朝のトイレがすっきり終わると、それだけで一日がうまくいきそうな気分になるものです。
いま海外のSNSでは、食物繊維をたっぷりとって快調なお通じを目指す「うんちマックス」、上品に言えば「食物繊維マックス」という流行が広がっています。
専門家によると、特別な症状がない限り便にこだわりすぎる必要はないものの、この流行には一理あるそうです。
では、腸に住む細菌たちは、私たちの体を何年も先まで左右するほどの力を持っているのでしょうか。
その手がかりは、肥満の若者に健康な腸内細菌を詰めたカプセルを飲んでもらった臨床試験の、4年後の追跡調査にありました。
研究の詳細は、ニュージーランドのオークランド大学らにより、2025年8月28日付で学術誌『Nature Communications』に掲載されました。
目次
- 「腸は健康の窓」と言われるワケ
- 便移植を受けた若者は、4年後どうなっていたのか?
- 腸内細菌を育てるには?理想の便は「ピーナッツバター」の硬さ
「腸は健康の窓」と言われるワケ

「目は心の窓」と言いますが、腸は健康の窓ともいえます。
便には、栄養のバランスや代謝(体がエネルギーを作り、使う働き)、さらには病気の兆しまで、多くの情報が詰まっているからです。
米インディアナ大学の微生物学者ビル・サリバン氏は、うんちマックスと食物繊維マックスを、比較的まっとうな健康ブームだと評価しています。
食物繊維を推奨される量まで増やせば、体にも心にも多くの良い効果があるという、しっかりした根拠があるからです。
推奨量は年齢や性別で変わりますが、米国農務省はこれまで大人で1日22〜34グラムを目安としており、それを超えてまでとる必要はないそうです。
腸の中には何兆もの細菌やカビの仲間、ウイルスがすみつき、体と心の健康を支えています。
たとえば細菌は、ビタミンや、炎症を強くしずめる短鎖脂肪酸(細菌が作る脂肪酸の一種)、食欲の調整を助けるセロトニンという物質を作り出しています。
さらに腸には少なくとも1億個の神経細胞があり、気分にも関わっているとみられることから「第二の脳」とも呼ばれます。
とはいえ、腸内細菌が全身の健康にどう影響しているのかは、まだはっきりとは分かっていません。
腸が健康をどう左右するかを知る方法の一つが、便に含まれる腸内細菌を別の人の腸に届ける「便移植」の臨床試験です。
ニュージーランドのオークランド大学のジャスティン・オサリバン教授らは、肥満の10代に、健康な腸内細菌を詰めたカプセルを飲んでもらう試験を行いました。
はたして4年後、2つの組の若者たちの体にはどんな違いが見られたのでしょうか。
便移植を受けた若者は、4年後どうなっていたのか?

もとの試験では、肥満の若者を本物のカプセルの組と偽薬(効き目のある成分を含まないにせの薬)の組にくじで分け、本人も研究者もどちらの組か分からないようにしていました。
今回はその約4年後に、もとの参加者87人のうち55人(63%)が再び集まり、研究チームが便移植組27人と偽薬組28人の体を調べました。
このとき参加者の年齢は、真ん中の値で21.8歳になっていました。
まず、太り具合の目安となるBMI(体重と身長から出す体格の指標)は、便移植組のほうが低めの傾向でしたが、はっきりした差とまでは言えませんでした。
ところが、体の中身に目を向けると違いが表れていました。
便移植組は偽薬組に比べて、おなか周りが平均10.0センチ細く、全身の体脂肪も4.8%少なかったのです。
心臓や血管の病気のリスクの目安となる「メタボリックシンドロームの重さ」を表す点数も、便移植組のほうが良い状態でした。
偽薬組ではこの点数が、時間とともに上がり続けていました。
また、体全体の炎症の目印となる物質(hs-CRP)は、偽薬組のほうが68%高い値でした。
便移植組では、血液中のHDLコレステロール(いわゆる善玉コレステロール)の値も高めでした(0.16mmol/L高い)。
一方で、血糖に関わる値やほかの脂質の値には、2つの組で差が見られませんでした。
肥満やメタボリックシンドロームにあてはまる人の割合も、組による差は見られませんでした。
研究チームによると、4年後の時点で、食べ物ごとの摂取量や食事全体の質の点数に2つの組で差は見られず、運動量にも追跡期間を通して差は見られませんでした。
代謝に影響する薬を飲んでいた3人を除いて計算し直しても、主な結果は変わりませんでした。
腸の中を調べると、便移植組の腸には平均で13種類多くの微生物がすんでいました。
しかも、便を提供した人(ドナー)に由来する細菌やウイルスの一部が、4年たっても腸に住みついていたのです。
ただしこの追跡調査は、どちらの組だったかを伏せないまま行われ、もとの参加者の6割ほどしか戻ってきていません。
研究チームは、さらに調べる必要があるとしています。
腸内細菌を育てるには?理想の便は「ピーナッツバター」の硬さ

もちろん、便移植はSNSで流行る食物繊維マックスとは別ものです。
それでも、腸に住む細菌が何年も体に関わりうることをうかがわせる結果といえるでしょう。
サリバン氏によれば、食物繊維の多い本物の食べ物を食べ、十分に体を動かし、よく眠り、できる範囲でストレスを減らすことが、健康な腸内細菌を育てることにつながるといいます。
おすすめは「虹色を食べる」こと、つまり舌が許す限りいろいろな食べ物をとることだそうです。
食物繊維には水に溶けるものと溶けないものがあり、溶けるものは腸を守るぬるぬるした壁を作り、溶けないものはお通じを整えて痔を防ぐのに役立ちます。
ただし、一度に食物繊維をとりすぎるとおなかの痛みや下痢を招くため、少しずつ増やすのがよいそうです。
便の形も目安になり、カチカチでひび割れた便や小さなコロコロの便は便秘のサインかもしれず、水のような便も望ましくありません。
オサリバン氏によると、ちょうど良いのは「ピーナッツバターくらい」の硬さだといいます。
色や形が多少変わるのは普通ですが、便器に血が見えたら医療機関にかかるべきだと、サリバン氏は強調しています。
毎回の便を見張る必要はありませんが、便器の中身は、腸に住む小さな同居人たちからのささやかな近況報告なのかもしれません。
今日からはトイレを流す前に、腸の同居人たちへ「今日もお疲れさま」とひと声かけてみるのもいいかもしれません。
参考文献
Should you be ‘poop maxxing,’ or ‘fiber maxxing’? Experts explain what’s healthy (Scientific American)
https://www.scientificamerican.com/article/should-you-be-poop-maxxing-or-fiber-maxxing-experts-explain-whats-healthy/
元論文
Long-term health outcomes in adolescents with obesity treated with faecal microbiota transplantation: 4-year follow-up
https://doi.org/10.1038/s41467-025-62752-4
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部
