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大麻で急に不安になる仕組み、脳で「ブレーキが外れる」細胞を特定


のんびり過ごすはずの休日に、ふと嫌な想像が頭をよぎって、急に落ち着かなくなることもあります。


大麻は、気分を落ち着かせたりストレスを和らげたりする目的で、世界中で広く使われています。


ところが、その大麻がときに強い不安やパニックを引き起こすことは、医師や使用者の間で昔から知られてきました。


では、心をほぐすはずの大麻が、なぜ急に人を怯えさせることがあるのでしょうか。


米ノースウェスタン大学の研究チームは、マウスを使った実験で、この「切り替わり」に関わる脳の仕組みを探りました。


研究の詳細は、2026年10月2日付で学術誌『Nature Communications』に掲載されました。




目次



  • リラックスのはずが急に怖くなる、大麻の矛盾
  • ストレス下の大麻で暴走していたのは、脳のどこだったのか?
  • 外れていたのは、脳の「ブレーキ」だった

リラックスのはずが急に怖くなる、大麻の矛盾


リラックスのはずが急に怖くなる、大麻の矛盾
リラックスのはずが急に怖くなる、大麻の矛盾 / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

大麻は、落ち着きや心地よい高揚感、ストレスの軽減をもたらすものとして使われています。


しかし医師や使用者の間では、予測しにくい矛盾が以前から知られていました。


一部の人や量が多いときには、強い不安や最悪の事態ばかり考えてしまう思考、さらにはパニック発作まで起こることがあるのです。


こうした反応は、予測できない状況や、怖くてストレスの多い環境で使ったときに特に起こりやすいとされています。


アメリカでは合法化が急速に進み、THC(大麻に含まれる、気分や意識を変える主な成分)の濃度が高い大麻製品も手に入りやすくなりました。


それにともない、大麻による急なパニックや精神病に似た症状で救急外来を訪れる人も大きく増えています。


大麻に含まれる「カンナビノイド」という成分が、脳のあちこちにある「CB1受容体」という受け皿に結びつくことは、これまでにも分かっていました。


また、人ではカンナビノイドが不安やパニックを引き起こすこと、ネズミなどでは量や状況しだいで危険への身構えが強まることも、よく知られた事実でした。


ところが、大麻が不安を和らげる側に働くのか、あおる側に働くのかを決める「スイッチ」が脳のどの細胞にあるのかは、分かっていませんでした。


危険を前にした動物の脳の中で、カンナビノイドが神経の活動をどう変えるのかも、調べられていなかったのです。


そこで今回、米ノースウェスタン大学ファインバーグ医学部の研究チームは、マウスを使った実験でこのスイッチの正体に迫りました。


ストレス下の大麻で暴走していたのは、脳のどこだったのか?


ストレス下の大麻で暴走していたのは、脳のどこだったのか?
ストレス下の大麻で暴走していたのは、脳のどこだったのか? / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

研究チームが使ったのは、キツネの尿に由来する匂いです。


天敵であるキツネの匂いは、マウスにとって生まれつき危険を知らせる合図になります。


マウスは匂いを嗅ぐ前に、何の作用もない偽薬か、量を変えた合成カンナビノイドを投与されました。


合成カンナビノイドとは、大麻に含まれる成分の仲間であるカンナビノイドを、人工的に作ったものです。


さらに研究チームは、マウスの頭に小さな蛍光顕微鏡(ミニスコープ)を取り付けました。そして、自由に動き回るマウスの神経細胞一つひとつについて、カルシウムの変化をリアルタイムで記録したのです。


行動の違いは、すぐに表れました。


カンナビノイドを投与されたマウスは、偽薬のマウスに比べて、体を固めて動かなくなる「すくみ」がはっきり増え、匂いを過剰に避けるようになったのです。


匂いを調べに近づく時間も、ずっと短くなっていました。


しかも、危険に対するこうした身構えは、投与したカンナビノイドの量が多いほど強まっていました。


では、このとき脳の中では何が起きていたのでしょうか。


研究チームが注目したのは、恐怖の処理に関わる「扁桃体」の中でも、中心部にある「扁桃体中心核」です。


その中の「ソマトスタチン神経細胞」(ソマトスタチンという物質を作る神経細胞)と呼ばれるごく小さな細胞の集まりが、カンナビノイドの量に応じて活発になっていたのです。


