オランダのフローニンゲン大学(RUG)などで行われた研究によって、中高生1895人の「好きな人は誰か」という答えを突き合わせたところ、好きな人がいた669人のうち、相手からも名前を挙げられていたのは約12%だけだったことが明らかになりました。
残る9割近くは、自分だけが相手を想う一方通行だったのです。
論文では、好きな人を挙げる生徒自体が比較的少なく、しかもその「好き」の大半は報われていなかったと記述されています。
では、片思いの多くは、どんな相手に向けられていたのでしょうか?
研究内容の詳細は2026年6月11日に『Journal of Social and Personal Relationships』にて発表されました。
目次
- 恋バナで分かるのは、いつも片側だけ
- 「好きな人」の矢印を調べる
- 片思いは釣り合う相手ではなく「見上げる相手」へ向かう
恋バナで分かるのは、いつも片側だけ

修学旅行の夜、消灯後の布団の中で始まる「好きな人いる?」の打ち明け話。
そこで分かるのは、同じ部屋の友だちが誰を好きかまでです。
その相手が友だちのことをどう思っているかは、相手の部屋の恋バナでも聞かない限り分かりません。
思春期の恋の多くは、こうした相手の気持ちが見えない片思いから始まります。
片思いはたとえ実らなくても、本人の自己像や友だちとの関係を形づくる、思春期の大切な経験です。
しかし研究の世界では、思春期の恋愛といえば、これまで主に「付き合っている2人」の関係が調べられてきました。
誰かに片思いをすること、そして誰かの片思いの相手になることは、あまり調べられてこなかったのです。
そこでフローニンゲン大学のメリッサ・ゴンサレス=ロヨラ氏らの研究チームは、「誰が誰を好きなのか?」という素朴な問いに取り組みました。
恋の相手選びを進化の観点から説明する考え方(性淘汰理論)に従えば、人気がある、見た目がいい、友だちが多いといった「目立つ魅力」を持つ人ほど、好意を集めやすいと予想されます。
どんな生徒が好きな人に選ばれやすいのか、どんな生徒がよく人を好きになるのか、そして似た者どうしが惹かれ合うのかを確かめるのが狙いです。
ただし、片思いか両思いかを知るには、好きな側と好かれた側、両方の本音を手に入れなければなりません。
「好きな人」の矢印を調べる

