海外のニュースで、大麻が店先にずらりと並ぶ映像を見ると、どこか別の世界の話のように感じてしまいます。
近年、嗜好用の大麻は手に入りやすくなり、使う人も大きく増えています。
今の大麻製品は、精神作用のもとになる成分「THC(テトラヒドロカンナビノール)」の濃度が高く、中身もまちまちだとされています。
一方で、大麻の成分を使った治療への関心は今も高く、てんかんの薬として使われている成分もあります。
では、薬が効きにくい重いてんかんを抱える人が大麻をほぼ毎日使っていると、その発作はどうなっているのでしょうか。
米ワシントン大学医学部(セントルイス)などの研究チームは、入院患者の記録をさかのぼって、この疑問を調べました。
研究内容の詳細は2026年9月28日に『Epilepsia』にて発表されました。
目次
- 「薬が効かないてんかん」と大麻の2つの顔
- 大麻をほぼ毎日使う人の発作は、多かったのか少なかったのか?
- 「大麻が発作を悪くした」とは、まだ言えない
「薬が効かないてんかん」と大麻の2つの顔

てんかんの中には、薬をきちんと選んで試しても発作が治まらないタイプがあります。
適切な抗てんかん薬を2種類以上試しても発作が続く状態は、「薬剤抵抗性てんかん」と呼ばれます。
こうした患者さんが入る専門の病棟が「てんかんモニタリングユニット」で、医師が発作をその場で観察し、薬の調整や手術の必要性を見きわめます。
この病棟への入院は、それまでの薬で発作を抑えきれなくなったというサインでもあるのです。
大麻の成分のうち、精神作用のない「カンナビジオール(CBD)」を精製した薬は、小児期に始まる一部の重いてんかんの治療薬として米国で承認されています。
以前ナゾロジーではこういう記事も紹介しています(大麻の成分CBDが抗生物質として機能するかもしれない 淋病などの「耐性菌にも有効」)
ただしこの薬には、THCはまったく含まれていません。
動物実験では、CBDが発作を抑える一方で、THCは条件によって逆に発作を起こしやすくする可能性が示されています。
そして今、嗜好用に売られている大麻は、THCが非常に多くCBDがごくわずかな製品が中心です。
つまり「てんかんの薬になる成分」と「店で買える大麻」は、中身がまるで違うのです。
今回の研究の対象は、2019〜2024年にウィスコンシン大学の専門病棟に入院した、薬剤抵抗性てんかんの成人64人です。
入院前1年間のカルテの記録から、月20日以上大麻を使っていた22人と、使っていなかった42人に分けて比べました。
注目したのは、発作が始まってから入院までの年数、全身のけいれんに広がる発作の有無と回数、使っている抗てんかん薬の多さです。
大麻をほぼ毎日使う人の発作は、多かったのか少なかったのか?

この研究のきっかけは、研究を率いたアーロン・ストラック博士が診察室で感じていた違和感でした。
「恐ろしいほどの発作を抱えた、本当に重いてんかんの患者さんを診ていたのですが、彼らには想定されるリスク要因がひとつもありませんでした」と博士は話します。
「共通していたのは、高濃度の大麻を頻繁に使っていたことだけでした」と博士は続けます。
診察でますます目にするようになったのに、誰もきちんと調べていない要因だったといいます。
では、実際の記録を比べるとどうだったのでしょうか。
まず、全身のけいれんに広がる発作(焦点起始両側強直間代発作)を経験していた人は、頻繁な使用者で90.9%、使っていない人で57.1%でした。
このタイプの発作は、いわゆる「大発作」にあたります。けがや、てんかんの人に起こる予期せぬ突然死と最も結びつきが強いとされる発作です。
さらに1年あたりの回数で見ると、頻繁な使用者では平均3.00回と、使っていない人の1.32回の2倍を超えていました。
違いは発作の回数だけではありませんでした。
発作が始まってから専門病棟に入院するまでの期間は、頻繁な使用者で平均5.0年、使っていない人で平均18.1年でした。
大麻をほぼ毎日使う人たちは、使っていない人の3倍以上の速さで、専門病棟での評価が必要な段階に至っていたことになります。
しかも、てんかんを抱えていた期間がずっと短いにもかかわらず、使っている抗てんかん薬の数は平均3.05と、使っていない人の2.21より多くなっていました。
筆頭著者のサンティアゴ・フィリベール=ロサス氏によると、頻繁な使用者にはいくつかの特徴がそろっていたといいます。20代で男性が多く、てんかんのよくあるリスク要因を持たず、発作が始まってから入院までが早いという点です。
また頻繁な使用者は全員が「側頭葉てんかん(脳の側頭葉から発作が始まるてんかん)」でしたが、この点については、使っていない人との差は統計的にはっきりしたものではありませんでした。
数字を並べてみると、大麻をほぼ毎日使う人ほど、てんかんが重いことを示す目印がそろっていたのです。
「大麻が発作を悪くした」とは、まだ言えない

