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「恐竜絶滅」の直後から続く系統の「巨大キノコ」の新種を発見


雨上がりの公園で、木の根元にぽつんと生えたキノコを見つけると、つい足を止めてしまいます。


中国南西部の雲南省の森で、木の根元から柱のように立ち上がる、白っぽい菌類が見つかりました。


菌類はどこまで大きくなれるのか。それは、そんなこれまでの理解を揺さぶる存在でした。


この菌は、いったいどれほど大きく、どんな一族に属していたのでしょうか。


研究の詳細は、中国・昆明植物研究所らにより、2026年9月29日付で学術誌『Frontiers in Fungal Biology』に掲載されました。




目次



  • 子嚢菌の子実体、背の高さの記録は20〜30cmほどだった
  • ひざ丈まで育つ菌は、どの一族に属していたのか
  • 約6500万年前に生まれたと推定される一族と、大きさの謎


この研究の概要


発表

菌類の学術誌「Frontiers in Fungal Biology」に、2026年9月に掲載されました。



研究チーム

中国科学院昆明植物研究所のインドゥニル・C・セナナヤケ准教授(責任著者)らのチームです。著者の所属には、雲南省の大学のほか、タイのチェンマイ大学やメキシコの研究機関も入っています。



調べた対象

雲南省の温帯の針葉樹林と熱帯雨林で、2024年8〜9月と2025年7月に採集された標本など5点です(うち1点は、培養した菌を乾かした標本です)。



調べ方

形をくわしく観察し、4つの遺伝子領域の配列とゲノムを比べて、ほかの菌との血縁を調べました。胞子の培養や、分子時計による枝分かれの年代の推定も行いました。



分かったこと

研究チームは、子嚢菌でこれまでに記録された中で最大の子実体と位置づけ、新しい種・属・科にあたるとしました。この科は約6500万年前に生まれたと推定され、ゲノムでは炭水化物を扱う酵素の遺伝子が、枯れ木を分解する代表的な仲間であるマメザヤタケ属の半分以下でした。



まだ分かっていないこと

これほど大きく育つ理由は、周りより高く伸びて胞子を風に乗せやすくするためではないかという仮説の段階です。一族が生まれた時期が大量絶滅の直後に重なることも、森の変化と結びつけた一つの可能性にとどまります。



子嚢菌の子実体、背の高さの記録は20〜30cmほどだった


菌類の中で最も種の多いグループは、子嚢菌(しのうきん)と呼ばれる仲間で、6万4000種を超えます。


子嚢菌は、シイタケのような本物のキノコを作りません。


代わりに「子実体(しじつたい)」と呼ばれる塊を作り、その表面や内側の小さな袋から胞子を放ちます。


顕微鏡で400倍に拡大した、ある子嚢菌の子実体と、その中の胞子です。D-rexとは別の種の子嚢菌です。
顕微鏡で400倍に拡大した、ある子嚢菌の子実体と、その中の胞子です。D-rexとは別の種の子嚢菌です。 / Credit: Eunice Laurent / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)

この子実体は、ふつうはそれほど大きくなりません。


たとえば、こん棒のような子実体を束になって出す菌がいますが、1本の高さは5〜8cmほどです。


これまでの子嚢菌の子実体で、背の高さの記録は20〜30cmほどでした。


重さで目立つ例外は、アフリカのケニアで記録された、竹に生える菌(エングレロミセス・ゲッツェイ)です。


この菌は、竹の茎の地上9〜12mほど、建物の3〜4階ほどの高さに丸い塊を作ります。


大きなものは直径約30cm、重さ約3.2kgに達し、子嚢菌で最もかさのある例の一つとされてきました。


中国の昆明植物研究所のチームは、雲南省の森で野外調査を行いました。


調べたのは、ダマイディとイーピンランに近い温帯の針葉樹林と、ナンバンに近い熱帯雨林です。


そこで見つかった子実体は白っぽく大きく、明らかに未知の子嚢菌のものでした。


それらは木の根から生え、根の周りの土から立ち上がっていました。種の基準となった標本は、中国のコルクガシと呼ばれる木の根に伴って見つかりました。


チームは子実体を持ち帰り、証拠となる標本を研究所に保管して、くわしい調査に取りかかりました。


ひざ丈まで育つ菌は、どの一族に属していたのか


持ち帰った子実体を測ると、全体の高さは20〜50cmありました。


50cmといえば、大人のひざに届くほどの高さです。


論文の要旨では、重いものは1本で2.2kgに達するとされ、2リットルのペットボトル1本より少し重いほどです。ただし本文の種の記載では、重さは250〜600gと書かれています。


