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チェルノブイリの核燃料の粒、40年後も想定より安定していたと判明


引き出しの奥から何年も前のお菓子の缶が出てきて、中身が無事かどうか恐る恐るふたを開けることがあります。


1986年のチェルノブイリ原発事故では、爆発によって原子炉の中身が大量に吹き飛ばされました。


その一部は、核燃料のかけらがごく小さな粒となって周りの土に散らばったもので、40年近くたった今も強い放射線を出し続けています。


ところが、この粒の中身が長い年月の間にどう変わったのかは、これまでよく分かっていませんでした。


飛び散った核燃料の粒は、40年の間に崩れてしまったのでしょうか、それとも元の姿を保っているのでしょうか。


独ライプニッツ大学ハノーファーなどの研究チームが、この粒の内部を詳しく調べ、その成果を学術誌に発表しています。


研究の詳細は、独ライプニッツ大学ハノーファーらにより、2026年2月18日付で学術誌『Journal of Hazardous Materials』に掲載されました。




目次



  • 原発事故で飛び散った「ホットパーティクル」とは?
  • 40年たった核燃料の粒、その中身はどうなっていた?
  • 崩れにくい核燃料の粒が持つ意味と、残る謎

原発事故で飛び散った「ホットパーティクル」とは?


原発事故で飛び散った「ホットパーティクル」とは?
原発事故で飛び散った「ホットパーティクル」とは? / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

事故で舞い上がった放射性のちりは、今も「チェルノブイリ」の一帯の土を汚しています。


その大きさはわずか8〜50マイクロメートル(1マイクロメートルは1000分の1ミリ)しかありませんが、今でも人がその地域に入るには防護服が欠かせません。


こうした粒は「ホットパーティクル」と呼ばれ、ライプニッツ大学ハノーファーの物理学者トビアス・ヴァイセンボルン氏によると、3つの種類があります。


1つ目は、元の核燃料である二酸化ウランと、化学的にも物理的にもよく似たままの粒です。


2つ目は、原子炉の温度が急に跳ね上がって燃料が溶け、周りを包んでいたジルコニウムという丈夫な金属の層に覆われたり、溶け合ったりした粒です。


3つ目は、中性子の勢いを落とす役目の黒鉛(減速材)に火がつき、10日間燃え続けた間に、燃料が酸素と結びついてできた粒です。


このときできるウラン酸化物の一つ「U₃O₈」はもろく、すぐに細かなちりになって風に運ばれ、吸い込むと健康に深刻な害を及ぼすおそれがあります。


しかも、粒が環境の中で崩れていく速さは粒ごとに違い、その理由はまだほとんど分かっていません。


中にどんな結晶の形が残っているかを調べれば、粒が放射性物質を外へ出す速さを見積もる手がかりになります。


ところが、こうした粒の結晶の形を調べた分析は、これまで1本も発表されていませんでした。


そこで研究チームは、6つの粒を取り出し、その内部を強いX線で調べることにしました。


40年たった核燃料の粒、その中身はどうなっていた?


40年たった核燃料の粒、その中身はどうなっていた?
40年たった核燃料の粒、その中身はどうなっていた? / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

まずヴァイセンボルン氏らは、ウクライナの土のサンプルからさまざまな方法で粒を取り出し、タングステンの電極に取り付けました。


粒は何重もの封じ込めの層で守られたうえで、グルノーブルにある実験施設「ロッセンドルフ・ビームライン」へ送られました。


そこで独ヘルムホルツ・ドレスデン・ロッセンドルフ研究所(HZDR)の結晶学者クリストフ・ヘニッヒ博士らが、粒にX線を当てて調べました。


使ったのは「シンクロトロン」という装置で作る非常に強いX線です。物質の内部の構造に当たったX線がどう曲がるかを見ると、中の結晶の形が分かります。


ヘニッヒ博士は「まず、粒の構造をどう調べるかを考え出さなければなりませんでした」と振り返ります。


最終的にチームは、髪の毛ほどの太さである100マイクロメートルまで絞ったX線の中で粒を丸ごと回転させ、1つの粒を2000通りの角度から測りました。


こうしてX線が跳ね返る向きを漏れなくとらえ、粒の中にどの結晶の形が残っているかを突き止めたのです。


その結果、粒の中からは二酸化ウラン(UO₂)、U₃O₈、U₄O₉、そしてジルコニウムが混ざった形の結晶が見つかりました。


中でも注目すべきは、元の核燃料である二酸化ウランと、U₄O₉という酸化物が、ほとんど崩れずに残っていたことです。


つまり、事故で飛び散った核燃料の結晶の骨組みは、40年近くたった今も大部分が保たれていたのです。


研究チームによると、これは事故の残骸が、もともと考えられていたより化学的にずっと安定していることを意味します。


崩れにくい核燃料の粒が持つ意味と、残る謎


崩れにくい核燃料の粒が持つ意味と、残る謎
崩れにくい核燃料の粒が持つ意味と、残る謎 / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

論文では、こうした結晶の骨組みが、核分裂でできた物質やウランの仲間の重い元素を中に閉じ込める「器」として、この先しばらく働き続ける可能性が高いと述べています。


粒が崩れにくければ、その分、中の放射性物質も外へ漏れ出しにくいと考えられます。


研究チームは、この成果がこうした粒による健康へのリスクを、より正確に見積もることにつながる可能性があるとしています。


ただし、今回調べたのは6つの粒に限られます。


論文でも、今回の結果を今後の研究の土台と位置づけています。ウラン酸化物の骨組みが、土やアスファルトの中に長くさらされた後もどこまで形を保っているのかを、さらに調べていくための出発点だというわけです。


また、なぜ粒によって崩れる速さが違うのかも、まだはっきりしていません。


それでも今回の結果は、原発事故の跡地で汚染がどう広がるかを予測するモデルや、放射性廃棄物の扱い方を考えるうえで役立つと期待されています。


以前ナゾロジーではこういう記事も紹介しています(チェルノブイリ原発事故から35年。被災者の子に放射能の影響は遺伝しないことが判明)


もちろん、粒が安定しているからといって、今も強い放射線を出していることに変わりはありません。


以前ナゾロジーではこういう記事も紹介しています(チェルノブイリ原発跡から発見された「放射線を食べる菌」が、放射線シールドとして人類を守るかもしれない)


事故の跡に残る小さな粒は、危険をまき散らすだけのかけらではなく、40年近くたっても結晶の骨組みの大部分を保っていた、意外にしぶとい存在だったのです。


危ないものの「中身」を正しく知ることが、恐れすぎず、侮りすぎずに付き合うための第一歩なのかもしれません。


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参考文献

Chernobyl particles reveal unexpectedly stable nuclear fuel after 40 years (Phys.org)
https://phys.org/news/2026-10-chernobyl-particles-reveal-unexpectedly-stable.html

元論文

X-ray diffraction phase analysis of single hot particles from Chornobyl
https://doi.org/10.1016/j.jhazmat.2026.141533

ライター

天道銀河: 科学、歴史、心理、宇宙、生き物、テクノロジーなど、気になるものにはジャンルを問わず首を突っ込む雑食系ライターです。ひとつの分野を深く極めるというより、さまざまな知識を広く集め、意外なつながりを見つけるのが好きです。専門家ほど深くはなくても、好奇心の広さなら負けません。「こんな世界もあるのか」と思えるような、面白くてわかりやすい話題を届けていきます。

編集者

ナゾロジー 編集部

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