カンナビノイドを投与されたマウスの脳では、危険に関わる場所や行動を表す神経活動のまとまりも、よりはっきりと現れていました。


次に研究チームは、この細胞が本当に不安の行動を生み出しているのかを確かめることにしました。そこで化学遺伝学的な手法(特定の細胞に人工の受容体を組み込み、薬で働きを切り替える方法)などを使って、扁桃体中心核のソマトスタチン神経細胞だけを働かないようにしました。


すると、カンナビノイドによって強まっていた匂いの回避が、起こらなくなりました。


一方で、すくみについては、この細胞が必要という結果にはなりませんでした。


つまりソマトスタチン神経細胞は、大麻の成分が危険を避ける行動を強めるときの「入り口」として働いていたのです。


外れていたのは、脳の「ブレーキ」だった


外れていたのは、脳の「ブレーキ」だった
外れていたのは、脳の「ブレーキ」だった / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

では、カンナビノイドはどのようにしてこの細胞を活発にしていたのでしょうか。


脳の切片を使って神経の電気信号を調べたところ、カンナビノイドはソマトスタチン神経細胞にかかっていた「ブレーキ」を弱めていることが分かりました。


このブレーキにあたるのが、周りの細胞から放出される「GABA」という、神経の働きを抑える信号です。


カンナビノイドの受容体が働くと、細胞を興奮させる側の入力も弱まりました。ただしデータからは、それ以上にGABAの放出が抑えられることで、細胞が活発になっていることがうかがえます。


ブレーキが緩んだまま天敵の匂いのような危険にさらされると、恐怖に関わる神経回路が過剰に働いてしまうというわけです。


研究の責任著者であるノースウェスタン大学のサチン・パテル氏は「多めのカンナビノイドと環境のストレスが相乗的に働いて扁桃体中心核の『ブレーキ』を外し、それが過剰な不安を引き起こしていた」と説明しています。


パテル氏はまた、大麻を摂りすぎたときや、状況がストレスの多い怖いものに変わったときに、心地よい体験が急に悪い体験へと転じるのはなぜか、この結果で説明できるかもしれないと述べています。


ただし今回の研究はマウスを使った前臨床段階のもので、人の脳でも同じことが起きているのかは、これから確かめていく必要があります。


それでも、この発見が持つ意味は小さくありません。


大麻製品の濃度が高まり続ける一方で、気分や不安の障害も世界で増えているからです。


パテル氏は、大麻が脳に作用する仕組みを理解すれば、一部の人に起きる悪い影響を打ち消す新しい方法が見つかるかもしれないとしています。


さらに扁桃体中心核は、恐怖やトラウマ、自律神経のストレス反応をまとめる中心的な場所でもあります。


そのため、ここのソマトスタチン神経細胞の働きを調整することが、全般性不安障害やパニック障害、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の新しい治療薬を作る手がかりになる可能性もあります。


パテル氏は「扁桃体中心核のソマトスタチン神経細胞の活動を抑えることは、大麻の副作用に限らず、不安の症状を減らす最終的な経路になりうる」と述べています。


くつろぎと恐怖を分けていたのが、脳の奥にある小さな細胞のブレーキだったとすれば、「気の持ちよう」に見えていた不安も、少し違った姿に見えてきます。


全ての画像を見る

参考文献

Why Cannabis Can Suddenly Trigger Panic (Neuroscience News)
https://neurosciencenews.com/thc-anxiety-endocannabinoids-31287/

元論文

Cannabinoid modulation of central amygdala population dynamics during threat investigation
https://doi.org/10.1038/s41467-026-77957-4

ライター

天道銀河: 科学、歴史、心理、宇宙、生き物、テクノロジーなど、気になるものにはジャンルを問わず首を突っ込む雑食系ライターです。ひとつの分野を深く極めるというより、さまざまな知識を広く集め、意外なつながりを見つけるのが好きです。専門家ほど深くはなくても、好奇心の広さなら負けません。「こんな世界もあるのか」と思えるような、面白くてわかりやすい話題を届けていきます。

編集者

ナゾロジー 編集部

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