子どものころ、ぐらぐらする歯を舌で押しながら、抜ける日を今か今かと待っていた人も多いでしょう。
私たち哺乳類の多くは、一生のうちに歯が1回しか生え替わりません。
歯が乳歯と永久歯の2世代だけというこの性質は、上下の歯がぴったりかみ合うことなど、哺乳類らしい特徴の進化にとってとても大事だと長く考えられてきました。
ところが、恐竜がいた時代(中生代)の哺乳類がどのように歯を生え替えていたのかは、まだよく分かっていません。
そんな中、研究チームは、中国の白亜紀前期(恐竜がいた時代の一時期)にいた哺乳類の、ほぼ全身がそろった化石を報告しました。
では、この太古の哺乳類の歯は、私たちと同じように1回だけ生え替わっていたのでしょうか。
研究内容の詳細は2026年9月28日に『Nature Communications』にて発表されました。
目次
- ほぼ全身の化石から見えてきた「水辺の暮らし」
- この哺乳類の歯は何回生え替わったのか?
ほぼ全身の化石から見えてきた「水辺の暮らし」

今回報告されたのは、「真三錐歯類(しんさんすいしるい)」と呼ばれる、恐竜の時代にいた哺乳類のグループの一員です。
化石はほぼ全身の骨がそろっており、体のつくりをくわしく調べられました。
まず目を引くのは、その手足です。
手と足はカモノハシに似ていて、カモノハシと同じように水かき(指の間の膜)があったと見られています。
さらに尾の骨は、上下からつぶしたように平たい、変わった形をしていました。
この尾の骨の形は、南アメリカ原産のネズミの仲間「ヌートリア」によく似ています。
こうした特徴から、この哺乳類は水辺で陸と水の両方を行き来する「半水生」の暮らしに適応していたと考えられます。
耳のつくりにも、進化の手がかりが残っていました。
哺乳類の耳の進化には、下あごや耳の奥の小さな骨(耳小骨)とつながっていた「メッケル軟骨」がかかわっています。
今回の化石では、骨のように硬くなったメッケル軟骨が、下あごにわずかに触れているだけでした。
これは、メッケル軟骨がまず下あごから離れ、その後で耳の骨から離れたという考えを支える結果です。
とはいえ、この化石のいちばんの注目点は、手足でも耳でもなく、口の中にありました。
この哺乳類の歯は何回生え替わったのか?

研究チームが歯を調べたところ、この哺乳類は歯が何世代にもわたって生え替わっていたらしいことが分かりました。
このように歯が何度も生え替わる性質を、「多生歯性(たせいしせい)」と呼びます。
哺乳類の歯は形によって4つのタイプに分けられますが、この化石ではその4タイプすべてで、一部の歯の位置に複数の世代の歯があると見られました。
研究チームによると、4タイプすべてでこうした生え替わりが見られる哺乳類は、知るかぎりこれがただ一つだといいます。
しかも、奥歯のような形をした歯までが生え替わっていました。
近い仲間の「ゴビコノドン類」でも、同じように何度も生え替わる歯や、奥歯のような形の歯の生え替わりが見られます。
研究チームは、こうした性質がこの仲間で再び現れたのは、彼らの暮らし方や、肉を食べる食性とおそらく関係していると考えています。
実際、今回の哺乳類も、肉を食べる動物だったと見られています。
今いる哺乳類の多くは歯が2世代だけです。この性質は、精密なかみ合わせや、体がある大きさで成長を止めるしくみなど、ほかの特徴の進化にとってかなめだったと長く考えられてきました。
今回の化石は、恐竜の時代の哺乳類の中に、この「2世代ルール」から外れていたらしいものがいたことを示しています。
研究チームは、この発見が哺乳類の歯の進化の理解を深めるものだとしています。
歯は一度しか生え替わらないという私たちの「当たり前」も、長い進化の歴史の中では、ただ一つの決まった答えではなかったのかもしれません。
もっとも、歯が何度も生えてくると知ったら、歯みがきをさぼる言い訳が一つ増えるだけかもしれません。
参考文献
A polyphyodont, semiaquatic eutriconodontan mammal from the Early Cretaceous of China (Nature Communications)
https://doi.org/10.1038/s41467-026-77339-w
元論文
A polyphyodont, semiaquatic eutriconodontan mammal from the Early Cretaceous of China
https://doi.org/10.1038/s41467-026-77339-w
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部
