朝いちばんに電話に出たら自分の声がガラガラで、思わず咳払いをしてごまかしました。
声のかすれや出しにくさは、多くの人がつい見過ごしてしまう小さな変化です。
一方で、世界では5700万人を超える人が認知症を抱えています。
病気を治す手立てが限られているため、衰えの兆しに早く気づくことが大切だとされています。
そこで研究チームが目を向けたのが、私たちの「声」でした。
チームは米国の80万人を超える患者の医療データを使い、声の障害と認知機能(ものを覚えたり考えたりする頭の働き)の低下の関係を調べました。
では、声の障害がある人は、頭の働きが衰えやすいのでしょうか。
研究内容の詳細は2026年8月1日に『Journal of Voice』にて発表されました。
目次
- なぜ「声」と「頭の働き」が結びつくと考えられたのか
- 声の障害と難聴、認知機能の低下とより強く結びついていたのは?
なぜ「声」と「頭の働き」が結びつくと考えられたのか

声と頭の働きの関係を考えるうえで、研究チームが比べる目安にしたのが「難聴」です。
2020年、認知症に関する専門家の委員会は、難聴を「手を打てる認知症のリスク要因」の中で世界最大のものとして挙げました。
さらに、認知機能が衰える危険の高い高齢者に聞こえの手当てをすると、3年間の認知機能の変化が小さくなったという試験結果もあります。
声についても、声の響きを機械で測った数値の乱れが頭の働きの状態と関係しており、衰えを予測できるかもしれないと報告されてきました。
チームは、声の障害にも難聴と同じような2つの道筋がありうると考えました。
1つは暮らしの道筋で、声が出しにくいと、人と話したり頭を使ったりする活動から遠ざかるかもしれません。
もう1つは神経の道筋です。たとえばパーキンソン病では、病変の広がりを段階で示す「Braak病期分類」において、迷走神経(のどや内臓の働きを受け持つ神経)が、レビー小体と呼ばれる病変が最も早く現れる場所の一つとされています。
実際にこの病気では、声のかすれや話しにくさが、体の動きの症状より何年も先に現れることがあります。
声の変化は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)や多系統萎縮症(体の動きや自律神経の働きがしだいに衰える病気)、アルツハイマー病といった病気とも関係すると言われてきました。
それでも、医師に診断された声の障害が、それだけで認知機能の低下と結びつくのかを大規模に調べた研究は、これまでありませんでした。
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そこでチームは、声の障害と診断された患者と、条件をそろえた比較相手を比べ、さらに難聴の患者グループも物差しとして用意しました。
声の障害も難聴と同じく、手当てができる状態だからです。
声の障害と難聴、認知機能の低下とより強く結びついていたのは?

調べた患者は、声の障害のグループと比較相手を合わせて83万3417人にのぼりました。
その結果、声の障害と診断された人では、認知機能の低下が新たに起こるリスクが、比較相手の約1.29倍になっていました。
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一方、難聴だけの人のリスクは、声の障害の人よりわずかに低いものでした。
難聴のない声の障害の人と、難聴だけの人を直接比べても、声の障害の人のリスクは約1.26倍でした。
そして最もリスクが高かったのは、声の障害と難聴を両方抱える人たちでした。
このグループのリスクは、比較相手の約2.04倍、難聴だけの人の約1.55倍にあたります。
なお、声の障害のある人どうしを比べると、難聴があるかないかで、はっきりした差は見られませんでした。
チームは、声の障害は難聴だけよりも強い「早めの目印」になる可能性があると結論づけています。
ただし、今回わかったのは両者が結びついているということで、声の障害が頭の衰えを引き起こすと示されたわけではありません。
チームは、耳鼻咽喉科や、家庭医・内科の診察が、認知機能を調べる入り口になりうると述べています。
また、早めに声を治療することで頭の働きに良い効果があるかどうかは、これから調べる必要があるとしています。
声のかすれを「そのうち治る」と聞き流さずに耳を傾けることが、自分や家族の変化に気づくきっかけになるかもしれません。
とりあえず今日からは、家族の「ちょっと声が変じゃない?」に、むっとせず素直にお礼を言うことにしましょう。
参考文献
Voice Disorders as Early Biomarkers of Cognitive Decline (Journal of Voice)
https://doi.org/10.1016/j.jvoice.2026.07.037
元論文
Voice Disorders as Early Biomarkers of Cognitive Decline
https://doi.org/10.1016/j.jvoice.2026.07.037
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部
