月21日付で学術誌『Personality and Social Psychology Bulletin』に掲載されました。
目次
- 11年間ずっと独身だった人だけを追いかける
- 11年たって、独身の人の「人生の満足」はどうなった?
- 「独身でいること」への満足は、世代で大きく割れた
11年間ずっと独身だった人だけを追いかける
独身の人の研究はこれまで、パートナーのいる人と比べる形で行われることが多くありました。
今回の研究を率いたのは、カナダのトロント大学で博士課程に在籍するエレイン・ホーン氏です。
ホーン氏は、独身の人の心の満足が時とともにどう変わるのかは、まだよく分かっていないと話します。
チームが使ったのは、人間関係と家族について長年続くドイツの全国調査(ドイツ家族パネル)のデータです。
2009年ごろから11年間、毎年の調査の回答をたどりました。
対象は、調査に加わった時の年齢が違う3つの世代です。
ここでは、18歳前後から参加した人を若い世代、26歳前後から参加した人を中間の世代と呼びます。
そして36歳前後から参加した人を、年上の世代と呼びます。
条件は厳しく、11回の調査すべてで「結婚したことがなく、決まった恋人もいない」と答えた人だけが選ばれました。
年を重ねるほど恋人ができる人は増えるため、条件を満たした人は若い世代で67%、年上の世代では14%だけでした。
こうして残った2930人を、11年間独身を続けた人として分析しました。
参加者は毎回、人生全体への満足、独身でいることへの満足、性生活への満足、恋人がほしい気持ちの強さを数字で答えています。
実は同じデータを使った以前の解析では、独身の人の人生満足度は年々下がっていくという結果が出ていました。
ただしそれは、全員が1本の平均的な道筋をたどると仮定した解析でした。
そこでチームは、時間とともに似た変わり方をする人どうしをグループに分ける統計の手法(潜在クラス成長分析)を使いました。
全員をひとまとめにせず、何通りの歩み方があるのかを取り出すためです。
11年たって、独身の人の「人生の満足」はどうなった?
その結果は、以前の解析が描いた「下がり続ける独身」の姿とはかなり違うものでした。
人生全体への満足では、どの世代でも大半の人が1つの大きなグループにまとまったのです。
このグループの人たちは、11年間ずっと、満足度が尺度の真ん中を上回ったままでした。
その割合は、若い世代で94%、中間の世代で95%にのぼります。
年上の世代でも88%と、ほぼ9割でした。
つまり、長く独身を続けた人のおよそ10人に9人が、調査の期間を通して人生に満足し続けていたのです。
若い2つの世代では、このグループの満足度も年々わずかに下がりましたが、高い水準のままでした。
年上の世代の多数派では、満足度に統計的にはっきりした変化は見られませんでした。
満足度の高いこのグループの人は、そうでない人に比べて収入が多く、体の健康状態もよい傾向がありました。
性格の面では、不安や落ち込みを感じやすい傾向(神経症傾向)が低いという共通点がありました。
人づきあいに積極的な傾向(外向性)も、高めでした。
ただし、これは一緒に見られたという関係で、収入や性格が満足を生んだとまでは言えません。
一方で、どの世代にも、最初から人生の満足度が低い少数派がいました。
若い世代と中間の世代では、この少数派の満足度は年々上がっていきました。
そして最後の調査のころには、多数派に追いつくところまで来ていたのです。
ところが、年上の世代の少数派だけは違いました。
満足度は上がらず、わずかに下がっていましたが、統計的にはっきりした変化とは言えないものでした。
この少数派は年上の世代では約12%で、若い世代や中間の世代(約5〜6%)の倍ほどいました。
著者らは、人生の半ばという時期の事情が関わっているのではないかと考えています。
この年代は、結婚や家庭を持つことへの周りの期待が高まる時期だというのです。
さらにこの年代は、人づきあいや活動が減りやすいとされます。
家族やパートナーのいる友人と会うたびに、恋人を持つべきだという期待を意識しやすい可能性も指摘されています。
では、以前の解析で満足度が下がり続けて見えたのはなぜでしょうか。
著者らは、満足度の低い少数派が全体の平均を引き下げ、1本の下がっていく線に見えていた可能性があると見ています。