ただし、この高さには土に埋まった部分も含まれています。


土の中には、黒くなめらかな柄が20〜30cmほど伸びています。


地上に出た部分は高さ10〜20cm、太さは7〜10cmほどで、15cmに達するものもあります。ここで胞子が作られます。


形は円柱やこま形、手のひらのような形までさまざまで、根元や先で枝分かれするものもあります。


表面は粉をふいたような繊維に覆われ、若いうちは白く、熟すにつれて濃い黄色に変わります。


新種の基準になったD-rexの標本です。子実体の全体の姿に加えて、表面を覆う黄色い粉の層、胞子の出口、縦に切った断面、胞子の入った袋と胞子を拡大した写真が並んでいます。全体の写真に添えられた目盛りの棒は、15cmにあたります。
新種の基準になったD-rexの標本です。子実体の全体の姿に加えて、表面を覆う黄色い粉の層、胞子の出口、縦に切った断面、胞子の入った袋と胞子を拡大した写真が並んでいます。全体の写真に添えられた目盛りの棒は、15cmにあたります。 / Credit: Song et al., Frontiers in Fungal Biology (2026)(CC BY 4.0)

研究チームは、これを子嚢菌でこれまでに記録された中で最大の子実体だと位置づけています。


重さだけなら竹に生えるケニアの菌の方が上です。背の高さは、土に埋まった柄を含む全体で最大50cmです。これまでの記録は20〜30cmとされますが、同じ測り方で比べた数字かどうかは、今回の発表からは分かりません。


では、この大きな菌は、どの仲間に属するのでしょうか。


チームは姿形をくわしく調べるとともに、4つの遺伝子領域の配列を比べて、菌どうしの家系図を描きました。


さらにゲノム(全遺伝情報)を読み、胞子を培地で育てて、その姿も観察しました。


D-rexのゲノムを組み立てた結果と、そこから分かるタンパク質の一式を評価した図です。
D-rexのゲノムを組み立てた結果と、そこから分かるタンパク質の一式を評価した図です。 / Credit: Song et al., Frontiers in Fungal Biology (2026)(CC BY 4.0)

培養した菌は、木の枝のように細かく枝分かれした柄の先に、小さな胞子をつけました。


D-rexを培養した様子と、そこでできた無性の胞子です。3種類の培地で1週間育てた菌を表と裏から写した写真と、90日たって胞子をつけた培養、胞子をつける柄や胞子を顕微鏡で見た写真が並んでいます。
D-rexを培養した様子と、そこでできた無性の胞子です。3種類の培地で1週間育てた菌を表と裏から写した写真と、90日たって胞子をつけた培養、胞子をつける柄や胞子を顕微鏡で見た写真が並んでいます。 / Credit: Song et al., Frontiers in Fungal Biology (2026)(CC BY 4.0)

その結果、この菌は新しい種であるだけでなく、新しい属、さらには新しい科にあたると分かりました。


「科」は、種や属を束ねる、より上の段のまとまりです。


新しい種は「ディアンジュヌス・レックス(Dianjunus rex)」と名付けられました。


属名は、今の雲南省のあたりにかつてあった「滇国(てんこく)」と、菌を意味する中国語「jūn」を合わせたものです。


種名のrexはラテン語で「王」を意味し、堂々とした大きさにちなみます。


略して「D-rex」とも呼ばれ、恐竜のT・レックスを思わせる響きです。


最も近い親戚は、北半球の枯れた広葉樹に生えるグラフォストローマ・プラティストーマなどを含む、グラフォストローマ科という科でした。


この科にはカミレア属やビスコグニアウキシア属など複数の属が含まれ、D-rexの科はその隣に並ぶ、別の枝にあたります。



つまりD-rexは、これまで知られたどの科にも入らない、独自の系統だったのです。


研究チームが推定した、菌の種どうしの家系図です。
研究チームが推定した、菌の種どうしの家系図です。 / Credit: Song et al., Frontiers in Fungal Biology (2026)(CC BY 4.0)