ここで気になるのは、「発作がつらいから、それを和らげようと大麻に手を伸ばしたのでは」という逆の可能性です。
そこで研究チームは、経過がきちんと記録されていた頻繁な使用者15人について、大麻を使い始めた時期を確かめました。
すると15人全員が、最初の発作が起きる前から大麻を日常的に使っていたのです。
このことから研究チームは、「すでにあるてんかんへの対処として大麻を使っていただけ」という説明は当てはまりにくいと考えています。
もうひとつ意外だったのが、脳の画像です。
薬がここまで効かなくなるてんかんでは、画像で確かめられる脳の構造の傷が残るのが一般的だとされます。代表的なのが「海馬硬化(記憶に関わる海馬の神経細胞が減り、硬く縮む変化)」です。
ところが頻繁な使用者のMRI画像は、おおむね正常に見えたといいます。
画像の解析でも、2つのグループの間に統計的にはっきりした差は見つかりませんでした。
研究チームは、大麻の成分が結びつく「CB1受容体」が、記憶や発作の起点となる海馬のような場所に多く集まっている点に注目しています。
そして、高用量のTHCに長く触れ続けることで、脳の組織が目に見えて壊れるのではなく、神経回路の発火のバランスが乱れているのではないかという仮説を立てています。
とはいえ、今回わかったのはあくまで「関連」であり、大麻が発作を増やしたという因果関係を示したものではありません。
今回、大麻の使用はカルテに記録された内容から判断しています。今後は、自己申告ではなく検査で使用を客観的に測る、複数施設での前向き研究(対象者をこれから追いかけて調べる研究)が計画されています。
ストラック博士も「大麻がてんかんを悪化させるという決定的なデータはありません」と認めています。
そのうえで博士は、不安や眠りのために大麻を使っている人については、ほとんど規制されておらず脳への影響もよくわかっていないものより、よく理解されている薬で治療したいと語ります。
フィリベール=ロサス氏も「今のところ、患者さんに大麻が発作に影響しているかと聞かれたら、正直な答えは『わからない』です」と話しています。
どのくらいの量が問題なのか、やめれば良くなるのかに答えるには、より大きな研究が必要だというわけです。
「大麻はてんかんの薬になる」という話と、「大麻をほぼ毎日使う人ほど発作が多い」という話は、一見すると矛盾しているように聞こえます。
けれども、薬になっているのはTHCを含まない精製されたCBDで、店に並ぶ大麻はTHCが中心だという違いを思い出すと、この2つは同じ植物の別の顔を見ていたのかもしれません。
「植物由来だから体に優しい」ではなく、「何がどれだけ入っているのか」を問うことが、これからは大切になりそうです。
どうやら「天然だから安心」という理屈は、「野菜ジュースを飲んだからポテトチップスはセーフ」と同じくらい当てにならないようです。
参考文献
Daily Cannabis Might Make Epilepsy Worse (Neuroscience News)
https://neurosciencenews.com/daily-cannabis-epilepsy-worse-31268/
Futurity (Futurity)
https://www.futurity.org/frequent-cannabis-use-epilepsy-3347402/?utm_source=rss&utm_medium=rss&utm_campaign=frequent-cannabis-use-epilepsy-3347402
元論文
Frequent cannabis use and the association with seizure burden in drug‐resistant epilepsy
https://doi.org/10.1002/epi.70456
ライター
天道銀河: 科学、歴史、心理、宇宙、生き物、テクノロジーなど、気になるものにはジャンルを問わず首を突っ込む雑食系ライターです。ひとつの分野を深く極めるというより、さまざまな知識を広く集め、意外なつながりを見つけるのが好きです。専門家ほど深くはなくても、好奇心の広さなら負けません。「こんな世界もあるのか」と思えるような、面白くてわかりやすい話題を届けていきます。
編集者
ナゾロジー 編集部
