雷が光った瞬間に「今の見た?」と振り向いても、隣の人はたいてい見逃しているものです。
宇宙にも、そんな「撮り逃し」の常連のような現象があります。
1000分の1秒単位で消えてしまう電波の閃光、「高速電波バースト(FRB)」です。
これまでに何千件も見つかっていますが、あまりに一瞬なので詳しく調べるのが難しく、どこで何が起こしているのかは今もはっきりしていません。
この一瞬の電波は、いったいどれほど遠くから届いているのでしょうか。
そんな中、豪シドニー大学らの研究チームが、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を使って、ある1つの閃光の「ふるさと」となる銀河を突き止めました。
この話題の詳細は2026年10月8日に『Live Science』にて公開されました。
目次
- 一瞬で消える電波「FRB」と、何も見えなかった夜空の一点
- 空っぽの空に隠れていた銀河は、どれほど遠くにあったのか?
- 星を猛烈に生む若い銀河が示した、閃光の「生みの親」の手がかり
一瞬で消える電波「FRB」と、何も見えなかった夜空の一点

高速電波バーストは、ミリ秒ほどしか続かないのに、その一瞬で太陽が1年かけて放つ量の何倍ものエネルギーを出す電波の爆発です。
しかもふつうは一度光ったきりで終わるため、待ち構えて観測するのがとても難しい相手です。
その正体の有力な候補とされているのが、超新星爆発で生まれる中性子星(重い星が燃え尽きたあとに残る、ごく小さく高密度な星)の一種で、知られている中で最強の磁場をもつ「マグネター」です。
一方でこの閃光は、天文学者にとって便利な「はかり」にもなります。
地球に届くまでに銀河の中や銀河と銀河のあいだに漂うガスを通り抜けるので、信号がどれだけ遅れたかを測れば、途中にあるガスの量を見積もれるのです。
今回の閃光「FRB 20240304B」を最初にとらえたのは、南アフリカにある64台の電波望遠鏡の集まり「ミーアキャット(MeerKAT)」でした。
ミーアキャットは閃光を見つけただけでなく、それが空のどの一点から来たのかも、かなり正確に割り出しました。
ところが、地上の強力な望遠鏡でその場所をのぞいても、研究チームによれば「ほとんど何も見えず、空っぽの空のようだった」といいます。
そこでチームが頼ったのが、宇宙に浮かぶジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)でした。
空っぽの空に隠れていた銀河は、どれほど遠くにあったのか?

研究チームは、電波の信号のばらつき(分散)が大きいことから、この閃光がかなり遠くから来たことには気づいていました。
そこで、急ぎの観測のための特別な枠を使ってウェッブ望遠鏡の観測時間を確保し、まず近赤外線カメラで電波の出どころをとても深く写し込みました。
「すると突然、そこにあったのです。FRBのふるさとがあるはずだと思っていた、ほぼその場所に、とても暗い銀河が」と、シドニー天文学研究所のテミヤ・ナナヤッカラ氏は振り返ります。
地上の望遠鏡で何も見えなかったのは、銀河が暗すぎて写らなかったからだと考えられています。
次にチームは、近赤外線分光器で銀河の光を波長ごとに分け、水素と酸素が出す光の「しるし」を見つけました。
これらのしるしは、実験室でどの波長に現れるかが分かっている、いわば光の「指紋」です。
宇宙の膨張によって光の波長は引き伸ばされるため、指紋がどれだけずれたかを測れば、その銀河がどれほど遠いかが分かります。
その結果、ずれの大きさを表す「赤方偏移」は約2.15と、とても正確に求まりました。
つまり私たちが見ているのは、宇宙の誕生から約30億年、今の年齢の約5分の1だった頃の、この銀河の姿だということです。
距離にすると100億光年以上先で、これまでに見つかった中で最も遠い高速電波バーストとなりました。
しかもそれまでの最遠記録の2倍以上という、記録を一気に塗り替える遠さです。
星を猛烈に生む若い銀河が示した、閃光の「生みの親」の手がかり

ウェッブ望遠鏡が明らかにしたのは、距離だけではありません。
見つかった銀河は思っていたより小さく、水素とヘリウム以外の元素が少ない「金属の乏しい」銀河で、しかも星を猛烈なペースで生み出している最中でした。
研究チームのローラ・ドリーセン氏は、この特徴が「FRBが生まれる環境について重要な手がかりになる」と話しています。
ここで効いてくるのが、正体の有力候補であるマグネターです。
マグネターの生まれ方には、古い中性子星どうしがぶつかって合体する道と、星がさかんに生まれている環境で誕生する道という、2つの説があります。
今回のふるさとは、まさに星が爆発的に生まれている若い銀河だったため、後者の説を後押しする形になりました。
チームはこれを、少なくとも一部の高速電波バーストはマグネターから生まれている、という考えを支持する結果だとしています。
ただし、今回の閃光がマグネターから出たと確かめられたわけではなく、「関係していた可能性がある」という段階です。
研究を率いたマニシャ・ケイレブ氏は「宇宙がまだ約30億歳だった頃の閃光をとらえ、その短い光を使って、何十億年もかけて通り抜けてきた物質について知ることができました」と語ります。
チームのカビヤ・シャジ氏も「原理的には、十分に強い閃光なら、ごく初期の宇宙からでも検出できるはずだ」と述べています。
地上の電波望遠鏡が閃光を見つけて場所を絞り込み、ウェッブ望遠鏡でそのふるさとの銀河までたどるという連携が、うまく働くことも今回示されました。
チームは今後もこの方法で閃光探しを続ける予定で、ナナヤッカラ氏は「2種類の望遠鏡を組み合わせたら何が見つかるのか、本当に見当もつかない」と期待を語っています。
南アフリカの電波望遠鏡がとらえた、まばたきよりずっと短い一瞬の電波は、地上の望遠鏡には空っぽに見えた夜空の一点で、宇宙がまだ今の5分の1の歳だった頃の小さな銀河から旅立っていたのです。
これからは夜空の何もない暗がりを見上げるたびに、その奥で静かに光る小さな銀河を想像してしまいそうです。
それにしても、気の遠くなるような長旅を経て届いた便りが一瞬で読み終わってしまうとは、送り主も少し物足りない気分かもしれません。
参考文献
James Webb telescope pinpoints the most distant 'fast radio burst' ever seen (Live Science)
https://www.livescience.com/space/astronomy/james-webb-telescope-pinpoints-the-most-distant-fast-radio-burst-ever-seen-more-than-doubling-the-previous-record
Space.com (Space.com)
https://www.space.com/astronomy/galaxies/james-webb-space-telescope-helps-detect-the-most-distant-fast-radio-burst-ever-seen-and-scientists-are-surprised-by-its-source
ライター
天道銀河: 科学、歴史、心理、宇宙、生き物、テクノロジーなど、気になるものにはジャンルを問わず首を突っ込む雑食系ライターです。ひとつの分野を深く極めるというより、さまざまな知識を広く集め、意外なつながりを見つけるのが好きです。専門家ほど深くはなくても、好奇心の広さなら負けません。「こんな世界もあるのか」と思えるような、面白くてわかりやすい話題を届けていきます。
編集者
ナゾロジー 編集部