著者らの見立てでは、全員を1本の平均線でくくったことで、多数派の「高いまま」という姿が見えにくくなっていた可能性があるということです。
少なくともこのデータでは、長く独身を続けた人の大半が、10年以上にわたって人生への高い満足を保っていました。
「独身でいること」への満足は、世代で大きく割れた
一方で、人生全体への満足を除く3つの項目は、人によるばらつきがずっと大きいものでした。
ホーン氏も、性生活の満足や恋人がほしい気持ちは人によって大きく違ったと話します。
それでも、人生全体への満足は、時間がたってもとても安定していたというのです。
とくに分かれ方がはっきりしたのが、「独身でいること」そのものへの満足です。
若い世代では、約67%が独身でいることに高い満足を持ち続けていました。
ところが中間の世代と年上の世代では、人が3つのグループに分かれました。
独身でいることにとても満足しているグループは、中間の世代で約30%、年上の世代で約37%にとどまります。
いちばん多かったのは、中くらいの満足にとどまるグループでした。
そして、独身でいることへの満足が低いグループも、中間の世代で約12%、年上の世代で約18%いました。
グループどうしで違うのは主に出発点の高さで、11年間の変化は小さいものでした。
著者らは、こうした世代の違いについて2つの見方を示しています。
1つは、人生の目標が移り変わることです。
学業や仕事に打ち込む若い時期には独身が合いやすく、年を重ねるとパートナーを持つことに関心が向きやすいというのです。
もう1つは、絞り込みの影響です。年上の世代ほど多くの人がすでにパートナーを持っているため、独身のまま残るのは限られた人になります。
恋人がほしい気持ちも強さの違うグループに分かれ、それぞれの強さは11年間ほとんど変わりませんでした。
パートナーを最も強く求め続けたグループは、学歴がやや低めで、人に合わせて思いやる性格(協調性)が高い傾向がありました。
反対に、最も満足度の高い歩みをした人たちは、学歴が高く外向的で、フルタイムで働く人が多い傾向がありました。
もっとも、この研究にはいくつか注意点があります。
対象はドイツの人たちで、それぞれの満足度は1つの質問への回答で測られています。
また、11回の調査すべてで独身だった人だけを選んでいるので、調査の時点で恋人がいた人の歩みは含まれていません。ただし、調査と調査の合間に短く付き合った人は含まれています。
性格や収入と満足度の結びつきも、どちらが原因かまでは分かっていません。
なお著者らは、年上の世代の一部に見られた満足の落ち込みについて、一時的なものである可能性が高いとも見ています。
独身でいることへの満足は人生の半ばの手前で下がり、その後また上がるのが一般的だとする先行研究があるためです。
それでも、恋人がほしい気持ちや性生活の満足が人それぞれでも、人生全体への満足は多くの人で高いまま保たれていました。
独身の生き方に、誰にでも当てはまる1本の道筋があるわけではないのです。
1本の平均線では沈んで見えた独身の人たちも、歩み方ごとにグループに分けて見れば、およそ9割が、11年間を通して満足度が尺度の真ん中を上回り続けるグループに入っていました。
とはいえ、毎年のように「恋人はいますか」と聞かれ続けるのも、それはそれでなかなかの修行かもしれません。
写真で見るひとりの時間





参考文献
Most long-term singles stay satisfied with their lives over 11 years, study finds (PsyPost)
https://www.psypost.org/most-long-term-singles-stay-satisfied-with-their-lives-over-11-years-study-finds/
元論文
The Eras of Singlehood: 11-Year Longitudinal Trajectories of Never-Married Singles’ Well-Being Across Cohorts
https://doi.org/10.1177/01461672261475727
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部
