今から約7300万〜6700万年前、現在のカナダ・アルバータ州で食物連鎖の頂点に立っていたのが、ティラノサウルスの親戚にあたる肉食恐竜「アルバートサウルス」です。
ところが、そんな頂点捕食者の若い個体の化石に、何者かがかじった歯形が残されていました。
あの恐ろしい肉食恐竜の骨に歯を立てたのは、いったい誰だったのでしょうか。
カナダ・アルバータ大学らにより、この歯形の主を突き止めようとする研究が報告されました。
研究の詳細は、カナダ・アルバータ大学らにより、2026年10月7日付で学術誌『Journal of Paleontology』に掲載されました。
目次
- 若きアルバートサウルスのあごに残された「2組の歯形」
- 頂点捕食者のあごをかじった「意外な犯人」とは?
若きアルバートサウルスのあごに残された「2組の歯形」

アルバートサウルスは「アルバータのトカゲ」という意味の名前で、アルバータが州になった1905年に名付けられました。
今回の化石は2022年に一般の人が見つけて届け出たもので、頭の骨のかけらがバラバラに散らばった状態でした。
化石を掘り出して整えたロイヤル・ティレル博物館の技術者たちが、歯形らしき跡に気づき、詳しく調べるためにアルバータ大学へ送りました。
この化石は、同じ1体のものと分かるアルバートサウルスの頭の骨としては、これまでで最も小さいものです。
一緒に見つかった手足の骨の内部の組織を調べると、この個体は死んだとき少なくとも8歳だったことも分かりました。
体長は約6メートル、体重は約530キロと見積もられており、大人になりきる前の、いわば「10代」の若者です。
問題の歯形は、この若者の下あごに2組残っていました。
そして重要なのは、どちらの歯形にも骨が治った跡がまったく見られなかったことです。
このことから、歯形はこの個体が死んだ頃か、死んだあとに付けられた可能性が高いと考えられます。
つまり歯形は、何者かが死の前後か死後にこの頂点捕食者の体を食べた、あるいは死がいをあさった跡だと考えられるのです。
犯人の手がかりは、骨に刻まれた歯形の「間隔」に隠されていました。
頂点捕食者のあごをかじった「意外な犯人」とは?

研究チームはまず、歯形どうしの間隔と、歯のふちにある細かなギザギザが骨に付けた筋の間隔を測りました。
この間隔を、当時のアルバータにいたことが分かっている恐竜たちの歯と照らし合わせれば、どの恐竜の歯が跡を付けたのかをしぼり込めるからです。
さらにチームは、歯形の傾き(角度)を計算に入れて、間隔をより正確に見積もる新しい方法も使いました。
研究を行った大学院生(修士課程)のジョシュア・ドイオン氏は、学部生のころからこの歯形を調べ、候補となる恐竜を一つずつ消していきました。
その結果、歯形と最もよく一致したのは、ドロマエオサウルス類の歯でした。
ドロマエオサウルス類は、映画『ジュラシック・パーク』で有名になった「ラプトル」のなかまで、小型の肉食恐竜のグループです。
つまり、体の小さなラプトルが、ティラノサウルスのなかまである頂点捕食者を食べていた可能性が高いのです。
ラプトルがティラノサウルス類を食べたり、その死がいをあさったりしていた証拠は、これが初めての記録だといいます。
ただし歯形から分かるのは食べたことまでで、研究チームは、この若者が原因不明のまま死に、その後まもなくラプトルの食事になったという筋書きが最もありそうだと見ています。
ドイオン氏の指導教員で、アルバータ大学の古生物学者フィリップ・カリー氏は「とても小さな恐竜が、ティラノサウルスのような大きくて恐ろしい恐竜を食べていたのですから、これは常識をひっくり返すものです」と話しています。
一方で、歯形の間隔から考えられる犯人は、実はもう1種類だけ残っていました。
それは、アルバートサウルスの赤ちゃんです。
もしそうなら、体長約2メートルの赤ちゃんが、自分よりずっと大きな約6メートルの若者を食べたという「共食い」の出来事になります。
ドイオン氏は、こちらの可能性は低いとしながらも、劇的さではラプトル説に負けていないと話しています。
研究チームは、ラプトルと若いティラノサウルス類が、お互いを襲ったり死がいをあさったりし合う関係にあった可能性が高いと考えています。
恐竜たちの食物連鎖は、「大きいものが小さいものを食べる」だけの一方通行ではなく、これまで考えられていたより複雑だったようです。
博物館で見上げる巨大な肉食恐竜の骨格も、命が尽きたあとは、足元を走り回っていた小さなラプトルの食卓になっていたのかもしれません。
参考文献
Fossil bite marks suggest first evidence of a small raptor feeding on an apex predator (Phys.org)
https://phys.org/news/2026-10-fossil-evidence-small-raptor-apex.html
元論文
Evidence for dromaeosaurid scavenging on Albertosaurus (Dinosauria: Tyrannosauridae)
https://doi.org/10.1017/jpa.2026.10269
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部