約6500万年前に生まれたと推定される一族と、大きさの謎


チームはさらに、この一族がいつ枝分かれしたのかを推定しました。


使ったのは「分子時計」という方法で、DNAに積み重なった違いの量から、分かれてからの時間を見積もります。


進化の年代が分かっている菌類のゲノムと比べ、時計の目盛りを合わせました。


その結果、D-rexの科が生まれたのは約6500万年前と推定されました。


これは、恐竜を絶滅させた白亜紀末の大量絶滅から、わずか100万年ほど後にあたります。


この大量絶滅では、動植物の種の推定75%が姿を消し、地球の生き物の顔ぶれが大きく入れ替わりました。


論文の責任著者で、昆明植物研究所のインドゥニル・C・セナナヤケ准教授は、この時期の重なりに注目しています。


大量絶滅の後、森は大きく変わり、枯れた植物が一気に大量に手に入るようになったといいます。


木に関わる分解者の菌にとって、その混乱が新しい暮らしの場を生んだかもしれない、というのが准教授の見方です。


ただしこれは時期の重なりから考えた一つの可能性で、確かめられた筋書きではありません。


ゲノムからは、炭水化物を扱う酵素の遺伝子がとても少ないという、意外な特徴も見つかりました。


マメザヤタケ属(枯れ木に生える、黒いこん棒のような子嚢菌の仲間)はこうした遺伝子を535〜635個もちますが、D-rexがもつ数はその半分以下でした。


朽ちかけた丸太に生えた、「キャンドルスティック・ファンガス(ろうそく立ての菌)」と呼ばれる菌です。本文に出てくるマメザヤタケ属の一種で、D-rexとは別の種です。
朽ちかけた丸太に生えた、「キャンドルスティック・ファンガス(ろうそく立ての菌)」と呼ばれる菌です。本文に出てくるマメザヤタケ属の一種で、D-rexとは別の種です。 / Credit: Dominicus Johannes Bergsma / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)

とくに、ペクチンを分解する酵素の一群「ペクチンリアーゼ(PL)」の遺伝子は、ほぼゼロでした。


近い仲間が7〜19個もつのに対し、D-rexは0〜1個で、ある株では1つも見つかりませんでした。


反対に、糖をほかの分子につなぐ酵素の遺伝子は、こうした酵素の遺伝子全体の約26%を占めていました。目立って高い割合です。


D-rexを含む「目(もく)」という、科より大きなグループは、植物の複雑な分子を分解する酵素を作ることで知られます。


研究を伝える発表では、D-rexもそうした酵素で枯れ木を消化しているかもしれない、と述べられています。


ところが遺伝子の数で見ると、その道具箱はかなり小ぶりだったことになります。


この偏りが暮らし方とどう結びつくのかは、今回の発表では示されていません。


では、なぜD-rexはこれほど大きくなるのでしょうか。


セナナヤケ准教授は、周りの草や落ち葉より高く伸びれば、茂った森でも胞子を風に乗せやすいのではないかと考えています。


一方で、これほど大きな体を作るには、多くのエネルギーが要ります。


そのため准教授は、利点が負担を上回る環境でだけ、この戦略が進化したのだろうと推測しています。


どちらも仮説の段階で、大きさの理由が確かめられたわけではありません。


研究チームは、東アジアの森には、まだ調べられていない菌類の多様性が眠っているとしています。


そして、中国の亜熱帯の森から、さらに多くの発見があるだろうと予想しています。


雲南の森では、約6500万年前に生まれたと推定される一族の「王」が、黒い柄を土に下ろし、地上には高さ10〜20cmほどの、胞子を作る部分を伸ばしていたのです。


次に森でキノコを見かけたら、王様が隠れていないか、根元の土までのぞいてみたくなるかも。


ここからは、子嚢菌をもっと知りたい人へ


子嚢菌とは、担子菌と並ぶ菌類の大きな仲間です


「デッドマンズ・フィンガー(死人の指)」と呼ばれる菌です(ドイツ・ウルム)。解説で触れた、何か月も胞子を放ち続けることがある子嚢菌は、この菌です。D-rexとは別の種です。
「デッドマンズ・フィンガー(死人の指)」と呼ばれる菌です(ドイツ・ウルム)。解説で触れた、何か月も胞子を放ち続けることがある子嚢菌は、この菌です。D-rexとは別の種です。 / Credit: Holger Krisp / Wikimedia Commons(CC BY 3.0)

