親戚の集まりで久しぶりに会った中学生の甥っ子が、去年よりぐっと大人びた話し方をしていて驚くことがあります。
10代は、背が伸びるのと同じように、覚えたり素早く判断したりする「考える力」もぐんと伸びていく時期です。
この時期の脳はつくりも働きも大きく変わるため、外から入る化学物質の影響を特に受けやすいと考えられています。
では、10代のうちに大麻を使い始めると、この「考える力」の伸び方に何か違いは出るのでしょうか。
米カリフォルニア大学サンディエゴ校などの研究チームは、全米で追跡されている約1万1000人の子どもの、9歳から17歳までのデータをもとに、この点を調べました。
研究の詳細は、米カリフォルニア大学サンディエゴ校らにより、2026年4月20日付で学術誌『Neuropsychopharmacology』に掲載されました。
目次
- 1万人の子どもの大麻使用を、髪や尿の検査も使って見分ける
- 大麻を使い始めた子の「考える力」は、どう伸びていったのか?
- THCとCBD、伸びの違いに関わっていたのはどちらの成分か?
1万人の子どもの大麻使用を、髪や尿の検査も使って見分ける

研究チームが使ったのは、全米の子どもの脳と行動の発達を長く追いかける「ABCD研究」という大きなプロジェクトのデータです。
子どもたちは9〜10歳のときに全米21か所で研究に加わり、研究チームは今回、9〜17歳の最大1万1036人を分析しました。
ここで工夫されたのが、大麻を使ったかどうかの見分け方です。
以前ナゾロジーではこういう記事も紹介しています(大麻をほぼ毎日使う重いてんかん患者は「発作が2倍」だった)
若い大人を対象にした2023年の別の研究では、本人の申告だけに頼ると、髪の検査に比べて、多くの違法薬物で使っている人の割合を30〜60%少なく見積もっていました。
そこでチームは、毎年の聞き取りに加えて、髪・尿・息・唾液の検査結果も組み合わせました。
大麻を使った子のうち自己申告で見つかったのは67%で、髪や尿の検査は本人が答えていない使用まで拾っていました。
本人の申告では一口吸った・味見した程度を超える使用が、検査では大麻の陽性反応が初めて分かった時点から、その子は以後ずっと「使った人」として数えられました。
こうして全体のうち約2200人が大麻を使ったことがあり、約9700人は使っていないと判定されました。
大麻を使い始めた子の「考える力」は、どう伸びていったのか?

子どもたちは2年ごとにテストを受けました。たとえば、動物や食べ物の名前を頭の中で大きさ順に並べかえる「作業記憶(情報を一時的に覚えながら使う力)」や、逆向きの矢印に惑わされずに矢印の向きを素早く答える「抑制(衝動的な反応を抑える力)」などです。
ほかにも、絵の順番を覚えて並べ直す「エピソード記憶(出来事を思い出す力)」や、言葉の力、処理の速さ、空間をとらえる力が測られました。
分析では、親の学歴や家族の薬物問題、お腹の中にいた頃にお酒や薬物にさらされた状況、お酒やニコチンの使用など、結果をゆがめうる多くの条件の影響を差し引いています。
では、大麻を使い始めた子どもたちの「考える力」は、どのように変わっていたのでしょうか。
まず目を引くのは、9〜11歳の時点では、のちに大麻を使うことになる子のほうが、多くのテストで周りより少し高い点を取っていたことです。
ところが、10代を進むにつれて、この関係は逆転していきました。
使っていない子が年相応に着実に点を伸ばしたのに対し、大麻を使い始めた子の伸びは平らに近いカーブを描いていたのです。
ほとんどのテストで点そのものは上がっていましたが、その上がり方がゆっくりだったということです。
そして15〜17歳になる頃には、大麻を使った子は、処理の速さや言葉を思い出す力、空間をとらえる力など、測ったほぼすべての分野で使っていない子を下回っていました。
研究者たちは、こうした差の多くは小さいものだとしています。
ただし、エピソード記憶では中くらい、作業記憶では大きな差が見られました。
研究者たちは、小さな差であっても、学校での勉強や車の運転といった実際の暮らしでは意味を持ちうると指摘しています。
THCとCBD、伸びの違いに関わっていたのはどちらの成分か?

チームはさらに、大麻のどの成分が関わっているのかも調べました。
大麻には120種類以上の成分が含まれていますが、よく調べられているのは「THC」と「CBD」の2つです。
THCは大麻を使ったときに「ハイ」な状態を生む主な成分で、CBDは酔ったような状態を起こさず、体によいと期待されて使われることもある成分です。
最近は日本でも沢山のCBD商品が販売されていますよね。
大人の研究の一部では、CBDがTHCによる考える力への影響を和らげるかもしれないとされていますが、結果はまちまちで、10代への影響はほとんど分かっていません。
そこでチームは、12〜16歳のあいだに髪の検査を繰り返し受けた645人を、髪から成分が出なかった子、THCだけが出た子(81人)、CBDが出た子(21人、うち13人はTHCも検出)に分けて比べました。
髪の検査で見つかるのは主に月2回ほど以上の定期的な使用なので、この分析はより多く使っている子を見ていると考えられます。
その結果、最近THCにさらされていた子は、成分が出なかった子に比べて、エピソード記憶の伸びが鈍っていました。
一方、CBDが出た子と、髪から成分が出なかった子のあいだには、差は見られませんでした。
ただし今回の研究は、大麻を使い始めた子と使っていない子の伸び方の違いを比べたもので、大麻そのものが伸びを鈍らせたと言い切れるわけではありません。
それでも研究チームは、一人ひとりの変化を追い、多くの条件を差し引き、検査も組み合わせて使用をより正確につかんだうえで、この違いが見られたとしています。
また、髪の検査では月1回に届かないたまの使用は見つかりにくいため、髪の分析では「試しただけ」の子が使っていない側に入っている可能性もあります。
チームは今後もこの子どもたちを追い続け、大人になるまでの関係や、使い始める時期による違いを確かめていく予定です。
10代の「考える力」は、今どれだけできるかだけでなく、これからどう伸びていくかという目でも見守る必要がありそうです。
伸び盛りの頭に足すなら、怪しい葉っぱより、まずはおかわり自由のご飯とたっぷりの睡眠にしておきたいものです。
参考文献
Teen cannabis use linked to flattened cognitive development in large U.S. study (PsyPost)
https://www.psypost.org/teen-cannabis-use-linked-to-flattened-cognitive-development-in-large-u-s-study/
元論文
Longitudinal neurocognitive trajectories in a large cohort of youth who use cannabis: combining self-report and toxicology
https://doi.org/10.1038/s41386-026-02395-1
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部
