ホラー映画を観た夜は、布団から足を出して寝るのが少しだけ怖くなるものです。
かつての東ヨーロッパでは、吸血鬼の言い伝えが死者の葬り方まで左右していました。
各地の墓からは、のどに石をのせられたり、背骨を貫く釘を置かれた骨が見つかっています。
これらはすべて死後に施されたもので、死者が二度と起き上がらないようにするための細工でした。
では、なぜ一部の死者だけが、これほどまでに恐れられたのでしょうか。
ポーランドのある墓地で見つかった骨が、その手がかりを与えてくれています。
この話題の詳細は2026年9月28日に『IFLScience』にて公開されました。
目次
- 死者が「起き上がらないように」施された細工
- 恐れられた死者は「よそ者」だったのか?
死者が「起き上がらないように」施された細工

当時の東ヨーロッパでは、体と魂は別々のものだと考えられていました。
人が死ぬと、魂はよりどころを失ったまま40日間さまようことがあるとされていたのです。
その多くは害のない魂でしたが、ごく一部は吸血鬼になって戻ってくるかもしれないと恐れられていました。
しかも、いくつかの条件がそろうと吸血鬼になりやすいと信じられており、人々はその危険を見過ごそうとはしませんでした。
その様子を今に伝えるのが、ポーランド北西部の農村ドラウスコの東のはずれにある墓地「ドラウスコ1」です。
ドラウスコは中世から人が住み続けてきた集落で、この墓地は17〜18世紀のものとされています。
墓地は1929年から調べられてきましたが、本格的な調査が始まったのは2000年代の終わりになってからでした。
2008〜2012年には285体の人骨が見つかり、そのうち6体がふつうとは違う形で葬られた「逸脱(いつだつ)した埋葬」だと判断されました。
そこには、首のまわりの鎌、のどの上の石、背骨を貫く釘といった細工が見られました。
こうしたものは当時のふつうの埋葬には含まれず、死者が吸血鬼として戻ってくると疑われていたことをうかがわせます。
最も多かったのは鎌で、5体では首かお腹のあたりに置かれていました。
墓から起き上がろうとすれば、首が落ちるか、お腹が裂けるようにするためだったとされています。
また2体では、あごの下に大きな石が置かれていました。
これは、生きている人にかみついたり、襲って食らったりできないようにするためだと解釈されています。
ところが、これだけの細工をしておきながら、これらの墓はほかの墓から離れた場所に設けられていたわけでもありませんでした。
恐れられた死者は「よそ者」だったのか?

では、地元の人々はなぜ、この人たちが死後によみがえると心配したのでしょうか。
葬られた人たちは、年齢も性別もさまざまでした。
これまでには、よそ者として信用されていなかったからではないか、あるいは何かの病気のせいではないか、という説が出されていました。
しかしドラウスコの骨は、こうした見方と食い違っているように見えます。
歯のエナメル質(歯の表面をおおう硬い層)に含まれる同位体(育った土地の手がかりになる成分)から、彼らはこの地域の出身だったとみられるのです。
さらに骨には、病気やストレス、けがの跡も残っていませんでした。
つまり骨からは、彼らがよそ者だったとも、病気の跡が残るような人だったとも言いにくいのです。
ただし、病気が関わっていた可能性がなくなったわけではありません。
コレラのように、骨に跡を残しにくい病気が原因だったことも考えられます。
研究者たちによると、感染症がはやったときには、最初に亡くなった人が吸血鬼として戻ってくる危険が高いと見なされるのがふつうだったといいます。
あるいは、その人自身の人となりや立場の何かが、周りの人々の疑いを招いたのかもしれません。
こうした葬り方がどんな人に向けられたのかについては、まだ多くの謎が残っています。
それでも、死者がどう葬られたかは、その人が生前にどう見られていたかを映し出す手がかりになります。
鎌や石は、死者を墓に閉じこめるための道具であると同時に、生きていたころの彼らに向けられたまなざしを今に伝える記録でもあるのです。
吸血鬼を信じる人はもういないかもしれませんが、その恐れは確かに過去に跡を残していました。
参考文献
Why Were These Skeletons Shackled In Their Coffins In Poland's Drawsko 1 Cemetery Site? Somebody Really Didn't Want Them To Get Back Up (IFLScience)
https://www.iflscience.com/why-were-these-skeletons-shackled-in-their-coffins-in-polands-drawsko-1-cemetery-site-somebody-really-didnt-want-them-to-get-back-up-84781
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部