子嚢菌は菌類の仲間で、担子菌とともに、菌類の中の一つの大きなまとまりをつくっています。


この仲間には、枯れ木を腐らせて暮らす菌もいます。


木を腐らせる子嚢菌の多くが起こすのは、「軟腐朽(なんふきゅう)」と呼ばれる腐り方です。


胞子の放ち方にも特徴があり、枯れ木に生える子嚢菌の一種では、一つの子実体が何か月も、ときには何年にもわたって胞子を放ち続けることがあります。


写真で見る、木に生える菌の仲間


地面から伸びた、「デッドマンズ・フィンガー(死人の指)」と呼ばれる菌です(ドイツ・ハノーファー近郊の動物公園)。本文に出てくるマメザヤタケ属の一種で、D-rexとは別の種です。この菌は、腐った切り株の根元から、死人の指のように地面を突き抜けて生えてきます。
デッドマンズ・フィンガーと呼ばれる菌です。D-rexとは別の種です。この菌の名前には「さまざまな形」という意味があり、指が1本ずつ離れて生えることも、くっついて手のような形になることもあります。
デッドマンズ・フィンガーと呼ばれる菌です。D-rexとは別の種です。この名前で呼ばれる菌には、見た目ではまだ見分けにくい近い種がまとまっていて、5〜10種ほどが隠れているかもしれないとされます。
デッドマンズ・フィンガーと呼ばれる菌です。D-rexとは別の種です。こうした菌は黒い色のため森の中では見落とされやすいものの、実際にはよく見られるといいます。
浸食で土がむき出しになった場所に生えた、キャンドルスティック・ファンガスと呼ばれる菌です(ヴァル・シネストラ)。D-rexとは別の種です。
コケの間から伸びた、「スタッグホーン(シカの角)」や「キャンドルスナッフ(ろうそく消し)」とも呼ばれる菌です(ドイツ・ヘッセン州)。D-rexとは別の種です。同じ仲間のデッドマンズ・フィンガーでも、春に表面が白い胞子の層に覆われることがあり、その時期は「キャンドルスナッフ」の段階と呼ばれます。
キャンドルスティック・ファンガスと呼ばれる菌です。D-rexとは別の種です。
キング・アルフレッドのケーキと呼ばれる菌です。D-rexとは別の種です。
キング・アルフレッドのケーキと呼ばれる菌です。D-rexとは別の種です。「カーボン・ボール(炭の玉)」という呼び名もあります。
「キング・アルフレッドのケーキ」や「クランプ・ボール」と呼ばれる菌です(イギリス・エンフィールドのフォーティ・ホール公園)。D-rexとは別の種です。木に生える菌の一つで、マメザヤタケ属と同じく、胞子をつくるとっくり形の小さな部屋をもつグループに数えられてきました。
朽ちかけた丸太から伸びた、キャンドルスティック・ファンガスです。D-rexとは別の種です。この菌の仲間の名前には、もともと「木に生える」という意味が込められています。
キング・アルフレッドのケーキと呼ばれる菌です。D-rexとは別の種です。
キング・アルフレッドのケーキと呼ばれる菌です。D-rexとは別の種です。
デッドマンズ・フィンガーと呼ばれる子嚢菌です。D-rexとは別の種です。この菌は、切ると中が白く、そのまわりに黒い点が並んでいます。黒い点の一つ一つは、胞子をつくるとっくり形の小さな部屋です。

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参考文献

Scientists discover 'D-rex', a giant fungus from Chinese forests whose unique lineage dates back 65 million years (Phys.org)
https://phys.org/news/2026-10-scientists-d-rex-giant-fungus.html

Tom Volk「Fungus of the Month: Xylaria polymorpha」(ウィスコンシン大学)
https://botit.botany.wisc.edu/toms_fungi/apr2000.html

元論文

Unearthing a fungal giant: Dianjunaceae fam. nov., a novel Paleocene lineage of Xylariales harboring Dianjunus rex gen. et sp. nov
https://doi.org/10.3389/ffunb.2026.1940464

ライター

山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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