家族で出かける前、誰かが「そろそろ行くよ」と声をかけると、あちこちから「はーい」と返事が重なることがあります。
実はゾウの群れにも、何頭もの声が重なり合う「合唱」のような場面があります。
ゾウは「ランブル」と呼ばれる低くうなるような声で、仲間と連絡を取り合っているのです。
ところがこれまでの研究の多くは1頭ずつの重ならない声に注目しており、合唱そのものに目を向けた研究は多くありませんでした。
そこで、ゾウの声を研究する団体「エレファントボイス(ElephantVoices)」などの研究者らによるチームは、ゾウの合唱を機械学習で分析しました。
ゾウたちが声を重ねるとき、その声の中では何が起きているのでしょうか。
研究内容の詳細は2026年10月1日に『Scientific Reports』にて発表されました。
目次
- 「アイドリング中のトラック」のような低い声
- 声を重ねたゾウたちに起きていた「ある変化」
- 家族ごとに違う声、そして「動物の会話」の解読へ
「アイドリング中のトラック」のような低い声

ゾウの声といえば、ラッパのような鳴き声を思い浮かべる人が多いでしょう。
しかしランブルはそれとはまったく違い、うなり声や雷のように低い音です。
研究チームの一人である行動生態学者のミッキー・パルド氏は、その声を「アイドリング中のトラックのエンジン」のようだと表現しています。
ランブルの出し方にはいくつかのパターンがあります。1頭だけが鳴く場合、何頭かが交互に鳴き合う場合、そして何頭もの声が同時に重なる「合唱」です。
ただし、こうした声が何を意味しているのかは、長いあいだ謎でした。
今回チームは、ケニアのアンボセリ国立公園にすむアフリカゾウのランブルについて、数百本の録音を分析しました。
録音には、子ゾウに向けた「クー」、離れた仲間に呼びかける「コンタクト」、群れが動き出す前の「レッツゴー」、休息や食事中の「ケイデンス」、そして2種類の「あいさつ」など、さまざまな場面の声が含まれていました。
そして多くの録音には、何頭もの声が入り混じった「合唱」がとらえられていました。
分析には機械学習(コンピューターに大量のデータを学ばせて判断させる方法)が使われました。
チームが調べたのは、入り混じった合唱から「ゾウたちがどんな場面にいるのか」を読み取れるのか、そして重なった声どうしがどんな関係にあるのか、という点です。
声を重ねたゾウたちに起きていた「ある変化」

まずチームは、録音した声から、ゾウがそのときどんな場面にいたのかをコンピューターに当てさせました。
その結果、1頭だけの重ならない声からも、何頭もの声が重なった合唱からも、場面を予測できることが分かりました。
予測は完全に正確ではありませんでしたが、当てずっぽうよりはよく当たったのです。
これは、似た場面で出すゾウの声が、似た音の特徴をもっている可能性を示しています。
さらに、合唱の中の1頭ずつの声を調べると、同じ場面で1頭だけが出す声と、つくりがよく似ていました。
つまりゾウの合唱は、それぞれが場面に合った声を持ち寄り、それらが重なって、群れとしての1つの合図になっていると考えられます。
そして特に興味深いのは、特定の場面では、合唱の中のゾウたちの声がだんだん似ていったことです。
研究者らはこの現象を「声の収束(ボーカル・コンバージェンス)」と呼んでいます。
このような現象は、オウムやイルカといった、おしゃべりな動物でも見られてきました。
私たち人間も、互いの言葉づかいを映し合うように似せていくことが知られています。
研究の共著者で、非営利団体アース・スピーシーズ・プロジェクトのサラ・キーン氏によると、声が似ていくのは「ゾウたちが群れの行動を合わせようとしているように見える場面だけ」だったといいます。
キーン氏は、この声の収束が群れの「同意」を表している可能性もあるとしつつ、それを確かめるにはさらに検証が必要だと述べています。
家族ごとに違う声、そして「動物の会話」の解読へ

また、場面ごとのランブルには、個体ごと、家族の群れごとに一定の違いがあることも分かりました。
チームは、家族ごとの違いは、一頭一頭の声の違いから生まれているのかもしれないと考えています。
これまでの研究で、ランブルには場面や、誰が鳴いているかの情報が含まれていることが示されてきました。
今回の研究は、ゾウの合唱もまた「群れの合図」として働いていることを示す新しい証拠です。合唱は、声の組み合わせ方と声のそろい方の両方で場面を伝えているのです。
研究に参加していないケンブリッジ大学の動物学者アリク・カーシェンバウム氏は、新しいコンピューター分析と野生での実際の行動観察を組み合わせることがいかに大切かを、この研究がよく示していると述べています。
以前ナゾロジーではこういう記事も紹介しています(動物の声を理解できるケンブリッジ大学の「リアル・ドリトル先生」)
キーン氏は、同じような方法でシャチやカラスなど、ほかの動物の声も分析できるのではないかと期待しています。
合唱のように声を重ねる動物はほかにも多く知られており、今後の研究の候補になりそうだといいます。
カーシェンバウム氏は、豊富な行動の記録と強力な機械学習を組み合わせたとき、「動物たちは何を話しているのか」という問いに答え始められると話しています。
ゾウたちの低いうなり声も、ただ鳴いているだけではなく、群れで息を合わせるための会話なのかもしれません。
参考文献
Scientists are decoding elephant rumble calls, including ‘greetings’ and ‘coos’—hear them (Scientific American)
https://www.scientificamerican.com/article/scientists-are-decoding-elephant-rumble-calls-including-greetings-and-coos/
元論文
Social context information and acoustic convergence in elephant vocal choruses
https://doi.org/10.1038/s41598-026-68525-3
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部
