給料日前に通帳の残高を見てため息をついた夜は、なぜかモヤモヤした夢を見て目が覚めることがあります。
昼間の悩みは、眠っているあいだも私たちについてくるのかもしれません。
SRHハイデルベルク大学の心理学者ヨナス・マテス氏らは、65人に2週間の夢日記をつけてもらい、昼間のストレスと夢の中の感情の関係を調べました。
昼間のどんな悩みが、夜の夢に持ち込まれやすいのでしょうか。
研究の詳細は、2026年5月18日付で学術誌『Dreaming』に掲載されました。
目次
- 夢は「昼間の続き」なのか
- 夢の嫌な感情と結びついていたのは「どんな悩み」だったのか?
夢は「昼間の続き」なのか

心理学には、起きているあいだの体験や気持ちがそのまま夢に持ち込まれる、とする「連続性仮説」という考え方があります。
この考えに従えば、仕事や私生活で強いストレスを受けた日は、その不安や怖さが眠っているあいだにも顔を出すはずです。
一方で、夢は頭の中の安全な場所でつらい出来事を整理する「夜のストレス対処」だ、とする考え方(習熟仮説)もあります。
昼間のストレスへの向き合い方も人それぞれで、心理学ではこれを「コーピング(ストレス対処)」と呼びます。
友だちに相談する、前向きに考えるといった健全なやり方は「適応的」、問題から目をそらしたりお酒やたばこに頼ったりするやり方は「不適応的」と呼ばれます。
昼間のストレスと悪夢の多さに結びつきがあることは、これまでの研究ではっきり確かめられています。
しかし、昼間のコーピングの違いが夜の夢の感情まで変えるのかは、あまり分かっていませんでした。
以前ナゾロジーではこういう記事も紹介しています(「昼間にしんどい人」が夜の動画沼にハマる――原因は夜だけではなかった)
そこでチームは、主にSNSの広告で17〜61歳の65人を集めました。
参加者の大半は女性で、多くは学生でした。
まずアンケートで、お金の問題や仕事・学校でのプレッシャー、健康の不安などの負担の大きさと、ふだん使っているコーピングを答えてもらいます。
このとき「不適応的」に数えたのは、お酒やたばこが増えることだけでした。
そのあと14日間、毎朝オンラインの夢日記に、夢の中の良い気持ちと嫌な気持ちの強さを0〜3で記録してもらいました。
あわせて、恐れ・悲しみ・軽蔑・喜び・怒り・嫌悪・驚きから夢に出た感情を選び、悪夢だったかどうかも自分の感覚で答えてもらいました。
夢の嫌な感情と結びついていたのは「どんな悩み」だったのか?

2週間で集まった夢の記録は、全部で276件でした。
いちばん多く報告された感情は驚きと喜びで、過半数の記録に出てきました。
それでも、恐れや悲しみ、軽蔑、怒り、嫌悪といった嫌な感情が報告された夢は、全体の39%にのぼりました。
また、本人が「悪夢だった」と感じた夢は約11%でした。
こうした悪夢には嫌な感情、とくに怒りが結びつきやすく、反対に喜びは少ない傾向がありました。
そしてアンケートと夢日記を照らし合わせると、昼間のストレスが大きい人ほど、夢の中で強い嫌な感情を味わいやすいことが分かりました。
では、どんな悩みがいちばん夢に持ち込まれやすかったのでしょうか。
答えは、人間関係とお金の悩みでした。
なかでも、家族や友だち、恋人との関係がどうなるか分からない不安と、借金の悩みが、夢の中の嫌な感情といちばん強く結びついていました。
次にチームは、コーピングの違いがこの「持ち込み」を弱めたり強めたりするのかを調べました。
予想は、健全な対処をする人ほど嫌な夢が減り、お酒やたばこに頼る人ほど増える、というものでした。
ところが、適応的・不適応的どちらのコーピングも、夢の中の嫌な感情に統計的にはっきりした影響を示しませんでした。
友だちの支えや前向きな考え方をよく使う人でも、夢の中の嫌な感情が少ないとは言えなかったのです。
同じように、お酒やたばこでストレスをまぎらわす人でも、嫌な感情がはっきり増えるという結果は出ませんでした。
少なくとも今回の調査では、昼間の対処の仕方と夢の中の嫌な感情とのあいだに、はっきりしたつながりは見つからなかったことになります。
なお、今回分かったのは悩みと夢の感情の結びつきであり、悩みが悪い夢の原因だとまで決まったわけではありません。
また参加者は65人で、その多くが学生の女性だったため、ほかの人たちにも同じことが言えるかどうかは、今回の結果だけでは分かりません。
眠っているあいだの心は、昼間にうまく片づけたつもりの悩みも、こっそり持ち帰っているのかもしれません。
とはいえ夢の中で借金取りに追いかけられても、目が覚めれば請求書は増えていないので、ひとまず安心してください。
参考文献
Financial and relationship worries predict bad dreams (PsyPost)
https://www.psypost.org/daytime-stress-predicts-negative-emotions-during-sleep/
元論文
Coping strategies and dreams—The impact of waking-life distress on negative dream emotions.
https://doi.org/10.1037/drm0000346
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部
