コウモリは、自分の力で羽ばたいて空を飛べる、ほ乳類でただ一つのなかまです。
世界には1500種以上がいて、地球のほ乳類の5分の1以上を占めています。
ところが、これほど数の多い動物なのに、コウモリが最初にどこで生まれたのかは、長いあいだはっきりしていませんでした。
科学者たちは、アフリカやアジア、北アメリカなどを候補として考えてきました。
そんな中、64カ国・137人の研究者でつくる国際チーム「Bat1K」が、ゲノムと化石を組み合わせたこれまでで最大の研究で、この謎に答えを出しました。
では、コウモリの故郷はいったいどこだったのでしょうか。
研究内容の詳細は2026年9月23日に『Nature』にて発表されました。
目次
- 103種のゲノムと44種の化石を突き合わせる
- コウモリは地球のどこで生まれたのか?
103種のゲノムと44種の化石を突き合わせる

今回の研究のカギは、いま生きているコウモリのゲノム(その生き物が持つ遺伝情報のひとそろい)と、大昔のコウモリの化石を組み合わせたことです。
チームは、コウモリの21の科(なかま分けのグループ)すべてから、合わせて103種のゲノムを分析しました。
そのうち42種は、今回新しく読み取られたゲノムです。
中には、タイやミャンマーにすむ「地球で最も小さいほ乳類の一つ」とされるコウモリや、手首と足首の吸盤で小さな葉にはりつくマダガスカルのコウモリも含まれています。
こうした珍しいコウモリのサンプルは、研究者たちが何十年もかけて世界中から集めてきたものです。
さらにチームは、44種の化石を含む65種のコウモリについて、体の形の特徴を699項目にわたって比べました。
そのうえで、進化のモデルを使いました。ゲノムの変化と体の形の変化に加え、大陸の位置が時代とともに変わることまで計算に入れたモデルです。
研究を率いた一人であるストーニーブルック大学のリリアナ・ダバロス教授は、この方法なら最も古い化石コウモリのグループを見分け、コウモリがいつどこで生まれたのかを明らかにできると説明しています。
こうして組み上がった新しいコウモリの家系図は、故郷の場所について意外な答えを指し示していました。
コウモリは地球のどこで生まれたのか?

分析の結果、コウモリは約6500万年前のヨーロッパで生まれた可能性が高いことが分かりました。
つまり、ほ乳類が自分の力で羽ばたいて飛ぶ能力を手に入れた場所も、ヨーロッパだった可能性が高いということです。
この結果は、コウモリがアフリカ、アジア、北アメリカで生まれたというこれまでの説をくつがえしました。
以前ナゾロジーではこういう記事も紹介しています(動力飛行できる唯一の哺乳類「コウモリ」はどこからきたのか?)
ヨーロッパで生まれたコウモリの子孫は、まずアフリカへと移り住みました。
その後、ヨーロッパとアフリカを拠点にして、アジア、南北アメリカ、オーストラリアへと広がっていったと研究チームは説明しています。
また今回の研究では、いま生きているすべてのコウモリの共通の祖先が持っていたゲノムも、初めて復元されました。
これは、空を飛べるほ乳類の祖先のゲノムがどんな姿だったのかを示すものです。
さらに研究は、もう一つの長年の謎にも手がかりを与えました。
それは、コウモリがいつ「反響定位(のどで出した音のはね返りを聞いて、まわりの様子を知るしくみ)」を身につけたのかという謎です。
カギとなったのは、「ヴィエラシア(Vielasia)」という化石のコウモリです。
この化石は、コウモリの家系図の中で最も古い枝に位置づけられました。
しかもヴィエラシアの体には、反響定位ができたことを示す特徴がありました。
このことから、反響定位は、いまのコウモリのなかまが多くのグループに分かれていくより前から存在していたと考えられます。
空を飛ぶ力と反響定位というコウモリを代表する2つの能力は、どちらもコウモリの歴史のごく初めに生まれていたとみられるのです。
研究チームは、この早い時期に手に入れた2つの能力が、その後6500万年にわたるコウモリの大きな繁栄を説明するとしています。
今回の研究は、コウモリの家系図を書き直し、コウモリの進化をめぐる長い議論に決着をつける助けになると期待されています。
花粉を運び、種をまき、たくさんの害虫を食べてくれる身近なコウモリの羽ばたきには、はるか昔の祖先から受け継いだ力が込められているのです。
次に夕暮れの空でコウモリを見かけたら、心の中で「ずいぶん長い旅でしたね」とねぎらってあげたくなりそうです。
参考文献
Team pins down where bats originated (Futurity)
https://www.futurity.org/bats-genome-fossils-origination-3347102/?utm_source=rss&utm_medium=rss&utm_campaign=bats-genome-fossils-origination-3347102
元論文
Reference genomes and fossils revise bat family phylogeny and biogeography
https://doi.org/10.1038/s41586-026-11007-3
ライター
山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。
好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。
編集者
ナゾロジー 編集部