舞台となったのは、オランダ北部の田園地帯にある中等学校(日本の中学・高校にあたる学校)です。
全校生徒2159人のうち1895人が調査に参加し、平均年齢は14.8歳でした。
調査は2014年11月、教室で紙の質問票に答える形で行われました。
使われたのは、人と人のつながりを矢印の網の目として描き出す方法(社会ネットワーク分析)です。
生徒に配られたのは、全校生徒の一覧表でした。
一覧表では一人ひとりに番号が振られていて、生徒は質問に当てはまる相手の番号を、人数の制限なく書き込んでいきます。
質問は「好きな人、気になっている人、付き合いたい人は誰ですか」に加えて「人気者は誰か」「見た目がいいのは誰か」「よく言い争いやケンカを起こすのは誰か」「よく人のうわさや悪口を広めるのは誰か」「親友は誰か」などが尋ねました。
修学旅行でいえば、全部の部屋の恋バナを一晩で集め、名前どうしを線で結んでいくようなものです。
こうして学校じゅうに引かれた矢印を数えると、好きな人の番号を1人以上書いた生徒は669人で、全体の約35%であることがわかりました。
そしてこの好きな人がいる人の中で相手からも番号を書かれていた両想いの生徒はわずか11.8%(79人)だけでした。
それ以外の生徒の矢印は、相手に向かったきり、1本も返ってきていませんでした。
反対に、自分は誰の番号も書いていないのに、誰かから好きな人として番号を書かれていた生徒も、全体の2割余りいました。
学校じゅうの「好き」の矢印は、その多くがすれ違っていたのです。
なお、交際中の相手は除いて尋ねているので、すでに実った恋は、この12%の外にあります。
片思いの矢印は、どんな生徒に集まっていたのでしょうか?
定番のイメージでは、好きな人に選ばれるのは、みんなが認める美男美女や人気者です。
ところが、多くの生徒から「見た目がいい」と評される生徒も、多くの生徒から「人気者」と見られている生徒も、好きな人に選ばれやすいわけではありませんでした。
見た目については、選ぶ本人が「見た目がいい」と思っている相手でさえ、選ばれやすいとはいえなかったのです。
代わりに親友として名前を挙げられる数が多い生徒ほど、誰かの好きな人に選ばれやすくなっていました。
また自分が「人気者だ」と思っている人を「好きな人」に選ぶ確率は、そう思っていない相手の約3倍であることもわかりました。
論文は、片思いを動かしているのは学校全体の評判よりも、日々のやりとりから生まれる一人ひとりの印象なのかもしれないと述べています。
さらに興味深いことに、自分の目に「よく言い争いやケンカを起こす子」と映っている相手を選ぶ確率も、そう映っていない相手の約2倍「好きな人」を向けられやすいことがわかりました。
思春期の初めには、こうした振る舞いが単なる乱暴さではなく、押しの強さや仲間内での強さの表れとして受け止められているのではないか、と研究者たちは考えています。
ここまでは矢印を受け取る側の話でしたが、論文では矢印を出す側にも、はっきりした偏りがみつかりました。
多くの生徒から人気者と見られている生徒ほど「好きな人」とする人数が少なかったのです。
人気者は仲間内での立場を守るため、相手を慎重に絞り込んでいるのだろう、というのが研究チームの見立てです。
反対に、多くの生徒から「見た目がいい」と評される生徒ほど、好きな人を多く挙げていました。
見た目の評判が効いていたのは、好かれる側ではなく、好きになる側だったのです。
論文は、見た目がいいと評判の生徒ほど自信があり、人に好意を向けることに気後れしにくいのではないかと考察しています。
また興味深いことに、多くの生徒から「よく人のうわさや悪口を広める」と見られている生徒ほど、好きな人の矢印を多く出していました。
とくに男子ではっきり出た傾向で、受け取る矢印が増えていたわけではありません。
研究チームは、これを恋の相手を探す積極さの表れとみています。
片思いは釣り合う相手ではなく「見上げる相手」へ向かう

「似た者夫婦」という言葉があるように、恋人選びでは似た者どうしが結びつきやすいことが知られています。
けれども今回の片思いでは、人気や見た目、友だちの多さが自分と似ている相手を選ぶ傾向は見られませんでした。
研究チームは、思春期の片思いは自分と釣り合う相手を探すというより、自分より目立つ相手や格上に見える相手に向かう「憧れ」に近いのではないかと考えています。
もっとも、今回の結果は、オランダの田園地帯にある1つの学校から得られたものです。
都会の学校や文化の異なる地域でも同じ数字になるかは、まだ分かっていません。
それでも、学校まるごとの「好き」を双方の答えから突き合わせ、その大半が一方通行であることを数字で示した意味は小さくありません。
次の課題として挙げられているのは、同じ生徒たちを時間を追って調べ、人気や友だちの多さと「好き」のどちらが先に生まれるのかを確かめることです。
ユーモアのセンスや共感力といった、今回は測っていない性格の違いを加えることも提案されています。
研究チームは片思いを、交際と違って友だち関係を大きく崩さずに、人を好きになる気持ちや周りの評価を経験できる「リスクの小さい練習の場」と位置づけています。
片思いに悩む10代にとって、「両思いは1割強」という数字は、ささやかな慰めになるかもしれません。
元論文
Who Fancies Whom? Investigating Adolescent Romantic Interests
https://doi.org/10.1177/02654075261460936
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部
