健康診断の前の週だけ夕飯のご飯を少なめにして、そっと体重計に乗る人も少なくないはずです。
ダイエットというと、私たちはつい「何キロ減ったか」ばかりを気にしがちです。
しかし体の脂肪には、皮ふのすぐ下につくものと、お腹の奥で内臓を包むようにたまるものがあります。
イスラエルのネゲブ・ベン=グリオン大学の研究チームは、過去に食事と生活習慣の試験に参加した533人の大人を5〜16年後まで追いかけ、お腹の脂肪と脳の関係を調べました。
何年も後の脳の姿と結びついていたのは、体重の減り方だったのでしょうか、それとも「お腹の奥の脂肪」の減り方だったのでしょうか。
研究内容の詳細は2026年3月26日に『Nature Communications』にて発表されました。
目次
- 体重計には映らない「お腹の奥の脂肪」
- 脳と結びついていたのは「体重」か「お腹の奥の脂肪」か?
- お腹の奥の脂肪と脳をつなぐのは「血糖」かもしれない
体重計には映らない「お腹の奥の脂肪」

お腹の脂肪は、大きく2種類に分けられます。
1つは「皮下脂肪」で、皮ふのすぐ下についていて、外からも見えやすい脂肪です。
もう1つは「内臓脂肪」で、お腹の奥で内臓のまわりを包むようにたまっています。
以前ナゾロジーではこういう記事も紹介しています(睡眠不足で「内臓脂肪」が増加しやすくなると判明)
内臓脂肪は体の中でのはたらきがとても活発で、炎症を引き起こす物質をよく出し、それが全身をめぐって脳にまで影響することがあります。
これまでの研究でも、内臓脂肪の多さと認知機能(記憶したり考えたりする力)の低下との結びつきは報告されていました。
しかし、内臓脂肪を実際に減らすことが、長い目で見て脳を守ることにつながるのかは分かっていませんでした。
そこで研究チームが目をつけたのが、過去に行われた4つの食事と生活習慣の試験です。
これらの試験では、参加者が18〜24か月にわたって食事や生活習慣を改める取り組みに参加していました。
チームは元の参加者を探し出し、取り組みから5〜16年たった時点で、533人のお腹と脳をMRI(磁気を使って体の中を撮影する装置)で調べました。
この時点での参加者の平均年齢は61.4歳で、86%が男性でした。
あわせて、認知機能の低下を見つけるために使われる標準的なテスト「MoCA(モカ)」も受けてもらいました。
さらに一部の人には、試験の開始時や18か月後などにも、お腹の脂肪や脳を撮影した記録が残っていました。
こうしてチームは、体重やお腹の脂肪の変化が、何年も後の脳とどう結びついているのかを比べられるようになったのです。
脳と結びついていたのは「体重」か「お腹の奥の脂肪」か?

結論から言うと、何年も後の脳の大きさとの結びつきで目立っていたのは、体重の変化ではなく内臓脂肪の減り方のほうでした。
まず追跡時のデータを調べると、内臓脂肪が少ない人ほど、MoCAの点数が高い傾向がありました。
この結びつきは、脳の大きさが比較的保たれている人で、とくにはっきり表れていました。
一方で、体重と身長から計算する肥満の目安「BMI」では、同じような結びつきは見られませんでした。
次にチームは、3つの時点でお腹の脂肪の記録がそろっている295人について、何年にもわたって内臓脂肪をどれだけ抱えてきたかを計算しました。
すると、内臓脂肪を長く多く抱えてきた人ほど、MoCAの点数も、その中の記憶に関わる点数も低くなっていました。
皮下脂肪では、こうした関係は見られませんでした。
さらにチームは、18か月の取り組みの間に減った脂肪の量が、5〜10年後の脳とどう結びつくかを297人で調べました。
この取り組みの間に、内臓脂肪は平均で24%減っていました。
その結果、内臓脂肪を多く減らした人ほど、何年も後の脳全体の体積が大きく保たれていたのです。
内臓脂肪が減った人ほど、灰白質(脳の神経細胞の本体が多く集まり、感覚の処理や体の動き、判断に関わる部分)の体積も大きく保たれていました。
また、お腹の脂肪に占める内臓脂肪の割合が減った人ほど、学習や記憶の中心となる「海馬」が健康な状態に保たれていました。
海馬は、認知機能が衰えるときに最初に影響を受けやすい場所の1つとされています。
これに対し、皮下脂肪の減り方やBMIの変化は、のちの脳の大きさとは結びついていませんでした。
つまり、同じように「やせた」としても、脳との関係で目立っていたのは、お腹の奥の脂肪がどれだけ減ったかだったのです。
脳を3回撮影した188人のデータでは、内臓脂肪を長く多く抱えてきた人ほど、脳のいくつもの場所で縮み方が速くなっていました。
そうした人では、脳の中にある液体で満たされたすき間「脳室」も、より速く広がっていました。
脳室は、まわりの脳の組織が失われるにつれて大きくなる場所です。
お腹の奥の脂肪と脳をつなぐのは「血糖」かもしれない

では、内臓脂肪はどのような道すじで脳と結びついているのでしょうか。
チームが血液のさまざまな目印を調べたところ、試験開始時の値で見ると、脳の長期的な変化と関係していた代謝の目印は、空腹時の血糖値と、長い期間の血糖の状態を表す目印だけでした。
血液中のあぶら(脂質)や炎症の目印には、こうした関係は見られませんでした。
研究チームは、内臓脂肪が血糖の調整を乱すことが、脳に悪い影響を与える主な道すじかもしれないと考えています。
内臓脂肪が減って血糖の状態がよくなれば、脳の組織にかかる負担がやわらぐ可能性があるというわけです。
ただし、この研究には限界もあります。
参加者の86%は男性で、多くは太りぎみか肥満の人だったため、女性や体重の軽い人に同じことが言えるかは分かりません。
また、最初の脂肪の減少はくじ引きのように組分けした試験の中で起きたものですが、その後の長い追跡は、様子を見守るだけの調査でした。
試験が終わった後の暮らし方は管理されていないため、長い期間のデータについては、内臓脂肪が脳の変化の原因だとまでは言い切れません。
肝臓やすい臓といった臓器にたまる脂肪も、今回は測られていませんでした。
それでも今回の研究は、体重計の数字だけでは見えない変化が、何年も後の脳の姿と結びついている可能性を示しています。
ダイエットの成果を確かめるとき、本当に気にかけたいのは「何キロやせたか」よりも「お腹の奥の脂肪がどれだけ減ったか」なのかもしれません。
体重計は今日も正直に数字を出してくれますが、お腹の奥の事情についてはどうやら黙秘を続けるつもりのようです。
ちょっと高級な内臓脂肪が測れる体重計を購入しようと思います。
参考文献
Losing deep belly fat may slow brain aging and protect memory (PsyPost)
https://www.psypost.org/losing-deep-belly-fat-may-slow-brain-aging-and-protect-memory/
元論文
Sustained visceral fat loss is associated with attenuated brain atrophy and improved cognitive function in late midlife
https://doi.org/10.1038/s41467-026-71141-4
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部
